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ウクライナ危機の食品市場への影響
2022/3/23
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
原稿執筆時点でウクライナとロシアは停戦協議を行っているが、仮に停戦合意しても、ウクライナの現政権を打倒するまでプーチン大統領が戦闘行為を終了しない可能性も十分ありえる。小職はその分野の専門ではないためなんともいえないところだが、少なくともこの数ヵ月にわたりウクライナの主要地域では通常の経済活動を行うことは難しいのではないだろうか。仮に停戦合意になったとしても現在停止しているオデッサ、イリチェスク、マリウポリの港湾が全て速やかに稼働するのも難しいとみている。結果、これらの港から出荷される穀物類の供給は制限されることになる。
黒海周辺地域は穀物の一大生産地であり、特に小麦の生産シェアは大きい。米農務省の見通しでは2020-2021年で両国を合計して13.9%が見込まれている。小麦は基本的に自国で消費することを目的とするため、輸出市場でのシェアは、輸出余力のある地域(国内消費量の少ない地域)の影響力が大きくなる。輸出シェアが大きい国を並べると、米国(10.7%)、豪州(13.5%)、カナダ(7.6%)など、人口の割に広大な国土を有する国の輸出シェアが高く、ロシア・ウクライナも同様で両国の輸出シェアは合計で25.6%に達すると予想されている。さらに懸念されるのが今回の戦闘が4月の後半から5月にかけて行われるウクライナの小麦の播種に影響が及ぶ場合だ。現在の戦況をみるに、停戦後に直ちにウクライナ人が生産地に戻り、小麦を播種して生産に直ちに復帰するというシナリオは想定し難い。また仮に戻ったとしても、ロシア軍が農作業に使う耕運機などを接収し、要塞建設などに使用している模様で恐らく農作業ができる状態ではない。
もし実際に播種が行われ無かった場合、物理的に小麦供給が減ることになる。小麦ばかりでなくライ麦もウクライナ・ロシアの輸出シェアが大きく、各々16.7%、12.9%となる見込みであり、こちらも影響が無視できない。なお、中国がロシアの小麦を輸入する、との報道があったがこれはロシア支援というよりは中国の小麦の作柄が歴史上最悪となる見通しであり、それに伴う供給不足への懸念が強まったことが主因と考えられる。中国共産党の歴史は飢餓との歴史でもあるのだ。やはり昨年から続くラニーニャ現象が世界の穀物生産に大きな影響を与えているといえるだろう。このコラムでは何回か取り上げているが、ラニーニャ現象発生時は特に小麦が不作になって供給が厳しく、価格上昇と共に地政学的リスクが高まって暴動が発生することが多い。今年はこの異常気象に伴う不作のリスク顕在化の可能性が潜在的に高いうえ、ウクライナ情勢の悪化が追い打ちを掛ける形となり、食品とは直接関係しないが中東北アフリカ産油国の政情が不安定化するリスクは無視できない。
小麦以外でも両国の輸出市場における供給シェアが大きいのは、主要植物油の1つであるひまわり油で植物油消費の9.5%を占める。そして両国のひまわり油生産は合計で世界生産の58.1%、輸出シェアは77.3%(ロシア30.0%、ウクライナ47.3%)に達する。ひまわり油生産に関しても小麦の生産と同様、今回の戦争の影響を受ける可能性は高く、その他油脂類への影響は不可避である。グラフは主要油脂類の価格推移であるが、グラフの通りウクライナ有事発生以降価格上昇が顕著になっていることが分かる。これは戦争が終ると下落する、という類いのものではなく本穀物年度の供給が減少するリスクを織り込んで上昇している可能性は高く日常生活への影響は小さくない。
出所:CBOT、MDE、アルゼンチン農牧漁業省、AgFlow
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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