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2024-12-09 10:46:45

肥料・農薬価格の下落で穀物価格は軟調も残る上昇リスク

2023/4/12
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

米気象予報センター(CPC)はほぼ3年続いたラニーニャ現象が収束し、今年の夏から秋にかけてエルニーニョ現象が発生する、との見通しを示した。エルニーニョ現象は発生すると観測地点の水温が上昇し、ラニーニャ現象は水温が低下するが、大気が不安定になって異常気象が発生しやすい。一応、冷夏や暖冬、猛暑、厳冬といった一定の傾向はあるものの、必ずしもその通りにはならない。実際、2022-2023年の冬、北半球はラニーニャ現象の発生により記録的な厳冬が予想されていたが、蓋を開けてみれば逆に記録的な暖冬となった。

既に穀物価格はラニーニャ現象の収束を見越して下落し、ロシアがウクライナに軍事侵攻する前の水準まで低下した。3大穀物価格の各経済統計との相関性を比較すると、総じて最も相関性が高いのが海洋ニーニョ指数であり、今後上昇の見通しであるため穀物価格にはマイナスに作用することが予想される。市場参加者の多くが過去のデータの傾向を元に取引を行うことが多く、ラニーニャ現象発生は価格上昇、エルニーニョ現象発生は価格下落、という整理になっているケースが多いため、予報段階ではこのような動きとなりやすい。恐らく今年の年後半に掛けて穀物価格は下落することが予想される。

また、米国の10年期待インフレ率も穀物価格に対する影響が大きい。米国はインフレ抑制目的で金融引締めを行っており、10年期待インフレ率は昨年4月がピークで3.04%まで上昇していたが、現在は2.3%程度まで低下している。そして、10年期待インフレ率は原油価格との相関性が高く、原油価格は需要が景気動向に左右されるため、今後、欧米の景気が循環的な減速局面入りしていることを考えるとOPECプラスの追加減産はあるが年後半〜来年に掛けて原油価格が下落する可能性は高く、同時に期待インフレ率も低下が予想される。この結果、穀物価格にも下押し圧力が掛ることになるだろう。

実際、米国の穀物の生産コストのうち電気料金、肥料、化学薬品(農薬など)の占める比率は、直近のUSDA(米国農務省)のデータでは、トウモロコシが26.1%、小麦が22.5%、大豆が16.0%となっており、原油価格の下落はこれらのコストの下押し要因となるため、穀物価格の発射台となるコストも低下が見込まれる。なお、現在の肥料や原油価格の水準を元に2023年の原油に連動しそうなコストを算出すると、現在の見通しでも2021年度程度までしか低下しない見込みだ。

エーカーあたりの米トウモロコシ肥料・農薬・燃料電気代とWTI価格 グラフ画像

出所:USDA

しかし、生産コストに占める比率が高いということは、逆にこれらのコストが上昇すれば価格の押し上げ要因になる、ということである。仮に米国が早期に利下げに踏み切れば原油価格が上昇することもあり得るし、来年第1四半期頃と思われる景気底入れが年内にずれ込むといったことがあれば生産コストが押し上げられ、穀物価格にも上昇圧力が掛ることになろう。また、エルニーニョ現象は必ずしも穀物生産にプラス(価格にはマイナス)の天候になる訳ではないこともリスク要因の1つである。また、直近でもラニーニャ現象の影響による渇水で、米国の播種に影響が出るとの見方も出ている。基本、穀物価格は下落見通しであるが、まだ上昇リスクを完全に排除できる状況にはない。

この他にも、農産品生産に必要な化学肥料の主要供給国がロシア、ベラルーシ、中国であることを考えると、日本を含む西側陣営ヘの供給量が政治的な意図で絞られるリスクは排除できない。西側諸国による中国への半導体関連製品の供給規制に対して、中国が報復措置をとる可能性はある。日本にとって中国は重要な食料品の輸入相手国である。日本の2022年の食料品・動物輸入は金額ベースで8兆4,530億円だが、そのうち首位が米国で1兆9,120億円(22.6%)だが、2位は中国で1兆1,176億円(13.2%)に及ぶ。エルニーニョ現象の発生や、インフレ期待の低下で穀物を含む食料品価格には下押し圧力が掛る可能性があるものの、「意図的に輸出してもらえない」あるいは「価格が引き上げられる」というリスクは残ろう。価格のみならず、日本が直面する「食の安全」のリスクは改めて小さくはない。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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