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プラチナ価格上昇の背景
2021/2/24
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
プラチナ価格が騰勢を強めている。プラチナは実需に対する投機取引の比率が高まっており、需給ファンダメンタルズ以上に投機的な市場参加者の思惑が価格を左右しやすいこと、その際、「脱炭素」「バイデン銘柄」「リフレトレード継続」を背景に、同じように先行して物色されていた銀を追いかける形での上昇となっているためだ。
銀とプラチナの価格上昇は、環境規制が強化される中で、投資需要以外の現物の需給バランスが構造的に大きな変化を引き起こすと考えられていることによるもので、過去にも同様の価格上昇が見られたことがある。米国の環境規制強化に伴い、ガソリンの添加剤にMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)の使用が禁止され、エタノールが添加剤として利用されるようになり、その原料としてトウモロコシの需要が増加してトウモロコシ価格が急騰したことがあったのだが、そのときと状況が似ている。
現在、プラチナ需要が構造的に増加すると期待されているのは、パラジウム価格高騰で自動車向け触媒としてプラチナが見直される可能性があること、脱炭素社会へのシフトが本格化する中で、燃料電池車向けの需要が増加する可能性があること、の2点だろう。しかし、いずれも「期待」であり実際の需要になってはいないため、価格が持続的に上昇する材料としては薄弱である。しかし、ここに主要生産地である南アフリカの電力不足、コロナ対策の混乱を受けた鉱山生産の減少といった「実際の供給減少」が重なった。このコロナの混乱による鉱山生産の減少は他の鉱物資源でも確認されている。基本的に鉱物資源は新興国で生産されることが多いが、新興国は医療体制が十分に整っていない国が多く、鉱山は露天掘りの鉱山であれば話は別だろうが基本的に三密の労働環境であるため、コロナが収束しない限り生産は安定し難い。
さらにここに、各国中央銀行が金融緩和を早期に解除する可能性は低い、との見方が市場のコンセンサスとなっていることも、投機的な買い圧力を強める要因となっていると見る。多くのドル建て資産で同様のことが言えるが、特に米国の緩和スタンスが維持される中では市場参加者のリスクテイク意欲が増すため、資金調達通貨であるドルが売られやすくなる。ドル安は多くのドル建て商品価格の上昇要因となる(詳しくは、2020年11月11日付レポート「金価格への為替の影響」をご参照ください。)
しかし、現在のプラチナ価格とETFの保有高の関係、CFTCの投機筋ネット買越しポジションの関係を点検すると、どちらも現在の価格はこれまで投機的な買いが入って価格が上昇した時よりも大きく上昇しており、バブル感が出ていることは否めない。このような場合、市場参加者は分かりやすい目処となる対象価格を目標とするケースが多い。(詳しくは前回のコラム2021年1月13日付レポート「2021年のプラチナ価格は高値維持〜しかし上昇余地は限定か」をご参照ください。)
では2019年末の水準を100としたときの金価格と同じだけの上昇率になるところ、具体的には1,200ドル程度が1つの上値の目処になると分析していたが、この水準を上回ってから上げが加速した。恐らく、同じ「脱炭素」「バイデン銘柄」であることを考えると、金と同様に次は銀価格が上昇時の目処となると予想される。同じように価格上昇率から類推すると、1,240ドルのプラチナ価格は、あと230ドル程度上昇して1,470ドルになってもおかしくない(2021年2月17日原稿執筆時点)。
ではいつまでこの状態が続くか。今回の価格上昇は、需要面の期待と供給側の不安、金銀価格の上昇、ドル安の進行が材料だった。供給不安以外は価格上昇の背景とするには薄弱な材料ばかりである。この中で早晩環境が変わる可能性があるのが、記録的な水準まで上昇している株価が、大手ファンドの四半期決算である3月末に掛けて調整する場合、米景気の回復を中央銀行が容認しポジティブな意味でドル高が進行する場合、非常に前向きの強いバイアスがかかっている環境関連ビジネス拡大が想定通りにペースで進まなかった場合などが考えられる。
また、価格上昇の前提となる金価格が下落した場合も価格には下押し圧力が掛ることになるだろう。上記の分析では1,470ドルまでの上昇余地があるとしたが、2021年1月20日付けのレポート「原油価格から乖離して上昇する期待インフレ率」で指摘したように、仮に期待インフレ率が原油価格で説明可能な水準まで低下した場合、▲40bp程度の低下となるが、直近1年のデータを参考にすると期待インフレ率±1bpの変化で金価格は±2.2ドル(前回レポートからデータを更新したため、価格感応度は同じではない)変化しているため、▲88ドル程度の金価格下落要因となる。この場合、金銀レシオを現状の65倍程度とすると、銀価格は▲1.35ドル程度下落することになる。これをプラチナに換算すると▲155ドルとなる点は注意したい所だ。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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