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パラジウム価格は反発へ
2021/9/22
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
パラジウムは欧州のフォルクスワーゲンの排ガス規制に関する不正によるディーゼル車からガソリン車へのシフト、欧州、中国などで排ガス規制が強化される中でプラチナよりもパラジウムが排ガス触媒として選好されたこと、といった需要面の構造変化が価格を構造的に押し上げてきた。商品価格の持続的な上昇は、需要面の構造変化が発生することが必要条件となるが、「脱炭素」の流れが強まる前から自動車セクターでの環境重視姿勢が構造的な需要の増加をもたらしていた。この状態でコロナ・ショックが発生、この100年近く発生していなかった大規模な伝染性のウイルスの世界的な感染拡大により、ほとんどの企業やアナリストも想定していなかった「経済活動の強制停止」が発生、ほとんどの景気循環系商品の需要が激減し、パラジウム価格も暴落した。
出所:MRA
その後、世界的な経済対策の実施による経済活動の再開、米ファイザー社のワクチン開発成功によって経済活動が徐々に回復、コロナの影響でライフスタイルが変化し、巣ごもり需要・リモート需要が増加してIT製品向けの半導体需要が増加したことも電子部品向けの需要を増加させ、価格を押し上げた。これに鉱山閉鎖と製錬工場の稼働停止などによって供給も制限されたため一時3,000ドルを回復するに至った。しかしその後、パラジウムの価格は急落している。これは自動車もハイテク化が進む中で半導体は必須の部材の1つとなっているが、その半導体が巣ごもり消費需要の急増で供給が間に合わず、自動車触媒向けの需要が減少したことが背景である。この実需の減少に投機の売りが重なったことも下げを助長した。実際、世界の自動車販売が減速を始めた今年の3月頃からその予兆は見られた。
出所:LMC Automotive、CME
では今後、パラジウムの価格はさらに下落するのか。恐らく半導体の供給回復がなければ答えはイエス、だろう。しかし、コロナの影響がどのタイミングで緩和するか不透明な部分が多く見通し難いが、2022年の第2四半期(2022年4月〜6月)頃には自動車向けの半導体供給も回復するとの見通しが多く、中期的には自動車販売も回復が予想される。その点を考慮するとパラジウム価格はしばらく低迷する可能性が高いが、そのうち上昇に転じると考えるのが妥当だ。
パラジウム価格動向を占う上では需給見通しが参考になる。2021年5月のジョンソン・マッセイのパラジウム需給分析では、2021年のパラジウムの需給バランスは▲10万1,000トロイオンスの供給不足になると予想されている。パラジウムの需給バランスの変化とパラジウム価格の間には高い相関性があるため、この関係性を用いてパラジウムの価格を算出すると2021年の平均価格は2,840ドル程度となる。ただしこの数値は自動車販売の減速感が鮮明になる前の数値であるため、実際には半導体の供給が戻って自動車産業の活動が通常状態に回復した場合、2,840ドル程度までの上昇があると考える方が適切かもしれない。また、直近のS&P社などの自動車販売予測を元にすると5月時点のジョンソン・マッセイの需給予想はやや強気で、自動車触媒向け需要はこの見通しよりも少なく、4万トロイオンス〜11万トロイオンス程度の供給過剰になると予想される。このときの価格は2,700ドル程度が目処となる。しかし、世界的な脱炭素・環境規制強化の流れを受けて鉱産国が資源ナショナリズム的な姿勢を強めていることも事実であり、供給面に問題が生じた場合はさらに価格が上昇し、再び3,000ドルを上回る展開も想定しておく必要があろう。
当面、パラジウム価格が低迷する可能性は高いが、2022年以降の生産活動回復を見込む場合、パラジウム価格の再度の上昇に今のうちから備えておく必要があるのではないか。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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