金・プラチナ取引 > 金・プラチナ取引とは(金・プラチナ・銀の特徴) > 金・プラチナについてもっと知ろう!「マーケットレポート・コラム」 > 貴金属・コモディティレポート > 2023年後半以降の原油価格見通し
円建て金は年内強含みも年後半には下落か
2023/9/1
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
金価格が上昇し、小売でグラム1万円を超えた。1万円という数字にそこまで大きな意味はないが、金価格がインフレや信用不安などの安全資産需要が高まるタイミングで上昇しやすいことを考えると、日本でもインフレリスクが何十年か振りに意識されている中で非常に象徴的な出来事である。超長期の値動きをドル建てと円建てを振り返ると、1980年代は円建て金価格(旧TOCOM金価格、現OSE金価格)は、まだドル円が360円の固定相場制から変動相場制に移行する中で徐々にドル円レートが円高にシフトしていた時期であり、相対的に円が弱かったことから、円建て金価格がドル建て金価格よりも割高な状態だった。その後、ほとんどパフォーマンスが変わらない時期があるが、リーマン・ショック以降は円建て価格のパフォーマンスがドル建て価格のパフォーマンスを下回った。これはリーマン・ショックを契機とする米金融緩和の影響で、円高が進行していたことによる。その後、再びパフォーマンスの差はなくなったが、ここに来て円建て価格がドル建て価格を大きく上回る形となった。
もう少し直近の価格を確認するとグラフの通りで、2022年春頃から円建てのパフォーマンスがドル建てのパフォーマンスを上回っている。明らかに円安が急速に進行したことの影響が大きい。通常、円安が進行する局面ではドル高が進行し、金価格も下落することが多いのは過去を振り返って確認した通りだが、今回は金価格と為替の動き方が今までと異なることを示唆している。そのため、今後の円建て金価格動向を占う上では、ドル建て金価格とドル円の2要素に分けて考える必要が出てくる。
まずドル建ての金価格だが、このコラムでは金は実質金利で説明可能な部分(基準価格)と、それ以外の部分(リスク・プレミアム)で構成されるとしている。これはこの15年間担保されてきた分析手法だ。しかし、米国の利上げが加速し、ロシアがウクライナに軍事侵攻した2022年以降この関係性は担保されなくなり、リスク・プレミアムの金価格に占める比率が大幅に上昇している。これは今回に限った特殊な話ではなく、実は1970年頃にも同様のことが起きている。
(1970年代)
・中東戦争 :有事の金
・オイルショック・インフレ :期待インフレ率上昇で金価格上昇
→ただしFRBの引締めで実質金利は上昇して影響低下、金基準価格低下
・ニクソン・ショック :準備金としてのドル回避の動き
(今回)
・ロシア・ウクライナ戦争 :有事の金
・ロシア戦争による原油価格上昇 :期待インフレ上昇で金価格上昇
→ただしFRBの引締めで実質金利は上昇して影響低下、金基準価格低下
・ロシアに対するドル決済禁止 :準備金として中立国・反米国が準備資産としてのドルを回避し、金にシフト
・米金融引締め加速による信用不安 :低格付企業破綻、ドル高進行を背景とする新興国財政破綻などの信用リスク回避の安全資産としての金
この中で最も影響が大きいのは、ドル決済禁止によるドル回避の動き(中立国・反米国での金準備積み上げの動き)であると考えられる。今後も米中が対立し、世界が緩やかに東西に分離、ドルを回避する動きは今後も続くと考えられること、いったん準備金として積み上げた金を売却する場合は、金価格が低下して保有メリットがなくなる、あるいは戦争や財政危機で売却せざるを得なくなるといった事象の発生が必要となる。そのため、基本的にどの国も金を保有し続ける可能性が高く、長期にわたって金の水準を押し上げることになると予想される。
中期的にはFRBの金融引締めによる信用不安の高まりも影響が小さくない。現在、市場の見通しでは年内1回程度の利上げがあった後、来年は▲1%程度政策金利が引き下げられると予想されている。通常、政策金利低下は実質金利の低下を促すため、金の基準価格上昇を通じて金価格を押し上げるが、今回は安全資産としての需要の影響が大きいと考えられるため、利下げバイアスが強まれば信用不安が後退、安全資産需要が減少して逆に金価格は低下すると予想される。
以上を勘案すると、年内は米国が利上げをするため金のリスク・プレミアムが上昇してドル建て金は高止まり、さらに米金利上昇でドル高・円安が想定されることから、円ベースの価格は上昇、という形になると予想される。しかし、年内で米国の利上げが終るのであれば、信用不安の後退でドル建て金も軟調になり、ドル円も円高に振れるため円建て国内価格は下落に転じると予想される。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
金・プラチナについてもっと知ろう!
当コラムに関してご留意頂きたい事項
- 当コラムは投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定はお客さまご自身の判断でなさるようお願いいたします。
- 当資料に示す意見等は、特に断りのない限り当資料作成日現在の(株)マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)の見解です。当資料に示されたコメント等は、当資料作成日現在の見解であり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
- 本資料は当社が信頼できると判断したデータにより作成しましたが、その正確性、完全性等について保証・約束するものではありません。
ご注意事項
- 買付時の手数料は、売買代金の1.65%(税込)、売却時の手数料は無料です。
- 本取引は金・銀・プラチナの価格変動により、投資元本を割り込むことがあります。
- 本取引は、政治・経済情勢の変化および各国政府の貴金属地金取引への規制等による影響を受けるリスクがあります。
また、かかるリスクが顕在化した場合、当社の提供するサービスの全部、または一部が変更、停止されるリスクがあります。 - 本取引は為替相場の変動により損失を被ることがあります。
- 本取引は、システム機器、通信機器等の故障等、不測の事態による取引の制限が生じるリスクがあります。
- 本取引は売値(Bid:お客さまが売ることの出来る値段)と買値(Ask:お客さまの買うことのできる値段)の差(スプレッド)があります。
- スプレッドは固定されるものではなく、需給バランスや、政治・経済情勢の変化にともない、当社の任意で変更いたします。
商品先物取引に関するご注意事項
商品先物取引のリスクについて
商品先物の価格は、対象商品の価格の変動等により上下しますので、これにより損失が発生することがあります。また、商品先物取引は、少額の証拠金で当該証拠金の額を上回る取引を行うことができることから、時として多額の損失が発生する可能性を有しています。したがって、商品先物取引の開始にあたっては、下記の内容を十分に把握する必要があります。
- 市場価格が予想とは反対の方向に変化したときには、短期間のうちに証拠金の大部分又はそのすべてを失うこともあります。また、その損失は証拠金の額だけに限定されません。
- 損失を被った状態で建玉の一部又は全部が決済される場合もあります。更にこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。
- 商品取引所は、取引に異常が生じた場合又はそのおそれがある場合や、JSCCの決済リスク管理の観点から必要と認められる場合には、証拠金額の引上げ等の規制措置を講じることがあります。
- 市場の状況によっては、意図したとおりの取引ができないこともあります。例えば、市場価格が制限値幅に達したような場合、転売又は買戻しによる決済を希望しても、それができない場合があります。
- 市場の状況によっては、商品取引所が制限値幅を拡大することがあります。その場合、1日の損失が予想を上回ることもあります。
商品先物取引の手数料について
商品先物取引のインターネットでの取引にあたっては、下記のとおり所定の手数料がかかります。
金(限日現金決済先物取引):片道1枚につき16.5円(税込)
銀(限日現金決済先物取引):片道1枚につき82.5円(税込)
白金(限日現金決済先物取引):片道1枚につき16.5円(税込)
商品先物取引は、クーリング・オフの対象にはなりません
商品先物取引については、注文の成立後、その注文を解約すること(いわゆるクーリング・オフ)はできません。
金融商品取引法等に関する表示
商号等 株式会社SBI証券 金融商品取引業者、商品先物取引業者
登録番号 関東財務局長(金商)第44号
加入協会 日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会、一般社団法人 日本STO協会、日本商品先物取引協会