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2024-11-05 12:20:15

2023年後半以降の原油価格見通し

2023/8/23
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

原油価格が上昇している。弊社は年末にかけての景気減速で価格が下落すると見ていたが、6月末にこのコラムで原油価格上昇シナリオの中で想定していなかった、米景気が後退しない中でのOPECプラスの減産といった強材料に加え、中国の経済環境悪化に伴う大規模経済対策期待が重なったことが影響したと考えられる。

上期(カレンダーベースの上期、6月まで)を振り返ると、上期の世界経済を語る上では、1.欧米の金融引締め動向、2.米国の「ノーランディング」期待、3.中国の大型経済対策期待が大きなテーマだった。欧米中央銀行はインフレ沈静化を政策の最優先課題として金融引締めを実施、これまで欧米中央銀行は政策金利を引き上げてきた。過去の動きを見ると「景気がよくなり、景気が過熱して原油価格が上昇し、インフレになるため利上げを実施、原油価格下落を受けて再び金融緩和へ」という流れだった。しかし、今回は原油価格が下落しても金融緩和が起きていない。既に、各国中央銀行の金融引締めと、循環的な景気減速で欧米の製造業の景況感は悪化している。通常、景気のピークからそこまで2年程度であるため、前回の米国製造業の景況感のピークが2021年第3四半期頃であることを考えると、景気の底は2023年第3四半期頃となる。言葉を換えると2023年第2四半期までは米景気は減速しても不自然ではない、ということだ。一方、中国の製造業PMIは年初の「ゼロコロナ解除後」は力強い回復となったが、それ以降は減速している。理由は、欧米のペントアップ需要が一巡、サービス消費にシフトする中、中国が海外に売れるのはモノであり、サービスではないこと、習近平政権になって以降、都合3回発生している住宅バブルの問題が重くのしかかっていること、が背景だ。結果、欧米の利上げ継続による景気鈍化、そして中国景気の減速が、上期の商品相場を押し下げた。

今後に関しては、米製造業は循環的に景気が回復してもおかしくないものの、実質金利がプラスに転じ、これまでの金融引締めの影響がサービス業に影響を及ぼすのはこれからと考えられる。過去、政策金利を引き上げた後はほとんどのケースで景気後退局面が訪れており、今回も同じ展開になると考えるのが妥当ではないか。また、市場が期待するように景気後退がなくこのまま景気が回復するならば、中央銀行が躍起になって抑え込もうとしてきたインフレ懸念が再燃する可能性もある。結局、このような場合は「どちらか」ではなく中間が正しいことが多いため、やはり当初の見通し通り早ければ今年の10月〜12月、遅くとも来年4月〜6月には景況感に明るさが見えると予想される。

原油価格は景気動向に左右される。弊社の当初予想では年後半に掛けての景気減速による原油価格の下落を、OPECプラスの減産が支える形となり横這い推移とみていたが実際は上昇している。このことは「景気が想定通り減速していない」ことの裏返しとも言え、その景気が減速していない中でOPECプラスが減産をしたことがより価格を押し上げたと考えられる。通常、OPECの減産は価格が下落した時に価格を下支えする目的で行われるが、今回は「先手」を打ってきたとも言える。過去、景気が後退していないにもかかわらず減産が行われたことが数回あるがこのときはいずれも価格が上昇に転じている。

しかし、市場の予想通り今後景気が減速するならば、このタイミングで必要以上に減産を行って原油価格を高い水準に押し上げていることは、価格上昇による需要減少(いわゆるレーショニング)を引き起こし、年後半の価格低下余地を拡大するリスクを高めることになる。「景気の底割れ」が回避され、ソフトランディングするならば、年明け前後と期待される景気底入れのタイミングから価格は上昇に転じることになるが、この状況でもOPECプラスが減産を遵守し、サウジアラビアが自主的な減産を続けるならば、Brent原油で90ドルを超える上昇になるシナリオも有り得る。引き続き今年の後半から来年に掛けては上昇・下落、両方のシナリオを想定しておく必要がある。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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