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2024-04-21 11:46:30

エルニーニョ現象発生は食品価格を下押しも残る上昇リスク

2023/6/14
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

ウクライナ南部、ドニプロ川のカホフカダムが今般、何者かの攻撃ないしは攻撃の過程で受けたダメージの影響か決壊し、ウクライナに甚大な被害が発生している。ウクライナ政府の発表では、今回の浸水によって今後2〜3年の間、50万ヘクタールの農地で農業ができなくなる可能性があるとしている。ロイターが報じるところでは、穀物・油糧種子生産全体の約4%に相当する400万トンがこの地域で生産されているとされ、穀物・油脂供給に大きな影響が出る可能性が出てきた。市場ではこの報道を受けて小麦価格が高騰する局面があったが、足下、シカゴ定期価格は大きな上昇も見せずに安定しており、今回の問題の影響が限定されると市場は見ているようだ。

仮に同地区の生産が完全に停止し、4%相当の小麦生産が減少したと仮定すると、米農務省のデータを元にすれば、2023-2024穀物年度のウクライナの小麦生産は1,750万トンであるため、これに単純に4%を乗じると▲70万トン減少の1,680万トンとなる。世界の小麦需給バランスは、直近の米農務省統計では405万トン(前年度▲427万トン)の供給過剰が見込まれており、仮にウクライナの生産が▲70万トン減少したとしても、335万トンの供給過剰となるため、この状況でも価格には下押し圧力が掛りやすい。価格に対する説明力が高い、需要を生産で割った「需給率」も78.8%(前年79.0%)とダム決壊の影響前後で変りはなく、恐らく現時点では価格に対する影響は限定されると考えられる。なお、洪水の被害が広がり、穀物を保管するサイロや輸出設備・港にも影響が及べばこの限りではない。

今回、小麦価格に持続的な上昇圧力が掛っていない背景には、長らく穀物生産に影響を及ぼしてきたラニーニャ現象が終了し、エルニーニョ現象の発生が見込まれていることがある。過去データを元にすると、ラニーニャ現象発生時よりもエルニーニョ現象発生時に穀物価格が下落しているケースが多いためだ。ただし、エルニーニョ現象発生後にラニーニャ現象が発生することも多く、それが主要な冬小麦の播種の時期に重なれば再び小麦を含む穀物生産・供給のリスクになる怖れはある。また、エルニーニョ現象だからといっても、必ずしも毎回価格が下落するわけではなく、今回のダム決壊とはやや異なるが、局所的な洪水がインフラを破壊して供給が停止する可能性もあるため、価格が上昇しないと決め打ちするのはリスクと言える。

例えば日本の食料品(生鮮食品を除く食料、以下食料品価格)の前年比上昇率とエルニーニョ現象・ラニーニャ現象の発生時期の動向を比較すると、2007年以降はラニーニャ現象発生時に食料品価格が上昇しているが、2007年以前はむしろエルニーニョ現象発生時に食料品価格が上昇しているケースが多い。この理由は米国の2007年エネルギー独立・安全保障法成立を受けて、エタノールやバイオ燃料といった穀物由来のエネルギー使用が義務づけられ、その後の脱炭素の流れで穀物・油脂類が注目されたため、絶対価格水準が上昇、海外市況の影響をより強く受けるようになったためと考えられる。なお、今年は食料品価格上昇につながりやすいラニーニャ現象ではなく、エルニーニョ現象の発生が見込まれていることから、この傾向通りであれば日本の食料品価格にも下押し圧力が掛ることになる。しかし、2007年よりも前はどちらかと言えば国内要因で食料品価格が上昇していた可能性があり、普通のエルニーニョ現象ではなく、スーパーエルニーニョ現象になるならば、この頃と同様に食料品価格が上昇する可能性も否定できない。また、アベ・クロダノミクス以降続く円安進行も時間差をもって輸入物価の押し上げに寄与するため、消費者にとって負担が重い状態が続くことが予想される。

出所:総務省、米海洋大気庁、CBOT

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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