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2021-12-08 03:11:49

プラチナ価格は期待先行で上昇

2020/12/9
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

プラチナ価格は金価格とペアで議論されることが多い。かつては金よりも高い値段で取引されていたプラチナだがすっかり金価格よりも安くなってしまった。両者の価格乖離は一般に、2015年に発生したフォルクスワーゲンの排ガス規制偽装問題を受けてディーゼル車の需要が減少、ディーゼル車の排ガス触媒に用いるプラチナの需要が減少し、構造的な供給過剰が拡大したことがきっかけとされる。しかし、World Platinum Investment Council のデータを元に主要用途の需要の増減を2015年と2020年で比較してみると、自動車触媒向けの需要の減少が▲80万9,000オンスであるのに対し、宝飾品の需要は▲101万4,000オンスの減少と、宝飾品向けの需要減少の影響の方が大きい。宝飾品需要の減少は最大需要国である中国のプラチナ需要が、金との競合や個人の経済状況の悪化が影響しているとみられる。金の宝飾品向けの需要もコロナの影響による外出機会やドレス・アップ需要の低下から同様に減少しているが、そもそも宝飾品としては金の方がプラチナよりも認知されているため、落ち込み幅はプラチナほどではない。中国の宝飾品向けの需要は景気やコロナの影響、趣味嗜好の変化に左右されるためなんともいえないが、急に増加するとも考え難いため恐らく現状の水準がしばらく続くと考えるのが妥当だ。一方、排ガス規制強化は政策的なものであるため恐らく今後も自動車触媒向けの需要が大きく変化することはないだろう。供給側も需要の減少や価格の低迷を背景に減産を行ってきたが、この結果プラチナの需給バランスは2015年頃から徐々に構造的な供給過剰の状態になっていった。

ここで2015年頃からのプラチナの需給バランスと価格の推移を振り返ってみると、興味深いことが分かる。グラフはプラチナの鉱山生産とリサイクル品からの回収による供給から、1.投機需要を除いた需要、2.投機需要を含んだ総需要、を差し引いて求めた需給バランスである。緑色の棒グラフが投機取引を含まないいわゆる実需のみの需給バランスであり、オレンジ色の棒グラフが投機取引を含んだ需給バランスを表す。棒グラフがプラスの場合供給過剰を、マイナスの場合供給不足を表す。

プラチナの需給バランスは、2016年に鉱山閉鎖の影響などで供給不足となる局面はあったが、それ以降は総じて供給過剰の状態が続いた。特に投機を除く需給バランスは供給過剰幅を拡大しているのが分かる。上述の中国の宝飾品需要の減少と、環境規制強化に伴うディーゼル車からガソリン車へのシフトによる自動車触媒向け需要の減少が影響しているためだ。このことは、現在のプラチナ市場の需給バランスが投機目的の現物需要がどれだけ入るか?に依拠するようになっていることを意味する(もちろん、中国の景気が米中対立を乗り越えて回復し、宝飾品需要が急増すれば話は別だが)。プラチナの需給バランスは当面、投機資金の動向が左右することになると予想される。

投機資金が「現物市場に流入したとき」には現物を実際に買いに行くため、価格は上昇する(先物市場と現物市場の違いについては今後、このコラムで解説の予定)。では投機資金がどのようなタイミングでプラチナなどの商品を買うか?といえば端的に価格が上がる可能性があると判断したとき、ということになる。この1年を振り返ると、プラチナ価格が大きく変化するイベントでその影響が大きかったのは、「バイデン候補環境政策発表」と「ファイザーのワクチン開発進捗報道」だろう。

これらを材料に、自動車向けや宝飾品向けの需要が直ちに増加することは考え難いが、実際にプラチナ価格は反応している。グラフは6月以降のプラチナ価格と金価格の推移と、イベント発生時であるが、明らかにこの2つのイベントの後に価格が大きく変化していることが分かる。前者は環境重視型政策が米国で推進されれば、プラチナを大量に必要とする燃料電池車が普及するのではないか、との「連想」が働いたためと考えられる。なお金価格も上昇しているが、これはむしろ7月21日に米政府がヒューストンの中国領事館閉鎖を命令し、安全資産需要が高まった影響が大きい。

直近のプラチナ価格の上昇は、ファイザー社のコロナワクチン開発成功報道がきっかけで、2020年11月9日以降上昇が顕著になっていることが分かる。そして同時に金価格は水準を切り下げている。恐らくワクチンの接種が進み、欧米でのロックダウンが解除され人の移動が再開されるなかで自動車向けの需要が回復する、という「連想」が働いた。原油価格も同時に上昇しており、恐らく市場はその理解だったと考えられる。

しかしこのことは逆に、「連想」や「期待」が価格を押し上げているに過ぎないことを意味しており、特に現物を必要としない投機目的の市場参加者はいずれかのタイミングでこれを手仕舞う(買いポジションの構築なら売り、売りポジションの構築なら買い、となるが今回のケースでは買いポジションが形成されている)ことになる。そのきっかけとなるのは上記と逆のことが起きること、すなわち燃料電池車が普及するシナリオが描けない、想定外にワクチンが有効ではなかったといったことが考えられる。短期的には年初来のパフォーマンス(上昇率)が、同じ貴金属セクターの金銀パラジウムと比較すると低いこと、投機的な取引が価格を左右しやすい状況にあること、からまだ高値をトライする可能性はあるが、下落リスクを意識しながらの上昇になる可能性が高いと見るべきだろう。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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