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2024-04-21 11:16:31

円建て金は年内強含みも年後半には下落か

2023/9/1
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

金価格が上昇し、小売でグラム1万円を超えた。1万円という数字にそこまで大きな意味はないが、金価格がインフレや信用不安などの安全資産需要が高まるタイミングで上昇しやすいことを考えると、日本でもインフレリスクが何十年か振りに意識されている中で非常に象徴的な出来事である。超長期の値動きをドル建てと円建てを振り返ると、1980年代は円建て金価格(旧TOCOM金価格、現OSE金価格)は、まだドル円が360円の固定相場制から変動相場制に移行する中で徐々にドル円レートが円高にシフトしていた時期であり、相対的に円が弱かったことから、円建て金価格がドル建て金価格よりも割高な状態だった。その後、ほとんどパフォーマンスが変わらない時期があるが、リーマン・ショック以降は円建て価格のパフォーマンスがドル建て価格のパフォーマンスを下回った。これはリーマン・ショックを契機とする米金融緩和の影響で、円高が進行していたことによる。その後、再びパフォーマンスの差はなくなったが、ここに来て円建て価格がドル建て価格を大きく上回る形となった。

もう少し直近の価格を確認するとグラフの通りで、2022年春頃から円建てのパフォーマンスがドル建てのパフォーマンスを上回っている。明らかに円安が急速に進行したことの影響が大きい。通常、円安が進行する局面ではドル高が進行し、金価格も下落することが多いのは過去を振り返って確認した通りだが、今回は金価格と為替の動き方が今までと異なることを示唆している。そのため、今後の円建て金価格動向を占う上では、ドル建て金価格とドル円の2要素に分けて考える必要が出てくる。

まずドル建ての金価格だが、このコラムでは金は実質金利で説明可能な部分(基準価格)と、それ以外の部分(リスク・プレミアム)で構成されるとしている。これはこの15年間担保されてきた分析手法だ。しかし、米国の利上げが加速し、ロシアがウクライナに軍事侵攻した2022年以降この関係性は担保されなくなり、リスク・プレミアムの金価格に占める比率が大幅に上昇している。これは今回に限った特殊な話ではなく、実は1970年頃にも同様のことが起きている。

(1970年代)
・中東戦争 :有事の金
・オイルショック・インフレ :期待インフレ率上昇で金価格上昇
 →ただしFRBの引締めで実質金利は上昇して影響低下、金基準価格低下
・ニクソン・ショック :準備金としてのドル回避の動き

(今回)
・ロシア・ウクライナ戦争 :有事の金
・ロシア戦争による原油価格上昇 :期待インフレ上昇で金価格上昇
 →ただしFRBの引締めで実質金利は上昇して影響低下、金基準価格低下
・ロシアに対するドル決済禁止 :準備金として中立国・反米国が準備資産としてのドルを回避し、金にシフト
・米金融引締め加速による信用不安 :低格付企業破綻、ドル高進行を背景とする新興国財政破綻などの信用リスク回避の安全資産としての金

この中で最も影響が大きいのは、ドル決済禁止によるドル回避の動き(中立国・反米国での金準備積み上げの動き)であると考えられる。今後も米中が対立し、世界が緩やかに東西に分離、ドルを回避する動きは今後も続くと考えられること、いったん準備金として積み上げた金を売却する場合は、金価格が低下して保有メリットがなくなる、あるいは戦争や財政危機で売却せざるを得なくなるといった事象の発生が必要となる。そのため、基本的にどの国も金を保有し続ける可能性が高く、長期にわたって金の水準を押し上げることになると予想される。

中期的にはFRBの金融引締めによる信用不安の高まりも影響が小さくない。現在、市場の見通しでは年内1回程度の利上げがあった後、来年は▲1%程度政策金利が引き下げられると予想されている。通常、政策金利低下は実質金利の低下を促すため、金の基準価格上昇を通じて金価格を押し上げるが、今回は安全資産としての需要の影響が大きいと考えられるため、利下げバイアスが強まれば信用不安が後退、安全資産需要が減少して逆に金価格は低下すると予想される。

以上を勘案すると、年内は米国が利上げをするため金のリスク・プレミアムが上昇してドル建て金は高止まり、さらに米金利上昇でドル高・円安が想定されることから、円ベースの価格は上昇、という形になると予想される。しかし、年内で米国の利上げが終るのであれば、信用不安の後退でドル建て金も軟調になり、ドル円も円高に振れるため円建て国内価格は下落に転じると予想される。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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