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2023年原油価格は調整後再び上昇へ
2022/11/24
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
ロシアのウクライナへの軍事侵攻直後の高騰の後、水準を切下げた原油価格は6月をピークに下落に転じ、指標となるBrent原油価格は90ドルを挟む展開になっている。
このコラムでも繰り返し主張しているが、原油価格は需要と供給の両要因で価格が決まり、どちらかと言えば需要面が価格に与える影響が大きく、世界景気は2023年に向けて循環的に減速する見通しであることから、基本的には価格は下落すると予想される。グラフの通り最大消費国の米国のISM製造業指数と原油価格の上昇率を比較すると類似した動きとなっていることが分かる。
ISM製造業指数の「山谷」は在庫投資循環サイクルに依拠した動きとなりやすく、概ね一周期が4年〜5年であり、山から谷までがこの半分の2年〜2.5年となる。景気は昨年後半にピークアウトしていることから、2023年の後半〜2024年にかけて底入れすると予想される。
出所:米供給管理協会、ICE、CME
従来弊社はBrent原油で80ドル、場合によると80ドルを割り込む水準まで価格が調整するとみていたが、恐らくそこまでの調整にはならないと予想される。というのが、OPECプラスが想定外に原油生産を▲200万バレル減産することを決めたためだ。
OPECプラスは「価格が下落した時に協調して価格を維持するために減産を行うカルテル」であるため、今回の行動は彼らの理屈からすれば是とされる。
1993年以降のOPEC(と2016年以降はOPECプラス)の減産による「価格維持効果」を検証すると、協調減産が決定されたのは2022年10月の減産を除くと14回あったが(注:減産を「新たに」決定した回数をカウントしている)、減産開始決定から2ヵ月後に価格が減産決定時よりも上昇していた場合を価格防衛成功、下回った場合に価格防衛失敗と定義すると、14回中10回、価格防衛に成功している(OPECの勝率7割強)。
これを見ていると今回も減産の効果で価格が上昇しそうな感じがする。しかし、14回中4回は価格防衛に失敗している。アジア危機、ドットコムバブル崩壊、リーマン・ショック時、即ち景気が減速局面入りしている時には価格防衛に失敗している。減産によって需給がタイト化するため価格は上昇するが、需給バランスの前提となる「需要」が減速した場合はこの限りではない、ということだろう(この中でかなりインパクトが大きいコロナショック後の減産は、原油価格がそもそも大きく下落、WTIに至ってはマイナスまで下落したこと、各国の大規模な経済対策の実施で景況感が改善、価格防衛に成功しているためやや例外的なイベント)。
現在世界景気が減速していることを考えると、価格防衛は難しいと考えられる。しかし、従来と今回の下落局面での大きな違いは、1.ロシアに対する制裁が行われているためBrentやWTIなどのマーカー原油の需要が増加していること(反対にウラルなどのロシア産原油の価格は割安に)、2.通常、価格が下落する局面では産油国側が歳入を確保するために増産に走りやすいが、2014年のOPECショックによる価格下落以降、上流部門投資が充分に行われていないこと(実際に増産のためのメンテナンスが行われていたのはサウジアラビアやUAEなどに限られるため、その他の国が抜け駆け増産しようと思ってもその能力が充分ではない)、3.脱炭素は継続しており上流部門投資は今後も積極的に行われ無いこと、だろう。即ち、価格は下落するのだが下落余地が限定される可能性が高い、ということである。
そのため、原油価格は米国の金融引締めが一服するとみられる来年春頃までは調整圧力が強まるのではないか。そしてその後は景気の底入れと供給能力の制限、化石燃料の需要構造の変化には時間が掛ることから再び上昇に転じると予想される。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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