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金価格の決定要因〜構成要素に分解することで見えるもの
2020/10/26
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
金は有史以来、重要な装飾品の1つであり、その価値を万人が認めていることから価値の保存手段、交換手段、通貨として用いられてきた。そうした歴史的背景もあり、欧米の金融機関を中心に資産運用のポートフォリオの中に組み込まれてきたが、株式市場や債券市場も含めた市場参加者の間に広く認知され、今まで金にそれほど興味がなかった個人投資家にも浸透したのはおそらく2008年におきたリーマンショック以降だろう。「安全資産」としての金の重要性が再認識されたためである。
なお、安全資産とは「いくばくかのコストを支払えば、いつでも換金できる資産」であり、高い取引流動性(いつでも売買が可能)を有する資産のことを指す。その観点で米国の国債は安全資産に分類されているが、米国債がデフォルトする可能性がゼロではないので、厳密にいえば安全資産とは言えない。金は人々がそのもの自体に価値を認めている限りは安全資産といえる。
ではその金価格は市場でどのように決まるのか。このコラムでは金をはじめとする商品価格の変動要因や価格動向の分析、そのリスクを中心に解説していく予定だ。
商品に限った話ではないが、価格動向を分析するうえでまず必要なのが、分析対象価格と同じ動きをする指標を探し出すこと。その指標を見つけることができたとしても、値動きがたまたま同じ動きになっている可能性があるため、その理由と背景を考える作業を行う。これらの作業はほとんどの商品に当てはまるが、特に後者が重要である。
金の場合、リーマンショック以降は「米国の10年の実質金利」との相関性が高いことが分かっている。リーマンショック以前はこの関係性が薄く、その他の要素の影響が大きかったが、それはこのコラムで別の機会に説明させていただく予定だ。
米国の10年実質金利は、10年の米国債利回りから10年の米期待インフレ率を引いたものとして定義され、「米国の10年物価連動債の利回り」のことである。物価連動債は1981年に英国で発行されたことを皮切りに取り扱いが増加、米国では1997年から発行が始まった比較的新しい商品だ。インフレ発生時にリターンが増える商品であり、インフレリスクをヘッジ(回避)するために利用することができる。金はインフレになるとその価格は上昇するため、古くからインフレリスクを回避するために用いられてきた。そのため、両者の間に高い相関性があっても不思議はない。
米国の10年実質金利は、米国の10年債利回りと、物価の期待上昇率で構成されている。しかしグラフの通り金価格と米10年実質金利がピッタリと同じ動きになっている訳ではない。そのため、金価格を米10年実質金利で表すと、以下のようになる。
米10年実質金利=米10年国債利回り−期待インフレ率・・・式(1)
米国の10年実質金利は、米国の10年債利回りと、物価の期待上昇率で構成されている。しかしグラフの通り金価格と米10年実質金利がピッタリと同じ動きなっている訳ではない。そのため、金価格を米10年実質金利で表すと、以下のようになる。
金価格=「米10年実質金利」要因+α・・・式(2)
この時のαは実質金利でできない部分であり、通常プラスの値となる。このαのことを弊社は「リスク・プレミアム」と定義している。予期せぬ「リスク」が発生する可能性があるときなどに米国の物価連動債で説明できる価格(弊社では基準価格と定義している)にさらに上乗せして取引される上乗せ価格のことであり、戦争や各国の国債がデフォルト(破綻)してしまうような信用リスクが高まった場合などに上昇する傾向がある。
式(2)に式(1)を代入すると、金の価格は以下の式で表すことができる。
金価格=「米10年国債利回り」要因−「米10年期待インフレ」要因+「リスク・プレミアム」要因
米10年国債利回りは米国の景気動向と米国の金融政策、期待インフレ率は景気動向並びに原油価格動向の影響を受けやすく、リスク・プレミアムはこの2つの要因で説明できない部分だ。このように金価格の決定要素を分解することで、金価格動向の分析がよりやりやすくなるのだ。
なお、今回と同様の分析を米国の2年実質金利や5年実質金利を対象に行ってみたが、金価格に対する説明力はさほど高くなかった。10年金利との相関性が高いのは、恐らく金を比較的長期的な投資と判断して取引が行われているからだろう。市場価格動向分析を行う場合は、足元説明力が高い指標を用いるのが基本となり、説明力が低下した場合には「なぜ機能しなくなったか」を考えればよい。その意味でこの式を規準にして金価格動向を考えることはそれなりに意義がある。その判断や今後の見通しを考えるのはアナリストの仕事だが、まずは現時点において、「実質金利が低下した時に金価格が上昇する傾向がある」、ということを理解していただければよい。
具体的には、米国の10年長期金利の上昇は金価格の下落要因となり逆は上昇要因、10年期待インフレ率の上昇は金価格の上昇要因となり逆は下落要因、リスクが高まればそれは価格の上昇要因であり逆は下落要因、ということである。
価格の構成要素を明らかにして細分化することで、日々のニュースが金価格にどのように、どの程度の影響を及ぼすのかが理解しやすくなり、実際に事業で金を購入したり販売したりする人も、投資目的で購入する人もそのタイミングや価格水準の判断が可能になるのではないだろうか。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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