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2024-04-13 00:41:54

クレジットリスクを織り込む金価格

2022/9/21
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

弊社は金価格を分析する上で、名目金利と期待インフレ率、それ以外の要因(リスク・プレミアム)の3つの要素に分解して分析を行っているが、この20年近く高い説明力を維持してきた「10年実質金利」の金価格に対する説明力が大きく低下している。値動きを見ると実質金利の変化の影響を受けて金価格が上下する傾向は確認できるのだが、価格の同値性を示す指標である相関分析を直近1年のデータで行うと、▲0.18とほぼ無相関の状態となる。期間10年の相関が▲0.84であることを考えると、長期的には実質金利の金価格に対する説明力はまだ担保されていると考えられる。現在、実質金利と金価格の相関性が低下しているのは、リスク・プレミアムが高止まりしているからである。

出所:CME

金価格の構成要素のうち、リスク・プレミアムは何かしら市場参加者のリスク回避姿勢が強まり安全資産としての需要が増加した時に上昇するケースが多い。価格の相関性に着目すると、このリスク・プレミアムは欧米の低格付・高利回り債発行企業のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とを比較するとほぼ同様の動きとなっており、米利上げや資源価格高騰に伴うインフレが財政状況の厳しい新興国経済に悪影響を与えるだけでなく、先進諸国にも影響を及ぼす懸念、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻の影響で、その他の地域でも武力衝突が発生するのではとの有形無形の不安が金需要を増加させていると考えられる。 現在の欧米のCDSはコロナ・ショック発生直後の水準まで拡大しており、市場での金の安全資産需要が高まっている可能性が高い。

出所:CME、マークイット

しかし、仮に安全資産需要が減少してリスク・プレミアムが過去5年の平均程度に回帰した場合、現在700ドル前後まで拡大しているリスク・プレミアムは、230ドル〜250ドル縮小することになるが、それだけで金価格は▲400ドル程度は下落して1,300ドル程度まで水準を切下げる可能性が出てくる。金価格が下落する場合、「誰かの売り圧力が買い圧力を上回る」必要がある。このとき、金の大手保有者は各国政府・中央銀行、金ETFの2つとなる。政府・中央銀行の金売却は、この数年では米国による経済制裁で資金繰りが悪化したベネズエラと、ロシアの軍事侵攻の影響を受けたウクライナぐらいであり、基本的には有事以外の売却は前提にされていないと考えられる。そのため、金ETFがどの程度減少するかがポイントとなる。

実際、金ETFの金価格に対する説明力は高く、過去10年の相関係数は0.94と高く、簡単な感応度分析すると、金1トンの売却で▲0.4ドル価格が下落するため、金価格が▲400ドル下落するためには凡そ▲1,000トン程度の金ETFが売却される必要が出てくる。この場合、金ETFで保有されている数量のうち、3分の1程度が流出することになり、かなり大きな資金流出となる。なかなかそこまでの下落はなさそうに感じるが、過去、この水準まで金ETFから資金が流出したことはあり全くない話ではない。恐らく今回リスク・プレミアムが低下するとすれば、一連の米利上げやインフレ高進、戦争リスクなどが後退する必要があるが、恐らく利上げが一旦打ち止めになると期待される来年の春頃ではないだろうか。

なお、全く別のアプローチとして、現在金価格に対する説明力が実質金利よりも高い米10年期待インフレ率をそのまま使って分析を行った場合、2023年のWTIの価格を78ドル(弊社分析による予想)とした場合、2023年の金の推計値は1,626ドルとなる。金ETFが金保有手段として浸透する中、金ETF管理残高の全てが売却される可能性は低いこと、新興国も金準備売却を実施するまでのリスク顕在化は今とのところ想定し難いことからリスク・プレミアム剥落による価格下落余地は限定される、と見た方が適切かもしれない。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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