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今年はエルニーニョ現象で農産品セクターは軟調か
2023/3/22
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
先日、米気象庁の気象予報センター(CPC)は、ほぼ3年続いたラニーニャ現象が収束し、今年の夏から秋にかけてエルニーニョ現象が発生する、との見通しを示した。エルニーニョ現象は発生すると観測地点の水温が上昇し、ラニーニャ現象は水温が低下する。その結果、大気が不安定になって気候が変化する。なお、エルニーニョ現象が発生すると予想されている夏〜秋(6-8月・9-11月)の気象状況を簡単にまとめると、以下の通りである。
(日本)
夏:冷夏・多雨
秋:低温・やや少雨
(世界)
夏:南米〜アフリカまで「赤道の南側」の気温が上昇、北半球は西欧州を除いて気温低下
秋:南米・東南アジアの気温が上昇、オセアニアが少雨、北アジア・北米が低温
ただしここで重要なのは、必ずしも上記の通りの気象状況になるわけではなく、あくまでそうなる傾向が強い、というだけである。実際、ラニーニャ現象は北半球に厳冬をもたらすと言われているが、欧州は逆に記録的な暖冬となった。しかし、市場参加者は過去の傾向値を見ながらトレードを行うことが多い。農産品の場合は生産地の気温や土壌水分、日照時間や湿度などが生産に影響を与え、価格にも影響を与えてきた。しかし、過去のデータの蓄積があるため、多くの農産品でラニーニャ現象発生は価格上昇、エルニーニョ現象発生は価格下落、という整理になっているケースが多く、この見通し通りであれば今年の夏〜秋にかけて、多くの農産品価格に下押し圧力が掛る展開になることが予想される。
直近でエルニーニョ現象が発生したのは2018年10月-2019年4月であるが、この間の主要な農畜産品の騰落率を見て見ると弊社が注目している20品目中、11品目の価格が下落しており、最も下落しているのが、現在、上昇が顕著なオレンジジュースで、期間中の騰落率は▲35.8%となっている。次いで下げが大きかったのは小麦(▲17.8%)、次いでロブスタ豆(▲10.7%)、肥育牛(▲10.5%)となった。反対に上昇しているのは豚赤身肉(+35.6%)、ココア(+29.4%)、シンガポールゴム(+24.0%)、粗糖(+15.1%)となっている。
出所:Bloomberg
もちろん、当該作物の生産地における生産状況や需要動向に価格が左右されることは間違いがないため、必ずしもこの関係性が維持される訳ではない。しかし、前回のエルニーニョ現象発生時の騰落状況を把握しておくことは、重要といえるだろう。仮にこのときと同様に農産品価格の下押し圧力が強まるならば、各国政府・中央銀行が気をもんでいるインフレ抑制にも寄与するため、世界経済にとってはプラスの気象見通しといえる。
ただし、これも繰り返しであるが、必ずしも同じ結果になるわけではない点には注意が必要である。というのも、その前のエルニーニョ現象発生時(2015年4月-2016年4月)の農産品の騰落率は、20品目中8品目しか下落していないからだ。しかし、下落した商品を列挙すると肥育牛(▲35.6%)、次いで生牛(▲23.7%)、アラビカ豆(▲9.1%)、ロブスタ豆(▲8.3%)なっており、小麦も▲6.6%、オレンジジュースも▲0.4%と下落している。直近のラニーニャ現象発生時と類似の商品の下落が目立つことに気がつく。また上昇商品上位も、粗糖(+35.5%)、豚赤身肉(+24.8%)、ココア(+21.7%)、パーム油(+20.4%)となっており、やはり類似の商品が上昇しているところは注目に値しよう。
出所:Bloomberg

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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