ココがPOINT!
足元の日経平均株価は6月中旬にかけての上昇で、4月24日高値から6月4日安値までの下げ幅の半値戻し水準の21326.28円をいったん上回る場面がみられたものの、その後は上値の重い展開となっている。外部環境としては、6月28日から開催予定の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で米中首脳会談が開催される運びとなったことや、米連邦公開市場委員会(FOMC)にて、当局者の約半数が利下げを支持し、米国での利下げ期待が高まったことがNYダウなど米主要3指数にプラスに働いた。
米株高や米中摩擦に対する過度な懸念の後退を背景に、東京市場でも海外短期筋による6月末に向けた買い戻しの動きが意識され、日経平均は75日移動平均線レベルまで戻す時もあった。一方で、米国とイラン情勢に対する緊張感の高まりや、為替相場においてドル円が106円台まで突入するなど、1月以来の円高・ドル安水準となるなか、日経平均の戻りは鈍くなっている。また、東証1部の売買代金は、2兆円割れの商いの薄い営業日が目立っており、現状は日本株に対する本腰の入った買いは確認されていないようだ。
大統領就任3年目の株高
市場関係者の間では、米国株式の代表的な指数であるNYダウの値動きは米大統領選挙の動向と何らかの関係性があるとの見方が存在している。1960年以降のデータを基にすると、大統領選が行われた年の株価指数(年末)が前年末の水準を下回ったのは1984年、2000年、2008年の3回にとどまる。大統領選挙の年は株高になりやすいようだ。
株安となった3回について、2000年はドットコムバブルの消滅、2008年はリーマン・ショックの影響を強く受けており、いずれも政権交代が起きている。1984年についてはレーガン大統領が再選を決めた年だが、レーガン政権の一期目に日本の自動車産業を標的とし、日本政府と日本の自動車業界に対して対米自動車輸出の自主規制受け入れを認めさせた経緯がある。また、レーガン政権は日本の投資・金融・サービス市場が閉鎖的であると非難し、米国企業の市場参入を促すことに力を貸したことが評価されたとの意見もある。
なお、民主党・共和党政権いずれの場合も、大統領就任から3年目が最も株高になる傾向があることが確認されている。市場関係者の間では「就任3年目に最も株高になるのは、2期目(再選)を意識した景気対策などへの市場の期待が高いことが関係している」との見方が一般的のようだ。トランプ大統領就任後に米国株式は上昇したが、就任2年目の2018年末のNYダウ(23327.46)は1年目である2017年末の水準(24719.22)を下回った。
しかしながら、7月にも予想される利下げや米中貿易協議における米国側の利得などを市場が評価すれば、「就任3年目の株高」が今回も再現される可能性がある。そうなった場合、2019年末のNYダウは史上最高値(26951.81)を更新し、2020年のトランプ大統領再選の可能性はより高まることになるかもしれない。
- ※アノマリー(anomaly)とは、科学的常識、原則からは説明できない現象のこと。ここでは大統領選挙前や大統領就任後の特定の時期に株価上昇が頻発するケースのことを指す。
2014年との比較で消費水準は小幅な低下にとどまる可能性
安倍首相は6月25日、衆参同日選を見送り、参院選を単独で行うことを正式に決めた。これにより、今年10月に消費税率が10%に上がることも確定的となった。株式市場関係者は、2014年の消費増税が日本経済に大きなダメージを与えたことを実感しており、今回も消費増税が持つ負のインパクトを警戒している。内閣府の「日本経済2014−2015」(ミニ経済白書)によると、2014年4月実施の消費税増税は、2014年において個人消費を1兆円弱押し下げたと推計している。
これまでのところ、消費税増税前の「駆け込み需要」の発生は特に確認されていないが、消費増税の実施が最終的に決まった場合、増税実施前にかけて「駆け込み需要」が発生し、この影響を受ける銘柄などが強い動きを見せる可能性は残されている。ただし、増税によって実質的な所得水準が低下し、それに連動するように実質的な消費水準が低下することについては、「中長期的に経済成長を阻害する一因となる」と指摘されており、悪影響があるとみている。
ただ、今回のケースは税率引き上げが2ポイントであることから、2014年との比較で前倒し消費は拡大せず、実質的な消費水準は小幅な低下にとどまると予想されている。単純計算では、税抜価格が変わらない場合、増税による税込価格は1.85%(1.10÷1.08−1)の上昇にとどまる。消費税率が10%に引き上げられた時点で実質ベースの所得水準は、1.85%低下するが、2%程度の賃金上昇が発生すれば、理論的には消費税率引き上げの影響はほぼ相殺されるとみられている。
首脳会談での完全決着は期待薄か
報道によると、中国商務省は6月24日、中国の劉鶴副首相とライトハイザー米通商代表、ムニューシン財務長官が電話で会談したと発表した。また、トランプ大統領と習近平国家主席は、6月28−29日に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて、29日に首脳会談を行う見通し。6月25日の閣僚級の電話協議では、難航する貿易問題がさらに悪化することを防ぐ狙いがあったとみられている。
ただ、米国側はさらなる追加関税を構えて、知的財産権の保護などで中国側に法改正などを要求しているもようであり、この要求に対して中国は法的拘束力のある合意は受け入れ難いとの立場を変えていないようだ。双方の主張内容における隔たりは決して小さくないとみられる。
市場関係者の間では「中国はトランプ政権がファーウェイの経営をひどく圧迫していることに強く反発しており、短期間での合意形成は困難」との声が聞かれている。しかしながら、懸案事項について閣僚級の協議を継続することで米中首脳が合意すれば、米株式市場は首脳会談を評価し、NYダウなどの株価指数は底堅い動きを見せる可能性はあるとみられている。
米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)を中心に、主要国・地域の中央銀行が金融緩和に前向きな姿勢を示している。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降、米国ではS&P500種株価指数が約2カ月ぶりに史上最高値を更新するなど株高が鮮明だ。対する日本でも投資家心理の改善を背景に日経平均株価が連れ高となっているが、心理的節目とされる21500円を前に失速し、米国株と比べ出遅れ感が強い。
6月第2週(10日〜14日)の投資主体別売買動向を見ると、現物株と先物の総合で売り越し主体が外国人(1751億円)、個人(1038億円)となる一方、買い越し主体は事業法人(1566億円)、自己売買(1219億円)となった。事業法人については企業の自社株買い、自己売買については日本銀行の上場投資信託(ETF)買い入れが中心とみられる。つまり、純投資家の売りを企業の余剰資金と緩和マネーが吸収するという「カネあまり相場」だ。但し、自社株買いや日銀のETF買いは積極的に上値を追うものではなく、日経平均の21000円水準でのこう着感はこうした需給状況によるものと考えられる。
FRBが金融緩和に踏み切り、米国株が上昇すれば「リスクオン」ムードの波及で日本株にも恩恵があるだろう。しかし、日本株の米国株に対する出遅れ(アンダーパフォーム)が解消に向かうとは考えづらい。第1に、大規模な金融緩和を継続している日銀はFRBなどと比べ政策余地が乏しいとの見方が市場で根強く、FRBの利下げ観測が強まるほど円高圧力がかかる状況だ。
日本企業の今期想定為替レートはおよそ1ドル=109円、トヨタ自動車<7203>などは110円としており、実勢レート(107円台)でも輸出企業の採算悪化が懸念される。第2に、米中の通商摩擦の激化などから世界的に景況感が悪化しており、「世界の景気敏感株」とされる日本株は海外勢から見て手掛けづらい。また、10月の消費増税も実施される公算が大きくなり、海外勢からすると経済成長の鈍化が見込まれる日本株に積極投資する理由は乏しい。7月に入ると企業の4-6月期決算が意識されてくるだろうが、米中摩擦の激化や円高の影響で下振れ懸念が台頭する可能性がある。
なお、緩和相場の様相が再び強まると、「成長株」と「割安株」のバリュエーション格差も拡大に向かうと考えられる。
提供:フィスコ社