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低迷続くプラチナ価格〜年初以降の反発も
2023/11/22
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
年初から上昇していたプラチナ価格は今年の4月にピークとなる1,134.95ドルまで上昇したのち、ほぼ一貫して価格水準を切下げ、足下の価格は900ドル割れと、昨年8月に付けた821.28ドルの安値が視野に入りつつある状況だ。WPICの予想では、2023年のプラチナの需給バランスは、投機需要を除いて2015年以来初めて供給不足に陥る見通しであり、この通りであれば価格は上昇してもおかしくなかった。これは恐らく、2022年対比で増加を見込んでいた自動車向けの触媒需要が想定ほどではなく、さらに投機を除く現物需給バランスのタイト化を背景に、増加すると見込んでいた投機需要の増加が期待ほどではなかったことが影響しているとみられる。そもそも、世界の自動車販売の増加率は今年の4月に前年比+24.5%(出所:LMC Automotive)でピークを付けた後に伸びが減速しており、プラチナ価格もほぼこの伸びの減速に従って水準を切下げる動きとなっている。中国は景気刺激のために自動車向けの補助金の延長を決定しているが、戦略的に進めている新エネルギー車向けであり、プラチナやパラジウムの需要増加の影響は限定されたようだ。
また、プラチナに関してはパラジウム価格が高いことに伴う経済合理性の改善から自動車の排ガス触媒向けにプラチナの代替需要が増加するとされてきたが、想定ほどプラチナへのシフトが進んでいないことも価格押し下げに影響していると考えられる。この背景には、実質的にロシア産のパラジウムは制裁の影響があっても世界に流通していること、コロナ以降進んだ世界的なインフレを沈静化させる目的で、各国中央銀行は積極的な金融引締めを行っていること、金利上昇による投資環境の悪化がパラジウムからプラチナヘのシフトを阻害している可能性があること、が考えられる。
このような状況で、足下のプラチナ価格に対する説明力の高い指標をピックアップすると、圧倒的にCFTCの投機筋のネット買越しポジションの説明力が高い。しかし2000年以降のデータを元に3ヵ月データを対象とする相関分析を行うと平均が0.67であるが、ロシアがウクライナに軍事侵攻した2022年2月以降のデータを対象にすると、相関係数は0.90まで上昇する。これは上記の現物需給バランスの分析にも関係するが、実際の現物の需給バランスが想定よりもタイトではないため、投機的な動きの価格に対する説明力が増しており、想定よりも需給が緩和していることが価格を下押ししていると考えられる。となると、今後、プラチナ価格の上昇があるとすれば、需給バランスのタイト化が見られる必要があるが、そのためには景気の回復が必要になってくる。今のところIMFやFRBの見通しを考慮すると来年の7〜9月頃が景気底入れのタイミングになると予想されるため、その頃までは低水準での推移を余儀なくされるのではないか。
ただ、市場はこれまで中国のゼロコロナ後の景気回復を過剰に期待しすぎていたが、今度は不動産危機後の中国の回復を過小評価している可能性もあるため、来年初以降に期待される同国の経済対策の実施で想定よりも早く中国の需要が回復する可能性もある。またFRBの金融引締めの効果が顕在化し、想定よりも早く金融緩和が起きる可能性も有り得る。足下の価格動向ヘの投機筋の売買動向が大きな影響を及ぼしていることを考えると、ウクライナヘの軍事侵攻後、最高水準まで積み上がっていたショートポジションにサプライズの買い戻しが入り、上昇に転じる可能性も排除しない。
出所:CFTC、NYMEX
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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