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アルミ価格は調整〜ロシア産アルミを巡り乱高下か
2022/10/26
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
LMEアルミ価格の調整圧力が強まっている。価格下落の要因は複数あるが、過去データを元にすると、直近で最もアルミ価格に対する説明力が高いのが米10年期待インフレ率であり、次いでS&P500指数、フィラデルフィア半導体株指数、LMEファンドネットポジション、中国炭という順になっている。このことはこの数ヵ月のアルミ価格の動きが、米FRBの金融政策動向に最も左右され、これを受けた投機筋の動向が価格を決定していることを示唆している。最大生産国である中国の電気のコストである石炭価格の変動は、どちらかと言えば価格の下支え要因という整理だろうか。実際、アルミ価格の急落は、原油価格と同様、今年6月のFOMCから50bpではなく75bpの利上げが3会合続けて行われており、11月会合も75bp、12月も75bpの利上げの可能性が高い。そもそも、米国の金融引締めによるインフレ抑制が、FRBが想定しているペースで起きていないことが先行きの不透明感を増している状況だ。
FRBからすれば景気の減速、またはリセッションがあったとしても早期にインフレを沈静化したいと考えている。これは緩やかな利上げを行う中で、循環的な景気減速は続き、実質と名目の価格乖離が大きくなった場合、先々より大きな利上げやQT(Quantitative Tightening:量的引締め)の規模拡大を余儀なくされ、世界経済が同時にリセッション入りしてしまうリスクが高まってしまうためだ。しかし、インフレ率の説明力が高いアルミ価格は米金融引締めが続く以上、下押し圧力が掛る可能性が高いということになる。今のところ来年の春くらいまで金融引締めが継続する見通しであり、その見通しを額面通り受け取れば来年の4月頃までは軟調な推移が予想される。しかしこの間、ファンド筋のポジション動向を見ると「ロングの手仕舞い」というよりは「新規のショートポジションの増加」が顕著で、これがアルミ価格の押し下げに寄与している。このことは利上げの動きが一巡したり、それを受けて期待インフレ率の低下に歯止めが掛ったり、中国が厳冬で石炭価格が上昇を始めた場合「買い戻し圧力」となるマグマが溜まっているともいえる。
出所:LME
アルミ固有の需給面に関しては、期間構造の指標となるタイムスプレッドは緩和しており、ほぼ全ゾーンでコンタンゴとなっている。LME指定倉庫在庫の増加が影響したようだ。欧州のエネルギー供給リスクが高まり、価格上昇もあって欧州や北米の生産は減少しているが、最大生産国である中国の生産が回復していること、一方で中国の需要が公共投資以外の回復が緩慢であること、ロシア産のアルミ取扱禁止観測を背景に駆け込み的にLME指定倉庫在庫が大幅に増加していること、などが背景にある。
出所:LME
しかし、一旦、駆け込み需要が一巡すれば今度は逆にLMEが取り扱えるアルミの量が減少するため需給がタイト化して価格が上昇する可能性が出てくる。ラニーニャ現象も来春まで5割強の確率で続く見込みであり、ロシアと欧州のエネルギー問題は解消の目処が立たないことから、コスト面、供給面でアルミ価格は下支えされ、底堅い推移になる可能性が高い。
しかし、循環的に景気が減速方向にあること、米国の利上げ、それを受けた欧州の利上げ、新興国の金融引締めが継続する見通しであることを考えると、冬場が終了すれば景気の循環的な減速と相まって調整圧力強まる展開が予想される。その後、循環的な景気回復が期待できるのは2023年後半であり、2023年後半から脱炭素や構造的なインド・中国のインフラ投資需要の増加で再びアルミ価格は上昇に転じると考えられる。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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