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金の下落余地、実は限定的か
2021/4/14
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
金価格は一時2,000ドルを超え3,000ドル〜4,000ドルまで上昇する、といったコメントをよく目にしたが、現在は1,700ドル台での推移となっている。「過去のイベントリスクを分析する(その1)」で解説したとおり、金の価格が急速に上昇するときは「リスク・プレミアム」が上昇するケースが多い。1971年8月15日にニクソン大統領が金とドルの固定価格での兌換停止を決定、金本位制が崩壊した時に金の価格が上昇したのは、ドルの価値が低下して本源的価値(金がそもそも持っている価値)に見合う形に収れんしたためと考えるのが妥当だ。そのため、3,000ドル〜4,000ドルといった価格水準が肯定されるには、金の価格変動が人為的に抑制されていたものが何らかの理由で解除されることが必要になってくるが、今のところそのような価格統制は行われていないため、現時点で3,000ドル〜4,000ドルに上昇すると考えるのはやや無理がある。その可能性を信じて買っておくことも意味がない訳ではないが、どの程度の時間軸でそれを達成しようと考えるかが重要だろう。
少なくとも目に見える範囲(1〜2年程度)で考えた場合、市場環境が大きく変わってしまうビッグ・イベントを予想するよりは、このコラムで説明させていただいた、米国の10年債利回り、期待インフレ率、リスク・プレミアムの3要素に分解し、その影響度を過去の例と比較することが引き続き有効な分析手法であると弊社は考える。地道な作業になるため敬遠する人も多いと思うが、米国の10年債利回りの予想は多くのアナリストが提示しているため入手が容易だ。期待インフレ率の予想を出しているアナリストはそれほど目にしたことがないが、それに関しても期待インフレ率は「基本的には」原油価格、特に米国の場合だとWTIとの連動性が高いため、WTIの予想を参考にすれば良い。原油も今では多くのアナリストが予想するようになってきたため、情報は入手しやすい。この3要素に分解することで「金価格はある程度この水準になる」、という予想が可能になる。そしてこの3つの要素のうち、どの要素の説明力が高いかを考えることで分析が容易になる。その観点では、現在、金価格に対する説明力が最も高いのは米10年債利回りであることから(期間3ヵ月の相関。10年債利回りは▲0.91、期待インフレ率が▲0.80、リスク・プレミアムが0.50)、しばらくは米長期金利の動向を分析することで、「メインシナリオ」を構築することができるはずだ。逆に、説明力が比較的低い要素(この場合期待インフレ率と、リスク・プレミアム(為替はこちらに含まれる))が価格に大きく影響を与えるケースは「リスクシナリオ」と整理すれば良い。
下のグラフは、米10年債利回り(軸はプラスマイナス反転している)と金価格の推移であるが、両者の間には昨年の8月以降、特に高い相関性があることが分る。そして、金の価格が変動して債券利回りが変動するということはあまりみたことがない。これは金が米国債のように定期的に政府による入札が行われている訳ではないことに起因すると考えられる。今後、米国の長期金利はコロナからの回復や、経済対策の実施による景気回復期待から恐らく上昇圧力が掛ると予想される。しかし、同時にFRBは現在の経済環境において長期金利の上昇を容認するとは考え難い。そのため、10年金利が上昇するとしても恐らく2%程度が目先のピークになると考えられる。2%の線をグラフに引くと、このときの金価格は1,600ドル程度となる。景気が回復して金利上昇が続けば金価格は下落することになるが、今のところ1,600ドル程度が下値の目処になるのではないだろうか。「もう金上昇の時代は終り」とみる市場参加者は多いが、予見可能な期間では金価格の下落余地はそれほど大きくないと予想される。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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