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日本が購入しているLNGの価格体系
2022/4/27
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
日本は東日本大震災以降、原子力発電所を積極的に利用出来なくなっているため、代替エネルギー源として石炭とLNGを用いている。しかし今回、ロシアのウクライナに対する侵略戦争によってロシアに対する制裁を日本も強化する見通しであり、石炭やLNGの調達にも大きな影響が出ると予想される。今回のレポートでは日本がどのようにLNGを購入し、どのように我々の生活や工業活動に影響をするか解説したい。
まず、日本が輸入しているLNGは以下の通りとなっており、ロシアが輸出に占める比率は10%程度と比較的大きなシェアとなっている。輸入されたLNGのうち6割が電力に用いられ3割が都市ガスとして民生用・業務用に用いられる。そして、発電に占めるシェアはLNGが4割と最も大きく(次いで石炭火力でおよそ3割)であり、非常に重要な熱源である。
この前提で、仮にロシアのガス供給がゼロになったとすると発電の2.4%が影響を受けることになる。これを補うには、他の国からLNGを追加で調達してくるか、あるいは他の熱源でカバーする必要が出てくる。なお、ロシアから輸入を継続していても、していなくても、猛暑になったり厳冬になったりした場合は、追加でLNGを調達しなければならないことがある。ガスは液化しているとはいえ保管が難しく、予め大量に貯蔵しておくことが難しい。近年では異常気象の発生頻度が増えているため、その時になって急遽、調達を増やさなければならないケースは少なくない。
出所:財務省
LNGの購入契約は大きく2つに分かれる。1つは産ガス国と長期契約を結んで安定的に一定数量を購入する長期契約ベースの調達、もう1つはその都度、必要なガスを市場で調達するスポット契約ベースの調達である。長期契約、スポット契約とも売買に当たっては様々な指標が用いられるが、長期契約がJCC(Japan Crude Cocktail、日本の通関統計の原油・粗油の平均価格)ベース、スポット契約がJKM(LNG Japan Korea Marker)ベースで取引されることが多い。
よく新聞やテレビで「天然ガス価格が高騰しています」といって取り上げられるのがJKMであるが、日本のLNG調達の大半は長期契約ベースでの調達であるため、JKM価格上昇のガス価格や電力価格ヘの影響は緩和されていることは重要なポイントで、誤解を招きやすい。通常、日本のガス価格や電力価格算定の指標となるのがJLC(Japan Liquefied Natural Gas Cocktail、日本の通関統計のLNGの平均価格)であるが、JLC価格とJKM価格では、現在JKM価格の方が高い。JLC価格は時間差があるが、原油価格に連動して上昇することになる。
出所:CME、財務省
今回、仮にロシアからの購入を止めて他からの調達を増やす場合、長期契約をしているサプライヤーから予め与えられた範囲で輸入量の増加を申請する、スポットで調達する、の2通りの選択がある。前者の場合はJCC(原油)価格連動での調達となるが、後者の場合はJKMベースとなるため、価格が上昇することになり、ガス価格や電力価格も上昇することになる。今後、ロシアに対する制裁がどのようになるかまだ不透明ではあるが、仮に契約を終了した場合、ガス料金や電気料金が上昇するリスクは小さくないといえるだろう。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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