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2024-12-07 13:44:31

原油先物ETFの仕組み

2021/7/7
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

商品開発の進捗によって、商品先物取引所の会員にならなくても商品市場で取引が可能になった。商品市場に個人をはじめとする投資家が金融商品を通じて投資をする場合、ETFやCFD、商品価格に連動する投資信託を購入するといった形が一般的だが、恐らくETFを用いて投資をするケースが多いのではないか。しかしETFに投資をする場合、その商品の仕組みを理解していないと期待していなかった損失が発生することになるため注意が必要だ。

商品ETFは大きく2種類あり、1つが現物を対象とするETF、もう1つが先物に投資するETFだ。前者の代表例が金や銀のETFであり、後者の代表例が原油である。金ETFは通常、現物を裏付け資産として保有するためパフォーマンスが「現物の価格」に連動する。一方、原油のETFは先物に投資をするのだが先物の場合は「限月交代(納会)」があり、一定期間経つと次の限月に投資対象が変わることになる。例えば現在(2021年6月30日時点)、WTIの直近限月は8月限月で最終取引日は2021年7月20日なのだが、もし投資を続けるのであれば、この8月限月が納会を迎える前、あるいは納会日に次の限月(9月限月)に乗り換えることになる。この場合の乗り換えるとは、「納会までに8月限月を売り、9月限月を買う」ことを意味する。商品設計にもよるが商品先物ETFの場合、直近限月を「買い持ち」して納会前に次の限月に乗り換える仕組みになっている商品は多い。もしこのとき、8月限月が70ドル、9月限月が60ドルだとすると、乗り換えの取引を行うと「70ドルで売って、60ドルで買う」ことになるため差し引き10ドルの利益が出ることになる。逆に8月限月が70ドル、9月限月が80ドルだった場合、同じ取引を行うと▲10ドルの損失が発生することになる。この乗り換えの時に発生する損益のことをロールマージンと呼ぶが、この例からも分るように直近限月価格>第2限月価格の時(期間構造がバックワーデーションの時)にはプラスになるが、直近限月価格<第2限月価格の時(コンタンゴの時)にはマイナスとなる。つまり、期間構造がバックワーデーションの時は毎月の乗り換え時に利益が出るが、コンタンゴの時には毎月損失が出ることになる。もちろん、この影響を小さくするために商品性を調整しているものも多いが、基本的な仕組みはこうなっている。

また、ETFのパフォーマンスは、このロールマージンだけではなく、そのものの値上がり損益である「キャピタルゲイン」も加味される。例えば購入時の価格が70ドルで、売却した時が100ドルだった場合、30ドルのキャピタルゲインが得られることになる。これに上述のロールマージンを加えたものに、証拠金への付利が加味されてリターンが決まる。そのため、よくメディアで取り上げられるWTIの価格は直近限月の価格なのだが、この直近限月価格と投資対象である原油ETFのパフォーマンスは必ずしも同じにならない。
グラフはWTIの直近限月価格と、米USO(United Status Oil Fund)の推移だが、WTIの変化をUSOが必ずしもフォローしていない。特に緑色の網掛けがかかっている「コンタンゴ」だった時にWTIの上昇について行けていないが、これは上述の仕組みによる。なお、グラフを見て分るように、WTIの直近限月価格>第2限月価格となっているケースはあまりなく、データが取得可能だった1983年以降のデータを検証すると44.8%しかない。

出所:CME、マーケット・リスク・アドバイザリー

よく、「原油市場は基本的にバックワーデーション」という説明も目にするが、これはあくまで比較する限月による。例えば直近限月と第12限月(1年先物)を比較すると、直近限月価格>第12限月価格、となるケースは55.9%となる。しかし、多くの原油ETFの場合は比較対象は直近限月と第2限月であるため、全体的な形状を見ていると見誤ることになる。仮に原油ETFを仕入や販売の価格リスクヘッジに用いようと考えている場合でも、この対象となるWTIと運用商品の価格差(ベーシスリスクという)があると期待していた効果が得られないため、仕組みについて理解し、そのリスクを把握した上で購入することが必要だ。上記の仕組みは非常に基本的な、「期近に買いを入れる、ロングオンリー」のETFの場合で、異なる仕組みのものもあるため、手間ではあるが購入前に目論見書を確認することをお勧めしたい。

出所:CME

出所:CME

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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