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LME銅価格は上昇も2023年は調整
2022/8/24
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
LME銅価格は一時6,000ドル台まで水準を切下げた。価格下落は春先以降の中国の大規模なロックダウンの影響で経済活動が鈍化したことに加え、米国がインフレ抑制のために現在も継続している金融引締めの影響でインフレ期待が後退、ドル高が進行したことによるものだ。どちらも景気動向や指定倉庫在庫の水準とは関係ない、政治的な要素による下落といえる。今回の下落でこれまで高い相関性が見られていたLME指定倉庫在庫と銅価格の関係が崩壊し、指定倉庫在庫の水準にかかわらず銅価格の水準が大きく低下している。このことだけでも、今回の下落が需給ファンダメンタルズを背景とするものではなく、投機などの実需ではない取引に主導されたものであることを示唆している。
出所:LME
コロナショック発生以降はインフレに連動しやすい商品を物色する「インフレ・トレード」が市場参加者のテーマであり、銅もその対象だった。LME銅価格は中国のロックダウン以降下落を続けてきたが、FRBのインフレ抑制のために金融引締め加速に舵を切ったことで、下期のテーマが「ディス・インフレ」になった可能性があり、7月以降、銅価格の下落ペースも加速した。この下落は投機筋が買いポジションを解消したことに牽引されたものと考えられる。
今後の銅価格動向を占う上で、中国政府の経済対策動向は重要な鍵を握る。世界的な循環的景気減速とコロナの影響による経済活動強制停止に加えて、不動産不況に喘ぐ中国政府は、今後11月頃とみられる党大会までに5.5%としている成長目標を達成するため、経済対策の執行を急ぐと考えられる。公共投資の実施によって景気と関係ない需要が創出されるため、ポジションが軽くなった投機筋がこれを材料に現在買い戻しを入れてもおかしくはない。米国の利上げペースも市場が懸念していたほどのペースにならない可能性が出てきていることから、実需の回復と相まって11月頃にかけて銅価格が上昇する可能性は高い。上海在庫の水準が過去5年レンジを下回って低い水準にあることも価格押し上げに寄与することになろう。今のところ50日移動平均線がレジスタンスラインとして意識されており、短期的にこの水準を上回るか否かが注目される。
出所:SHFE
しかし、直近のFOMC議事録では一連の金融引締めがインフレ抑制効果をもたらしていないとの意見もあり、米国の金融引締めが市場が懸念していたほどのペースにならなくとも、市場が想定してなかった期間、金融引締めが継続される可能性も出てきた。また、2023年にかけては世界的に循環的な景気減速が見込まれることも価格を下押しすると予想される。さらに、最大消費国である中国は、現在2022年の景気の体裁作りのための2023年度予算の一部を前倒し執行(あるいはそれを余儀なくされるほど、中国の足下の景況感、特に不動産市場の悪化は顕著ともいえる)しているため、来年は「財政の崖」が発生することが予想される。このことも銅価格の下げ要因となるため2023年には再び銅価格は下落余地を探る可能性が高いと予想される。
ただしその後は、脱炭素や脱ロシアによる構造的な需要増加と、構造的な需要増加を背景とする資源国の資源ナショナリズムの高まりや銅鉱石品位の低下などから供給面の制約も顕在化するため、長期的に価格が上昇するとの見通しを現時点で変更する必要はないと考える。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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