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ドクター・カッパー〜足下上昇も中期的には下落を予想
2023/1/25
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
今年は年初から非鉄金属セクターの推移が堅調だ。今のところ中国の不動産市況の回復がない中で銅価格が急騰している。
中国の経済活動を判断する上で参考になる貿易統計をみると、12月の中国の貿易統計では、銅地金・製品輸入は前年比+14.6%の51万4,049トン(前月+4.0%の53万9,902トン)と過去5年平均を維持している。好不況の判断基準はコモディティの場合過去5年平均との比較が多いため、この水準を「ゼロコロナ解除前」に上回っていると言うことは、それなりに中国の原料調達需要が旺盛であることを示唆している。
一方、精錬銅の原料である銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+2.1%の210万3,029トン(前月+10.0%の241万トン)と過去5年の最高水準で推移している。精錬銅生産は11月が直近のものとなるが、+22.5%の111万5,000トン(前月+8.1%の92万3,000トン)、生産と輸入を合計した供給量は11月が前年比+16.5%の165万5,000トン(前月+5.0%の132万7,000トン)と過去5年の最高水準に達している。
銅地金の輸入の回復、国内生産の増加を考えると中国の需要は政策的なテコ入れによって一時的に急回復していると考えられる。
こうした中国の「リオープン」「リスタート」が前提となる中、昨年決定した不動産セクターの資金繰り支援を中心としたテコ入れ策の実施(不動産バブルを解消するためにも、逆に不動産業の生産・販売活動がある程度回復する必要がある)による期待需要の増加、米国の金融引き締めペースの鈍化を受けたドル高修正によるドル安進行、コロナ・ウクライナ危機によるエネルギー供給制限の影響で供給が長らく不充分だったことで「有事のバッファ」である取引所在庫が歴史的低水準であること、例年よりも早めの春節入りを受けた在庫積増しの動き、といった材料が重なり足下の価格高騰になっていると考えられる。言葉を換えるとある意味これらは短期的な相場の上げ材料、と言えるだろう。また、直近のCOTレポートを見るに、投機筋は昨年4月以降中国のロックダウンを材料に積み上げてきた売りポジションを解消し、新規に買いポジションを積み上げている。これは上述の買い材料が複数重なったことを材料にしたもので、価格上昇に拍車を掛けることになった。また、今後の展開が不透明ではあるが、世界2位の鉱山生産国(2021年実績)であるペルーで、カスティジョ前大統領の逮捕を巡り暴動が発生、鉱山生産減少が今後長期化するリスクも無視できなくなってきており今後の価格上昇要因となり得る。
出所:LME
ではこのまま価格は上昇するのか。直近12月の中国製造業PMIを参考に足下の中国の状況を確認すると総合指数が47.0(前月48.0)と前月を下回り、好不況の閾値である50も下回っている。サブインデックスも前月と同様、全て閾値の50を下回っており、決して製造業の状況が良いとは言えない。
また、中国の「貿易相手」である欧米も景気は減速方向にあるため、輸出需要の鈍化が予想される上、「加工するための原料を輸入する需要」も鈍化が予想されることも、中期的な銅価格の下押し要因となり得る。恐らく春節が終り、2月頃までは調達圧力が鈍化すると予想されるため、価格は秋頃に向けて循環的な調整局面入りすることになるだろう。
その後は、脱炭素、脱ロシア、脱中国といった構造的なインフラ投資需要の増加を長期的なテーマとして銅を含む工業金属セクターの価格は上昇することになると予想される。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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