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欧州のガス危機は2023年も続く可能性
2022/10/12
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
ロシアがウクライナに軍事侵攻し、ロシアに対する世界的な制裁とそれに対するロシアのエネルギー供給制限などの「カウンター報復」を受けて、欧州は非常に厳しい状況に置かれている。ただ、今回の問題は今年の2月から始まった訳ではなく、昨年から続く2年にわたる話なのだ。
グラフは欧州の天然ガス在庫と欧州の天然ガスの指標価格であるTTFの推移と、「ラニーニャ現象」発生期間を表したものだ。ラニーニャ現象とは観測地域の海面水温が低下することによって発生する現象であり、世界の広範囲の気象に大きな影響をもたらす。エルニーニョ現象の方がなじみがあるかもしれないが、エルニーニョ現象は逆に観測地域の海面水温が上昇することによって発生する現象であり、概ね、ラニーニャ現象とは逆の気象状況をもたらすことが知られている。ただし、ラニーニャだから厳冬、エルニーニョだから猛暑、といった様に必ずしも決まった天候になるわけではない。しかしこの数年をみると、ラニーニャ現象が発生している夏と冬は、北半球で猛暑・厳冬となり、各地で洪水や渇水が発生している。
出所:Eurostat、ICE、NOAA
このグラフはその異常気象発生の影響を端的に表しており、2020年の夏に入る前は欧州のガス在庫が非常に潤沢で過去5年レンジ(グレーの網掛け)を上回っていたが、夏〜冬にかけて急速に在庫が減少している。その後、一時的にラニーニャ現象が沈静化するが、再び2021年の後半からラニーニャ現象が始まり、欧州の在庫は大幅に減少した。この間、欧州では風が吹かず、再生可能エネルギーが充分に機能しなかったため、ガスへの依存が高まったことが在庫減少の背景である。
そして異常気象が続き、欧州が燃料不足に喘ぐ2022年の2月にロシアはウクライナへの軍事侵攻を実行する。報道を見る限り初めは短期決戦をロシアは想定していたようだが、西側諸国がウクライナを支援することで戦闘は長期化し、ロシアからのガス供給の途絶が発生するなかで価格は実に10倍近く上昇することになった。しかしその後、ガス価格は下落している。これは欧州がLNG輸入の増加や景気が悪いことに伴うガス需要の減少を背景に、在庫が積み上がったことが影響している。現在、冬のピークシーズンに過去5年の15%〜20%に相当する需要の抑制を行うことができれば、冬はどうにか乗り越えられそうな見通しが立ったこと、2023年3月には長く続いたラニーニャ現象が収束する可能性が出てきたことも影響している。
しかし、冬を無事に乗り切れたとしても、来年はロシアからのガス供給は恐らく期待できない。今年は夏頃までロシアからのガス供給はあったのだ。誰が破壊したかもうこれ以上追求はできないが、ロシアと欧州を結ぶノルドストリーム1と2が破壊されロシアからのガス供給の再開が困難になっている上、その他の地域のガス生産に支障が出ない保証はない。また今年の冬が想定していたよりも寒くなれば、2023年の春〜冬にかけての在庫積増しの必要量が想定を上回る可能性もある。ロシアとウクライナ・欧州の問題がどのように収束するかまだ予断を許さない状況が続く中、恐らくガス価格は2023年も高止まりすると考えられる。
欧州の物価上昇率(コアCPI)は天然ガス価格との連動性が高く、このまま仮にガス価格が高止まりした場合、物価上昇率も高いままとなる可能性も否定できない。この場合、ECBによるインフレ抑制の金融引締めが過度になり、景気後退時の物価上昇であるスタグフレーション(もう既に欧州では発生していると言っても良いだろう)が長期化するリスクも高まることになる(逆説的だが、本当に景気後退が深刻になれば、そのときはさすがにガス価格は下落すると考えられるが...)。
引き続き、ロシアとウクライナが停戦で合意し、欧州との対立が解消するまではこの綱渡りの状態が続くと予想される。
出所:Eurostat、ICE

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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