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2024-12-07 08:15:33

プラチナ価格の上昇は秋以降か

2023/3/8
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

2023年の金価格は地政学的リスクやドル指数の調整期待で上昇していたが、足下、米国の経済統計の改善を受けて金融引締め観測が再び高まっていることから、実質金利の上昇が金価格を押し下げている。ただし金価格は恐らく米国と対立する、ないしは米中露に対して中立の立場を取っている国々が、「万一のリスク」に備えて金を物色していると考えられること、戦争勃発への懸念、などから高止まりすると考えられる。

※金価格の決定要因に関する解説は、以下のコラムをご参照ください。

2020/10/26 金価格の決定要因〜構成要素に分解することで見えるもの
2020/11/11 金価格への為替の影響
2020/11/25 リスク・プレミアムの分析
2021/1/27  過去のイベントリスクを分析する(その1)
2021/6/16  過去のイベントリスクを分析する(その2)
2021/8/25  過去のイベントリスクを分析する(その3)


プラチナ価格も昨年後半に強含み推移していたが、年明け以降、水準を一貫して切下げる動きとなっている。これは同じPGMであるパラジウムも同様であるが、最大消費国である中国の輸入が鈍化しているほか、中国のリオープン(経済活動再開)の遅れや、欧州の自動車販売が前年比で回復してはいるものの、まだ低水準であることなどの景況感の影響が大きい。また、米国のタカ派的な金融政策が継続していることも影響しているだろう。ただし、パラジウム価格がプラチナ価格を極端に上回っていた時代は、パラジウム価格の高騰や、ロシアに対する制裁強化(もしくはロシアからの調達回避)を背景に、プラチナ・パラジウムの長きにわたるネガティブ・スプレッド時代は終了に向かう可能性が出てきた。

出所:CME

しかし、WPICなどの見通しでは2023年のプラチナ需給は3年振りに▲30万4,000オンスの供給不足に転じる見込みであり、さらに「投機を除いた需給バランス」も2014年以来の供給不足(▲9万2,000オンス)に転じるとされている。通常、需給バランスを議論するときは投機目的の需要も含めるべきだが、投機筋は売買の判断材料に「実需の需給バランス」を用いている。これは取引の8割以上が投機と言われている為替などの市場とはかなり状況が異なる。
2022年がロシアの軍事侵攻に伴う「異常年」であったことから2022年ではなく2021年と比較すると、供給は鉱山全体で▲47万8,000オンスの572万6,000オンスに減少。特に南アフリカの電力問題(Eskom問題)に起因する生産減少と、景気減速に伴う新車販売の減速、それに伴うスクラップ供給の減少が供給面の重石となっており、全体で▲67万5,000オンスの減少となった。

需要は宝飾品需要がほぼ変わらず、工業向け需要が▲13万5,000オンスの減少となるが、半導体供給不足の解消や中国のゼロコロナ政策の見直し、価格高騰を受けたパラジウムからプラチナへの代替需要の増加により、自動車触媒向け需要が+65万3,000オンス増加する見込みであり、投機を除く需要は+51万9,000オンス、投機を含む需要は+77万6,000オンスの増加になると予想されている。価格に対する説明力が高いETFの管理残高は減少基調にあるが、今後、需給ファンダメンタルズのタイト化観測を受けて積増しの動きとなる可能性がある。

出所:WPIC

今後、欧州・中国・米国の景気の回復動向、各国中央銀行、時に米FRBの金融政策動向にプラチナ価格は左右されると考えられるが、世界景気は循環的に秋頃まで減速が予想されること、米国の金融引締めペース加速、期間の長期化によってプラチナ価格への影響が小さくない株価の調整リスクが高まることが予想されることから、価格上昇は世界景気が底入れする秋以降になるのではないか。

このとき、最大生産国南アフリカの電力供給環境の改善が見られないことや、ロシアNorilsk Nickelの減産計画、パラジウム価格高騰によるプラチナへのシフト加速、脱炭素の取組み強化の中での水素向けの需要増加観測などを材料に、想定以上の上昇になるリスクは無視できない。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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