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2021-12-04 02:24:08

銅価格急上昇の背景

2021/3/10
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

非鉄金属のベンチマークである銅価格が高値での推移となっている。銅は多くの工業品に「銅線」として用いられる必須金属の1つであることから、景況感を示す指標となりやすい。「世界最大のカルテル」であるOPECのように生産を調整して価格に影響を及ぼすような団体が存在せず、基本的には個別企業の採算を見ながら増減産が行われるため、景気の現状を反映しやすい。そのため、景気の動向を示す指標として「ドクター・カッパー」と呼ばれている。しかし、多くの工業金属において同じであるが、近年では中国の消費が増加しているため「中国の景気を表す指標」としての色彩が強まっているとも言える。足下の銅価格の上昇は、この最大消費国である中国の需要が増加していること、南米などの主要生産国の生産が滞っていることが影響している。

まず価格に最も影響すると考えられる需要は、上述の通り最大消費国である中国の経済活動回復で増加観測が強まっている。2020年の世界の銅需要は前年比▲1.3%の2,318万5,000トンとなったが、中国の需要は逆に前年比+2.5%の1,253万8,000トンと増加している※。中国の銅消費シェアは54.1%に及ぶため、銅の需要動向は中国の消費動向に左右されやすい。中国政府はコロナウイルスの影響による景気減速を回避するため電線網整備などの経済対策を決定、実施してきた。経済対策は予算措置が行われれば景気と関係なく実行されるため、経済対策の内容が電線網の整備や配電が必要な住宅セクターの規制緩和などの場合、銅需要の増加に繋がりやすい。

※本稿では国別の需要・生産データが取得できたため、チリ銅委員会(COCHILCO)のデータを用いている。銅を初めとする鉱物資源の需要や生産のデータは、調査機関が異なると、その集計方法や推測方法によって異なることが多い。ただし需要と供給の動向は概ね似たような結果となる。

  • 出所:COCHILCO

一方、銅鉱山生産は南米のシェアが大きく、同地区の生産状況に供給が左右されやすい。銅は鉱山の形式にもよるが、基本的には地下などの密な環境で生産されているところも多く、今回のコロナウイルスの影響を免れなかった。銅の鉱山生産は前年比▲1.3%の2,038万6,000トンと減少している。生産国は新興国が中心であり、新興国は医療体制が十分でない国も多く、鉱山での感染防止策を求めてストライキが発生したり、コロナウイルスの影響によって人員の確保がままならなかった鉱山が出たりするなどの供給リスクが顕在化したためである。また、コロナウイルスの影響によって人やモノの移動が制限される中、銅のスクラップ回収品の供給が減少したことも、銅供給を減少させた。

  • 出所:COCHILCO

この結果、2020年の精錬銅需給は▲15万5,000トンの供給不足になったと考えられる。なお、2021年は生産の回復で供給不足幅は▲7万トン程度に縮小すると予想されているため、中期的には需給面で銅価格には下押し圧力が掛りやすい。

とはいえ、こうした統計データや見通しは、リアルタイムで発表されている訳ではなく、足下の需給バランスを考える上では使い難い。そのため、足下の精錬銅の需給バランスを見る上では取引所などの在庫動向が参考にされることが多く、最も市場が注目しているのが「ロンドン金属取引所指定倉庫在庫(LME指定倉庫在庫)」の水準である。現在のLME指定倉庫在庫の水準は上述の通り、需給バランスがタイト化しているため減少しており、中国による資源の爆買いが発生して顕著な供給不足に陥ったリーマンショック前の2005年〜2006年頃の水準まで低下している。この頃の銅価格の水準が8,000ドルを超えていたことを考えると、今の水準まで銅価格が上昇していても需給ファンダメンタルズの観点から違和感はない。ただしここに、FRBを初めとする各国中央銀行の積極的な金融緩和や、中国・米国を筆頭に各国の財政出動を伴う経済対策への期待が高まっていること、さらには環境重視型社会へのシフトに伴う電化社会の到来観測から、投機的な買いが入りさらに銅価格の上昇を押し上げ、実力ベース以上に価格を押し上げていることもまた否めない事実である。

  • 出所:LME

今後については、2021年7月に中国共産党結党100周年記念のイベントを控えており、中国政府も景気減速は回避したいと考えている可能性が高く、恐らく景気刺激策は継続すると予想されること、これに加えて米国も1.9兆ドルの経済対策のほか、4年で2兆ドルといわれるクリーン・インフラ投資を行う可能性もあり、需要面は官製需要に牽引される形で堅調に推移すると予想される。一方で生産国の生産状況は回復見込みではあるものの、コロナウイルス対策の進捗度合いに依拠せざるをえず、回復ペースは緩慢と見られる。前述の通り、2021年の銅需給バランスは供給不足のままと予想されることも勘案すると、当面、銅価格は底堅く推移すると予想される。

しかしここまでの過剰な経済対策に対する警戒感も根強く、米国ですんなり財政出動をともなう経済対策が可決・執行されるかどうかは現時点では不透明であること、米景気回復期待の高まりで長期金利が上昇、ドル高が進みやすい状況にあることは「銅現物を必要としない」投機的な取引を行っている市場参加者の利益確定売りを誘いやすいため、一時的に価格は下落すると予想される。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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