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史上最高値を超えた銅〜企業業績への影響
2021/5/12
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
LME銅価格は上昇し、史上最高値を更新した。価格上昇の背景は複数要因の「合わせ技」によるものだ。いずれも新型コロナの感染拡大が原因であるが、1.コロナの影響による景気減速を回避するため、中国が大規模な経済対策を行った、2.銅の生産国は新興国が多く、かつ、密な環境での生産を余儀なくされている生産現場も多いため供給に支障が出ている、3.中国に対抗するため米国が大規模な財政出動を伴う経済対策・インフラ投資を検討している、4.環境重視型社会へのシフトに伴う需要増加、などが主な要因だ。
このうち、1.2.については既に顕在化しているイベントであるが、3.4.に関してはまだ「期待」の段階であり実需に影響をまだ及ぼしておらず投機的な市場参加者に買いを促す材料にはなった。為替などの市場を見ていると商品市場においても投機筋が価格動向を決定している、と考えがちである。しかし、為替などと異なり流動性がそれほど高くないため投機筋が売りたい、買いたい、と思った価格でいつでも取引ができる訳ではない。そのため、工業金属やエネルギーなどの市場では投機筋のシェアが実需筋のシェアを上回るケースはそれほど多くなく、価格動向は現物の需給動向が左右しやすい。
もちろん、投機筋の売買動向が価格を左右することはあるが、前提となる需給動向を把握することがより重要である。しかし商品の場合、残念ながらリアルタイムで現物の需要と供給のデータを把握することは不可能である。例えば銅の場合はICSG(国際銅研究機関)の需給バランスデータが参考にされることが多いが、これも数ヵ月遅れて事後的に把握出来るものである。そのため、市場参加者はLMEの指定倉庫在庫の増減を参考に、足下の需給バランスを判断することが多い(詳しくは「銅価格急上昇の背景」をご参照ください。)足下のLME銅価格とLME指定倉庫在庫動向を確認すると現在の在庫水準は歴史的に見ても低く銅価格の上昇を肯定している。
もう1つ市場参加者が注目している指標としては「限月間スプレッド」がある。先物取引の場合、受け渡しをするタイミングによって価格が異なる。銅の場合、ニュースで使われる価格はすぐ受け渡しを行うスポット渡しの価格(キャッシュ価格)か、3ヵ月後に受け渡しを行う3ヵ月先渡し価格のいずれかであることが多い。そして、この2つの価格は同じではない。通常、3ヵ月後に受け渡しを行う金属の場合、倉庫の保管料と借り入れ金利、その他の手数料が加味されて、3ヵ月先渡し価格の方がキャッシュ価格よりも高い。しかし、局面によってはキャッシュ価格の方が3ヵ月先渡し価格よりも高いことがある。このときのキャッシュ価格と3ヵ月先渡し価格の関係を「バックワーデーション」と呼び、キャッシュ価格の方が3ヵ月先渡し価格よりも低い状態のことを「コンタンゴ」と呼ぶ。キャッシュ価格が先物価格よりも高い場合「需要と供給のバランスがタイト」であることを表している。
例えば「3ヵ月待てば、今、銅を買うよりも10%安い値段で買える」状態にあったとしよう。この時、毎月一定の銅を消費して加工品を作っている企業の場合「3ヵ月後の方が安いなら今は買わないで、3ヵ月後に受け渡せばいいや」と考えて工場を止める、ということはまずあり得ない。銅の現物が現時点で不足している場合、「多少高くても良いから売って欲しい」と考えて現物の買いが増加するため、3ヵ月先渡し価格よりもキャッシュ価格が高くなるのだ。そのため、3ヵ月先渡し価格とキャッシュ価格の「スプレッド」は現在の現物需給バランスを占う上での判断材料となる。
グラフはLME銅の3ヵ月先渡し価格とキャッシュ価格のスプレッドの推移である。面グラフがマイナスの数字になるほどバックワーデーションの度合いが強くなり(需給逼迫)、逆にプラスになると弱くなる(需給緩和)が、足下の銅のスプレッドは縮小傾向にあり需給バランスには緩和圧力がかかっていることになる。このことを考えると、銅の価格上昇は追加の材料が出て来なければ一旦調整する可能性が高い、と判断される。恐らく米国の景気回復期待を受けたドル高の進行が現物を必要としない投機筋の手仕舞い売り圧力を強める、価格高騰やコロナの影響緩和で鉱山生産が回復する、といったことが切っ掛けになるのではないだろうか。
しかしそれまでは銅価格は高止まりする可能性が高い。5月以降、企業の四半期決算が本格化するが、銅を始めとする素材価格の上昇が業績にどのように影響しているかに注目が集まる。銅やアルミ、鉄鋼製品などの工業金属価格の上昇はガソリン価格のように日々の私たちの生活に支障が出るほどの影響がでるわけではないが、製造業を中心に調達コストに影響を及ぼす。グラフは法人企業統計の自動車と同部品を製造する企業の仕入高の推移と銅価格の推移であるが、両者の間には高い相関関係があることが分る。もちろんこの中には銅以外の鉄やアルミ、その他の原材料、部品の調達コストも含まれているため注意が必要だが、概ね景気動向に連動しやすい商品の値動きは似ることが多いため銅と連動性が高くても不思議はない。
問題はこのコストの変化に企業がどのように対応しているか、価格転嫁が出来るのか、あるいはそれが出来ないならばどのような対策を行っているかである。単純な値引きが行われているのであればその企業に対する納入業者の業績悪化要因となるし、価格をより川下の企業に転嫁しているのであればその企業の業績悪化要因となる。この点に注目して企業決算を確認することは今後、より重要になるだろう。なお、日本の製造業の場合は市場価格の変動が調達コストに反映されるまでに時間差が存在するため、2021年1−3月期、2020年度決算に足下の素材価格の上昇が影響を及ぼしていない可能性はある。その場合は2021年4−6月期決算ないしは2021年度決算見通しに注目する必要があろう。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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