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2024-04-21 10:22:39

金価格は高止まり〜地政学的リスクの趨勢が水準を決定か

2024/1/24
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

2023年10月のイスラエルとハマスの対立による「ガザ紛争」勃発後、金価格は上昇し、その後上げ幅を拡大した。この間2つの要素が金価格を押し上げたことが分かる。1つは地政学的リスクを背景とする安全資産需要の高まりで、もう1つが2000年以降担保されてきた実質金利の低下によるものである。2023年12月開催のFOMCでは3会合連続で利上げが見送られ、FOMCメンバーの政策金利予想を示すドット・チャートも、前回9月のものからハト派的なスタンスに変化、2024年の利下げ見通しも年2回から3回に1回増加した。これを切っ掛けに市場参加者はFOMCでの早期利下げを織り込み、長期金利・実質金利が低下、金の実質金利で説明可能な部分である「金基準価格」が上昇したことが、金価格を2,000ドルを超える水準に押し上げたと考えられる。

この結果、しばらく金価格に対する説明力が低下していた実質金利の説明力が増し、直近3ヵ月の相関分析では10年実質金利の金価格に対する説明力は相関係数ベースで▲0.78まで上昇した(直近1年のデータを元にした分析では▲0.10程度と、ほぼ無相関の状態)。そのため、今後の金価格を占う上では、再び実質金利動向を把握することが重要になると考えられる。もう1つの構成要素であるリスク・プレミアムであるが、複数の指標を対象に、リスク・プレミアムの動きを比較すると、米FF金利とリスク・プレミアムはほぼ連動して上昇してきた。米FF金利上昇の上昇は各年限の金利上昇を促し、低格付企業のデフォルトなどの信用不安を高め、金利の上昇がドル高を誘発しそれに伴う新興国の財政破綻リスクに備えるといった安全資産需要を高める形となった。

では、どの程度の影響があるか。過去5年データを元に感応度分析を行うと、FF金利+1%の上昇で金の基準価格は▲150ドル低下、リスク・プレミアムは+160ドル上昇することが分る。2024年はFOMCメンバーの見通しでは▲0.75%の利下げ、市場参加者の予想では▲1.50%の利下げが見込まれている。FOMCメンバーの見通し通りであれば、金の基準価格は+112.5ドルの上昇、リスク・プレミアムは▲120ドル低下し、仕上がり▲7.5ドル程度の下落になる。仮に市場参加者の見通し通りであれば、▲15ドル程度の下落が想定される。結果、金価格は高止まりするものの、徐々に水準を切下げる展開が予想される。

しかし、リスク・プレミアムの構成要素である地政学的リスクは、上記のような感応度分析では正確に算出できない。そのため、リスク・プレミアムから低格付企業のクレジット・デフォルト・スワップの要因を切り出し、その残差を「地政学的リスク要因」であると仮定すると、ハマスがイスラエルを攻撃する前の地政学的リスク要因は640ドルだったが、直近(原稿を執筆している2024年1月18日時点)では860ドルまで上昇している。この差の220ドルが「ガザ紛争のリスク・プレミアム」と考えられるため、同地区での戦闘終結後は、足下の金価格を2,000ドルとすれば、1,800ドル程度までの下落余地があることになる。ある意味、政策金利動向よりも影響が大きそうだ。ただし、景気が減速する中では各地で暴動が発生しやすく、今回のガザ紛争も周辺地域に波及する恐れもある。また今は目立ったニュースが出ていないが、一時、治安が悪化していた北西アフリカ地域でも紛争が起きる可能性があることを考えると、この地政学的リスク要因の剥落は容易ではないかもしれない。

出所:ICE、Bloomberg

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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