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ウッドショック再来はあるか?
2023/2/15
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
シカゴ材木価格は世界の材木需給バランスの影響を受けるが、穀物におけるシカゴ定期と同様、米国で受渡される材木の価格であるため米国の輸出入、消費動向に左右されやすい。少し前のデータであるが2020年の米国の材木輸入は前年比+39.3%の80億1,500万ドルに達した一方、輸出は▲9.4%の26億5,900万ドルとなった。輸入の増加と輸出の減少はコロナの影響による外出禁止令、それに伴うウェブ生活への移行の必要性からリフォーム需要が高まったこと、米西部の山火事などの災害の影響で国内需給がひっ迫したためである。
この需給タイト化が2021年5月の材木価格高騰をもたらし、日本国内でも「ウッドショック」として報じられた。この「コロナによる生活圏の変化、ライフスタイルの変化、労働環境の変化」は引越しやリフォームなどの追加的な住宅需要をもたらしたといる。
その後、物流の回復の中で材木価格は下落するが、2021年後半から再び上昇に転じる。これは2021年11月中旬にカナダのブリティッシュコロンビア州が記録的な洪水に見舞われたことによる供給側の問題が材料視されたためだ。米国の2020年〜2022年の材木卸売り在庫率は過去10年の最低水準で推移していたため、まだ米国の景気に過熱感がある中で材木の供給不足が強く意識された。その後、2022年3月から始まった米国の金融引締めの影響で長期金利が上昇に転じ、住宅向けの需要減速感が強まったため材木先物価格は下落、昨年末まで水準を切下げる展開となっていた。
1月中旬頃から材木価格が再び上昇していた。米FRBがインフレ抑制のために行っていた「異次元のペースでの金融引締め」が、ようやくそのペースを鈍化する見通しが強まってきたことが背景である。材木価格を決定する上では、前述の通り、供給面と需要面の影響が無視できないが、1月中旬から2月上旬にかけての価格上昇は需要面の影響によるものと考えられる。というのも、米国の金融引締めが終了に近いと判断される中で、住宅セクター動向に大きな影響を及ぼす長期金利が低下に転じたため、再び住宅販売が盛り返すとの期待が高まったからだ。しかし、1月の米雇用統計やISM非製造業指数が想定を上回る改善となり、金融引締め長期化観測が強まる中で長期金利が再度上昇したことは、足下の価格下落に繋がった。
今後はどうか。基本的に米国の景気は循環的に減速、ないしは減速していなければ金融引締めが強化されて最終的に減速する可能性が高い。そしてFRBの期待通りであれば米国を初めとする先進国の景気は2023年の第三四半期(7-9月期)頃に底入れし、年後半は回復基調に転じると考えられる。しかしそれまでの間は長期金利に低下圧力が掛かるため、景気が減速しながらも住宅向け需要は堅調に推移すると予想される。実際、米10年債利回りと材木価格の間には、2022年3月以降比較的明確な逆相関の関係(10年金利が下がると材木価格が上昇、上昇すると低下)が見られる。また、昨年春以降の材木価格の下落の影響で、主要生産国であり、米国向けの最大の輸出国であるカナダの材木生産が低迷していることも価格を押し上げるだろう。
出所:CME、全米不動産業者協会
また、これまでの価格下落の間、投機筋はショートポジションを大きく積み上げてきた。このことは需給ファンダメンタルズの変化や金融政策の変化(金融引締め終了など)があれば、ポジション解消の買い戻しが入りやすく、上昇に転じるリスクが高いことを示唆している。なお、原油や非鉄金属にように材木先物そのものに投資するETFは組成されていないため、個人投資家がETFを通じて買いを入れ価格を押し上げる訳ではなく、機関投資家の売買動向が価格に影響を与えていることは付言しておきたい。
出所:CFTC
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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