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ウクライナ・ロシア情勢緊迫の商品市場への影響
2022/1/12
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
ロシアがウクライナとの国境に軍を進め、ロシアがウクライナに侵攻するのではないか、との懸念が強まっている。なぜロシアがこのタイミングでウクライナの侵攻をちらつかせているのか。ここまでの報道を見るに、ウクライナがNATOに加盟しようとしているが、この場合モスクワが地政学的なリスクに晒されることになる。プーチン大統領はソビエト時代の領土復活を切望しており、今回の侵攻でウクライナ東部、場合によってはベラルーシ経由でキエフ(ロシアからするとキエフはロシアの「ルーツ」であり重要な都市)を襲撃して一気にウクライナを自国のものにする、あるいはそこまで行かないまでも、ウクライナ国内で国民投票を行い、親ロシア地域がウクライナから自主的にロシアに離脱する、といったことを考えている可能性はある。この他にも国内の食料品価格上昇に不満を持つ国民の不満を逸らすため、といった意見もあるが本当のところはプーチン大統領しか分らない。
しかし冷静に考えて、ロシアがウクライナの首都を陥落させ、ロシアの支配下に置くというシナリオは現実的ではない。というのも1991年のソビエト崩壊前の1989年におよそ200万人だった陸上兵力は、2021年時点で約33万人に減少しているとされる。陸上兵力は「国の防衛」に必要な戦力であり、ここまで兵力が減少するとウクライナ東部に比べて西部は反ロシア勢力が多いことを考えると、ウクライナの首都を陥落させたとしてもそれを維持するのは困難である。さらには各国の支援が得られる訳ではなく、追加制裁も高い確率で行われるためロシアにとってウクライナを武力で奪取することはそれほど経済的なメリットがあるとは言えない。そのため、今回、あからさまに軍事的な圧力をかけているのは、NATO軍が旧ソビエト地域に展開している戦力を縮小させ、場合によってはウクライナ東部の自主的なロシア勢力圏への離脱を促すためと考えるのが妥当だろう。
しかし、その思惑が上手くいくとは限らないし、そこに至るまでに欧米はロシアに対して制裁を行う可能性が高い。この場合、軍事的な制裁は恐らく選択肢に入らないため、イランに行ってきたのと同じようにエネルギーや鉱業など、同国の主要ビジネスでかつ、制裁を行いやすい分野が対象となるだろう。恐らく、エネルギーにおいてはRosneftやLuKoil、Gazprom、鉱業ではRusalやNornickelなどが対象になると考えられる。
出所:LME、HKEX
ただ、問題はこれらの企業が生産している原油、ガス、アルミ、ニッケル、PGMなどの世界シェアが決して小さくない点だ。主要な資源だけを取り上げてもグラフの通りロシアの供給シェアは大きい。そのため、制裁といってもその制裁対象となった商品の価格上昇に繋がり、ブーメランのように欧米諸国にその影響が跳ね返ってくることになる。過去に米トランプ政権がロシアのプーチン大統領と繋がりが強いとされる新興財閥グループに制裁を行った際、アルミ生産大手のRusalがこの対象になるとして、供給不安からアルミ価格が急騰したことがある。ただでさえインフレリスクに悩む欧米諸国にとっては簡単に許容できる副反応ではない。
それを見越してのウクライナへの圧力、と考えられるが上述の通りロシア側も本格的な衝突を望んでいるとは思えない。しかし、最終的に欧米がロシアと何らかの和平で妥結するまでの過程で、何らかの制裁が科され対象となる商品価格が上昇するリスクは無視できない。
出所:USGS
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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