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原油の期間構造
2022/4/8
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
ロシアのウクライナ侵攻を受けて多くの商品価格が大きな変動リスクに晒されている。直近では戦局が膠着状態にあり資源価格も一時の混乱からは脱した感がある。しかしロシア産の資源は海路での輸送が船舶に保険が掛けられないといった事情からかなり制限を受けており、陸路にも影響が出ているとされる。しかし、実際にどの程度の供給が途絶しているかを把握するのは難しい。さらに、直近の需給バランスを把握できるような統計も存在しないため、各々の商品市場の需給環境を把握する上では期間構造をフォローするのが助けとなる。この場合の期間構造とは先物の直近限月から期先にかけての「イールドカーブの形状」のことを指すが、実際に分析に用いようとした場合には全ての限月を見回して「コンタンゴだ、バックワーデーションだ」と判断するのはやや曖昧さが残る。そのため分析する際には、直近限月と第2限月、といったようにある程度直近に期間を区切るのが望ましい。ただ、直近限月と第2限月を比較した場合、限月交代の局面でイレギュラーな動きをすることがあるため、本稿では、直近限月と第3限月の価格を比較した。
よく、原油はコンタンゴのことが多い、という意見を耳にすることがある。コンタンゴとは期近の価格よりも期先の価格の方が高い金利で言うところの順イールドになっている状態のことを指す。逆に期近の価格が期先の価格よりも高い状態のことをバックワーデーションと呼び、金利で言うところの逆イールドになっている状態のことを指す。そして一般にコンタンゴの場合には現物の供給が十分であり、バックワーデーションの時には現物の供給が十分ではないことが多い。理論上、期先の価格は「現物価格+金利+保管料」で決定されるため、期先の価格の方が直近限月ないし現物価格よりも高くなる。しかし、現物供給が不足する場合にはバックワーデーションとなる。すなわち「現物を保有することにメリット」が有る場合、ないしは「どうしても現物を手に入れたいとき」に現物価格が先物の理論値から乖離して上昇することが起きる。例えば工場の燃料に原油を使っていたとした場合、「1年後の受渡しであれば今よりも10ドル安いですよ」と言われて工場の稼働を1年間諦め、1年後に調達するという選択が出来るだろうか。恐らく答えはNOである。そのため現物の供給に制限がある場合には、期近の価格が期先の価格以上に上昇することがあるのだ。
では原油価格の代表選手であるWTI原油とBrent原油が過去、どれだけバックワーデーションになったことがあるかを調べてみたところ、興味深い結果となった。まず、この1年間(2021年4月〜2022年4月)だけを調べてみると、Brent原油は100%、WTI原油は98.8%のケースで、直近限月の価格が第3限月の価格よりも高いバックワーデーションとなっていた。コロナ問題を背景とするOPECプラスの減産や、ロシアに対する制裁による供給不足が背景にあると考えられる。ところが2020年4月〜2021年4月までBrent原油のバックワーデーション率は31.5%、WTIは23.0%と、2019年4月〜2020年4月のBrent原油87.7%、WTI47.2%の状態から急速にバックワーデーションになるケースが減っている。このことはコロナの影響で需要と供給のバランスが急速に緩和したことを示唆しており、その状況は実際に期間構造に反映されていた。期間構造の変化を参考にする分析はそれなりに意味があるといえるだろう。
なお、1年毎ではなく、直近から最大10年までの期間でバックワーデーション率を比較してみるとBrent原油がバックワーデーションの状況が多い一方、WTI原油はコンタンゴのケースが多い。このことは両者の需給環境は構造的に同じでは無いことを意味しており、「原油」とひとくくりにして考えるべきではなく少なくとも指標となるマーカー原油はWTI原油、Brent原油、Dubai原油、Oman原油と分類して考えるべきであるということである。
(年限別バックワーデーション率の比較)
2021-2022年 | 2020-2021年 | 2019-2020年 | 2018-2019年 | 2017-2018年 | 2016-2017年 | 2015-2016年 | 2014-2015年 | 2013-2014年 | 2012-2013年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Brent | 100.0% | 31.5% | 87.7% | 58.5% | 63.2% | 0.8% | 0.4% | 25.6% | 98.1% | 97.3% |
WTI | 98.8% | 23.0% | 47.2% | 54.7% | 29.0% | 0.0% | 0.0% | 62.3% | 57.1% | 0.0% |
出所:CME、ICE
(期間別バックワーデーション率の比較)
直近〜 | 1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 5年 | 6年 | 7年 | 8年 | 9年 | 10年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Brent | 100.0% | 66.0% | 73.3% | 69.6% | 68.3% | 57.0% | 49.0% | 46.1% | 51.9% | 56.4% |
WTI | 98.8% | 61.0% | 56.5% | 56.1% | 50.6% | 42.2% | 36.2% | 39.5% | 41.4% | 37.3% |
出所:4/1時点、CME、ICE
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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