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原油価格は年後半が鍵に
2024/8/13
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
鍵握る年後半の米金融政策動向
米経済統計の悪化を切っ掛けにハイテク株を中心に株価が調整、ここに日銀の利上げ継続観測を受けた円高進行が株を更に押し下げ、原油価格も水準を切下げる動きが見られた。しかし、原油価格自体は7月初から下落しており、8月の株安のタイミングでの下落はISM製造業指数の悪化が米景気の想定以上の減速を意識させたことによるものである。そのため、株安が原油安を助長させたことは恐らく事実であるものの、それ以上に原油の需要面が意識されたことによる下落だったと考えられる。実際、ISM製造業指数とWTI原油の前年比上昇率の間には高い相関性があり、今回のISM製造業指数の減速に歩調を合わせて原油価格の上昇率も鈍化している。となると、原油価格はやはり景気動向に従った動きとなるが、米景気見通しはアナリストの市場コンセンサスでも2024年10月~12月に掛けて成長ペースを鈍化させ、それ以降、緩やかに回復すると予想されている。このことは原油価格が景況感の減速に合わせて水準を切下げ、その後上昇に転じる可能性が高い事を示唆している。恐らく2024年後半~2025年に掛けての原油価格は現在の水準よりも上昇することになるだろう。ただし、OPECプラスは年後半の米景気底入れを期待して、2023年11月の会合で決定した▲220万バレルの追加自主減産を段階的に解除(増産)する方針であり、景気底入れに伴う価格上昇を抑制することが期待される。
出所:米供給管理協会、CME
ただ、現在市場は来年1月までに▲1.25%程度の米利下げを織り込んでおり、急速な景気の減速を市場は懸念している状態だ。過去、高金利政策を維持し、金融緩和に舵を切った時も「利下げの遅れ」でショックが顕在化し、株価が下落。低格付企業が破綻して信用リスクが拡大するケースは多い。この場合は景気の減速と相まって、原油価格も大きく下落する可能性が出てくる。そのため、2024年9月~2025年1月に見込まれているFRBの金融緩和動向は今後を占う上では重要になると考えられる。仮に金融緩和による景気下支えを失敗した場合、再び景気刺激のための低金利政策と量的緩和が行われると想定され、結局は再び価格が上昇することになるのではないか。
緊張を増す中東情勢
今後の展開がなんとも言えないのが中東情勢だ。イスラエルと戦闘状態にあるハマスのハニヤ最高指導者が殺害された。イランはイスラエルによる犯行と指摘しており、イランのハメネイ師はイスラエルへの直接攻撃を指示したと報じられている(原稿執筆8月8日時点で戦闘は起きていない)。しかし、経済的なメリットがない全面戦争をイランが選択するとは考え難い。恐らく2024年4月にあったような形式的な報復を行って手打、というのが一番有り得るシナリオである。しかし、そうは言ってもこればかりは実際に起きてみないと分からない。供給途絶の懸念が強まったとしても、景況感が悪化、需要の減少観測が強まっている場合、その影響は限定されるが、仮に「イスラエル+西側諸国vsアラブ+イラン」という対立の構図になった場合、ホルムズ海峡が封鎖されないまでも、中東産油国がイスラエルに与する国には原油を供給しない、価格を引き上げるといったオイルショック時に見られたような決断をする可能性もある。この場合、景気減速の中での原油価格高騰となり、景気が著しく下振れするリスク(スタグフレーションになるリスク)が高まることになるため、引き続き中東情勢からは目が離せない状態が続く。
米大統領選の影響
中東有事が発生しなかった場合のメインシナリオは、米大統領選挙でハリス候補が勝利しても、トランプ候補が勝利しても年後半に掛けて下落、その後上昇という見通しで良いと考えている。両候補の勝利によるエネルギー市場への影響は、少し時間が経過してから訪れると予想されるが、トランプ候補が勝利した場合、景気刺激的な政策を採用する見通しであることが化石燃料需要を押し上げるが、原油・ガスの生産に制限が掛けられないことから、影響は中立となる。同時に、EV関連など脱炭素系のビジネスへの補助金が付与されなくなるため、銅やニッケルなどの脱炭素系の鉱物資源価格には下押し圧力が掛かる。しかし、世界的に炭素燃料の負担が少ない世界へ、の流れは大きく変わらないため、これらの鉱物資源の価格が中長期的に上昇するという見通しは恐らく変更する必要はなく、その普及のペースが鈍化すると考えるのが妥当だろう。
一方、ハリス候補が勝利した場合、現在の政策を継続するため化石燃料生産と輸出に制限が掛けられる可能性が高く、供給面のリスクとなる。景気は財政出動を伴う景気刺激を想定していないため、供給制限の中での緩やかな景気回復で、化石燃料価格には緩やかな上昇圧力が掛かるのではないか(脱炭素が進んでも化石燃料需要はゼロになるのはかなり難しい)。一方で脱炭素系のビジネスには補助金が付与されると考えられる。結果、原油やガスの価格は高止まりし、脱炭素系のビジネス推進で銅やニッケルといった鉱物資源価格にも上昇圧力が掛かることが予想される。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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