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ニッケル価格は調整〜2023年後半からの構造的上昇リスク
2023/4/26
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
2023年のニッケル価格は、年初〜2月に掛けては中国正月が例年よりも早く始まることからそれに備えた在庫積増しの動きで上昇したが、2月以降は水準を切下げる動きとなっていた。米国の雇用関連統計の強さや、それを背景とする金融引締め強化を示唆するFRBパウエル議長の議会証言を背景としてドル高が進行したことが切っ掛けである。また、これに加えて、米金融引締め強化がその発生の一因となったが、米シリコンバレー銀行やシグニチャー銀行、スイス金融大手クレディ・スイス銀行が破綻、金融危機発生への懸念が高まり、市場参加者のリスク回避姿勢が強まった影響をニッケル市場も免れなかった。この一連の動きを受け、ニッケル価格はLME指定倉庫が低水準であることを反映した需給タイト化を受けて上昇してきたが、昨年3月から始まった米国の金融引締めとロシアの軍事侵攻時に起きた「青山集団事件」を契機にロングポジションの解消が進んだ事を受けて水準を切下げた。
しかし、米・スイス金融当局の迅速な対応により危機が回避されたこと、同時に米国の経済統計の鈍化を受けて利上げが5月頃で終了する、との見方が強まったことがドル安を進行させたため、売られすぎ感が強かったニッケルの買い戻しを加速させた。多くの工業金属は、最大消費国が中国であり、中国の需要動向が価格を左右しやすいが、足下、ゼロコロナ解除に伴うペントアップ需要が顕在化しているため、ドル安進行は素直に価格上昇要因となる。また、昨年後半から中国政府が、不動産業界の危機回避を目的に住宅市場規制を緩和したことで不動産市況に若干の改善が見られていることも、ステンレス鋼価格を押し上げ、原料であるニッケル価格の上昇要因となった。
出所:LME
中国の住宅販売は回復し始めてはいるものの、まだ前年比マイナスの状態が続き、中国の不動産在庫の水準も北京などの大都市で2年分程度積み上がっている状態。中国政府の一連の対策の効果で不動産セクターは徐々に正常化に向かうと期待されるが、ニッケルの新規需要に繋がる不動産開発投資の回復にはまだ時間が掛ると考えるのが妥当だろう。EV車向けのバッテリー需要が増加しているとは言え、ニッケルの用途はまだ6割がステンレス鋼向けであり、中国の不動産市況の影響の方がEV販売増加よりも影響が大きい。不動産市況は恐らく緩やかにしか回復しないと予想される。というのも、中国の人口動態がピークアウトしたため、再び中国で不動産バブルが弾けた場合、その処理が極めて困難になるため、そこまで不動産市況を加熱させる訳にはいかないからだ。また、EV車販売もまだニッケル市場を動かすほどの大きな動きにはなっていない。
以上を考えると、足下のニッケル価格は比較的高い水準となっているが、恐らく今年の後半にかけて水準を切下げ、年後半から来年に掛けて景気が底入れするタイミングで再び上昇に転じると考えられる。今のところニッケル価格に大きな影響を与えているとは言い難いEV向けの需要も、世界的なEV車シフトの流れを勘案するとニッケル需要に構造的な変化をもたらし、長期的な価格の上昇要因になると予想される。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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