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プラチナ価格の上昇は来年春以降か
2021/11/12
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
プラチナ価格はコロナウイルスの感染拡大による市場の混乱で一時564ドルまで水準を切り下げた。しかしその後、脱炭素の流れを受けた「燃料電池車向けの需要増加期待」が強まり、給付金を原資とする個人投資家の増加もあって急速に上昇し1,339.73ドルまで上昇。その後は下落したが、再度上昇。足下は1,000ドル前後での推移となっており、その他の商品とも同じであるが価格の変動性は極めて高い状態が続いている。プラチナ価格は自動車向けの触媒需要が主な工業需要となるが、構造的に供給過剰幅が拡大しやすくなっているため結果的に投機取引の動向に振られやすい。言葉を換えると、市場参加者の思惑が価格に影響を与えやすい金属の1つといえる。ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)の9月レポートでは、2021年のプラチナ需給バランスは自動車向けの触媒需要の回復が遅れていることや、昨年12月に再稼働したアングロ・アメリカン・プラチナムACPフェイズAユニットが再開したことを背景に、投機需要も含めて+19万オンスの供給過剰を見込むとしており、しばらく投機需要動向が価格を左右しやすい状況が続くと予想される。
出所:WPIC
少し今年のプラチナ価格動向を振り返ると、春先からのプラチナ価格下落は、これまでプラチナ価格の上昇を牽引してきた燃料電池車向けの需要増加が「急に起きるわけではない」ということを市場参加者が認知したこともあるが、それ以上に半導体供給制限が解消せず、自動車販売が想定を下回る状態が続いたことが影響している。自動車販売は直近1-9月までのデータを元にすると、昨年比で+12.1%の大幅な増加となっているが、コロナの影響がなかった2019年と比較すると▲9.4%と回復している訳ではない。半導体供給の制限が、プラチナ需要を減じるとの見方を強めた。
その後、7月のFOMCで年内にテーパリングが実施される可能性が示唆され、8月末のジャクソンホールシンポジウムで年内のテーパリング実施が強く示唆される中で水準を大きく切り下げる流れとなった。しかし、テーパリングの実施が確定的である、といった方向性を示した9月のFOMC以降はむしろ価格水準を切り上げる展開となっている。
前回、プラチナ価格が反転上昇したのは、米利上げ開始後の2016年に入ってからであるが、今回の価格上昇は前回と同様、景気過熱を背景とする利上げ観測が9月FOMCで強まったことが背景と考えるのが妥当だろう。前回のテーパリング時も利上げ観測が強まる中で2年金利が上昇し、ツイストする形で10年金利が低下したため、これに似た動きが起きていると考えられる。この結果、貴金属価格に対する価格説明力が高い実質金利の構成要素である期待インフレ率は、2010年以来初めて、2000年以降でも2回しかない、「期待インフレ>名目金利」の状態になっている。
出所:CME
この状況を受けてFRBは11月のFOMCでそこまで積極的ではないものの、利上げ実施の可能性を否定はしなかった。場合によると来年6月のテーパリング完了から速やかに利上げが行われる可能性が否定できなくなっている。FF金利先物ベースでは来年9月頃の利上げを既に織り込み始めており、この状況だと利上げの可能性が意識されるため、徐々に期待インフレ率が低下し、プラチナを含む貴金属セクター価格の下押し圧力が強まることが予想される。
ただ、2021年のプラチナ価格を押し下げてきた最大の要因は自動車向けの需要が減少したことによるものであり、世界の半導体供給が来年の春頃から回復することや、2021年初から中国で普通乗用車に導入された「国6a」規制、今年半に大型車に対して導入された「国VI」排ガス規制、環境規制強化をさらに進める欧州の「Euro6d/temp」規制、米国における「Tier 3」の段階的導入がプラチナ需要を増加させると考えられるほか、長らく続くプラチナ・パラジウムの価格差がパラジウムからプラチナへの代替需要を増加させることも需要を増加させ、価格を押し上げると考える。
さらにこうした実需面の需給タイト化観測は「投機筋にとっては投資しやすいストーリー」であるともいえ、半導体供給が回復するまでは低迷が続こうが、春先以降、価格は上昇に転じると考えられる。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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