2025-07-15 06:17:32

原油価格 2025年後半にかけての上昇リスク

2024/6/26
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

6月2日に開催されたOPECプラスは予想通り追加減産は見送られたが、2025年末まで減産を継続することで合意した。また、これまでサウジアラビアやUAEなどは自主的に追加の減産を行ってきたがこれを9月末まで延長するが、10月以降は段階的に解除(増産)していくことを決定した。これにより、2024年10月頃から原油価格には下押し圧力が掛かる展開が予想されるが、2025年後半にかけて価格が上昇する可能性が高まったと考えられる。

過去のOPEC生産量を確認(※OPECプラスの生産データは長期にわたって取得が困難だったため、OPECの生産量の推移を確認)すると、景気が回復・拡大して需要が増加する中ではそれに合わせて生産量を増加させ、景気が減速する局面では生産量を減らしていることが分る。そのため、原油価格はOPECが増産するタイミングではむしろ上昇、減産するタイミングでは価格は下落しているケースが多い。このことは、価格の決定権が生産側というよりも、需要側にあることを示唆している。2000年以降で見た場合、好況でないにも関わらずOPECの原油生産が増加したのが2014年11月のOPEC総会以降だ。米国のシェールオイルの生産量が増加してシェアを奪われたため、価格水準が生産活動に大きな影響を受けるシェールオイルの増産ペース抑制のため、意図的に増産を行ったものと整理されている。いわゆるOPECショックだ。そのため、2017年以降は米景気が回復するが、2016年12月にOPECが減産で合意して以降は生産量は景気回復にもかかわらず減少している。

出所:OPEC、米供給管理協会、ICE

価格が下落しているにも関わらず増産が確認されているケースがもう1つある。コロナショック発生時だ。中国発とされるコロナウイルスの感染拡大で米国がロックダウンを決定、それに伴い経済活動が急減速し原油価格は下落していた。これを受けてOPECは3月5日の臨時会合で 4〜6月に▲100万バレルの減産で合意、OPEC非加盟国も▲50万バレルの減産で合意した。しかし、この会合にロシアは参加しておらずロシアは減産を拒否した。これに対してサウジアラビアが生産量を現在の970万バレルから1,000万バレルに増産することを急遽決定、その他のOPEC諸国もこれに追随したため大幅な増産となり、「景気減速下での増産」で原油価格が急落、米原油の指標であるWTIはマイナス圏まで価格が下落する事態となった。これを受けてロシアも協調減産に合意するということが起きた(弊社はこれを第二次OPECショックと呼んでいる)。

もちろん減産合意した後、多くの場合で「減産が遵守されない」ケースが散見されるが、シェールオイルに対抗して増産した時ほどの大幅な増産ではなくあくまでこっそり抜け駆け程度の水準であり、相場の水準を大きく変動させてしまうほどのものではない。なお、今回の減産の段階的解除は抜け駆けではなく決定である。ではなぜこのタイミングで減産解除を決めたかと言えば、2つ理由があり、1つがこれまで見てきたようにOPECは需要増加時には相応の原油供給を行うこと、2つめは財政的な理由である。1つめの需要増加だが、市場参加者の景気見通しは、最大消費国である米国の景気がQ424にかけて減速した後、回復するというのがコンセンサスとなっている。恐らく原油の需要もこの前後から増加すると期待されるためOPECプラスのサウジアラビアを含む自主減産組は生産削減を10月から段階的に解除することを決定したのだろう。

2つめの財政的な理由だが、OPECは2016年12月に減産に合意して以降、形を変えながら減産を継続している。これに伴い原油販売による外貨収入が減少、産油国の財政状況が悪化しているため、景気の見通しに確証はないものの背に腹は代えられなくなったとも言える。実際、盟主サウジアラビアの財政が均衡するために必要な原油価格は、96ドルとされており現在の水準よりも遙かに高い。サウジアラビアは6月、国営のサウジアラムコの株を売却(15億4,500万株相当)すると発表した。これにより100億ドル超を調達する計画と報じられているが、やはり原油販売による収入減少が財政状況を悪化させているためと考えられる。よって11月からの段階的な増産はある意味納得感があるものだった。

しかし、やや意外感があったのが2025年一杯の減産を既にこのタイミングで決定したことだ。来年の景気がどうなるか分らないのに、である。もし、市場参加者の見通し通りであれば、来年の後半にかけて景気は回復感が強まることが予想されるため、需要回復時の減産となり原油価格が高騰するリスクを助長しかねない。とはいえ、恐らく価格が上昇すれば実際には抜け駆け増産が行われるため、後で確認してみると価格上昇と共に生産量が増加しているということになり、価格上昇はある程度抑制されると見る。なお、米EIAのデータを元に、OECD在庫の水準と原油価格の単純な回帰分析を行うとBrent原油の平均価格は2024年が83.5ドル、2025年も87.6ドル程度(注:価格予測ではなく、EIAが算出した原油・石油製品在庫を元に算出した推定値)となるため、やはり来年後半の価格上昇リスクは小さく無いとみるべきだろう。

新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

当コラムに関してご留意頂きたい事項

  • 当コラムは投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定はお客さまご自身の判断でなさるようお願いいたします。
  • 当資料に示す意見等は、特に断りのない限り当資料作成日現在の(株)マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)の見解です。当資料に示されたコメント等は、当資料作成日現在の見解であり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
  • 本資料は当社が信頼できると判断したデータにより作成しましたが、その正確性、完全性等について保証・約束するものではありません。

ご注意事項

  • 買付時の手数料は、売買代金の1.65%(税込)、売却時の手数料は無料です。
  • 本取引は金・銀・プラチナの価格変動により、投資元本を割り込むことがあります。
  • 本取引は、政治・経済情勢の変化および各国政府の貴金属地金取引への規制等による影響を受けるリスクがあります。
    また、かかるリスクが顕在化した場合、当社の提供するサービスの全部、または一部が変更、停止されるリスクがあります。
  • 本取引は為替相場の変動により損失を被ることがあります。
  • 本取引は、システム機器、通信機器等の故障等、不測の事態による取引の制限が生じるリスクがあります。
  • 本取引は売値(Bid:お客さまが売ることの出来る値段)と買値(Ask:お客さまの買うことのできる値段)の差(スプレッド)があります。
  • スプレッドは固定されるものではなく、需給バランスや、政治・経済情勢の変化にともない、当社の任意で変更いたします。

商品先物取引に関するご注意事項

商品先物取引のリスクについて
商品先物の価格は、対象商品の価格の変動等により上下しますので、これにより損失が発生することがあります。また、商品先物取引は、少額の証拠金で当該証拠金の額を上回る取引を行うことができることから、時として多額の損失が発生する可能性を有しています。したがって、商品先物取引の開始にあたっては、下記の内容を十分に把握する必要があります。

  • 市場価格が予想とは反対の方向に変化したときには、短期間のうちに証拠金の大部分又はそのすべてを失うこともあります。また、その損失は証拠金の額だけに限定されません。
  • 損失を被った状態で建玉の一部又は全部が決済される場合もあります。更にこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。
  • 商品取引所は、取引に異常が生じた場合又はそのおそれがある場合や、JSCCの決済リスク管理の観点から必要と認められる場合には、証拠金額の引上げ等の規制措置を講じることがあります。
  • 市場の状況によっては、意図したとおりの取引ができないこともあります。例えば、市場価格が制限値幅に達したような場合、転売又は買戻しによる決済を希望しても、それができない場合があります。
  • 市場の状況によっては、商品取引所が制限値幅を拡大することがあります。その場合、1日の損失が予想を上回ることもあります。

商品先物取引の手数料について
商品先物取引のインターネットでの取引にあたっては、下記のとおり所定の手数料がかかります。
金(限日現金決済先物取引):片道1枚につき16.5円(税込)
銀(限日現金決済先物取引):片道1枚につき82.5円(税込)
白金(限日現金決済先物取引):片道1枚につき16.5円(税込)

商品先物取引は、クーリング・オフの対象にはなりません
商品先物取引については、注文の成立後、その注文を解約すること(いわゆるクーリング・オフ)はできません。

金融商品取引法等に関する表示
商号等 株式会社SBI証券 金融商品取引業者、商品先物取引業者
登録番号 関東財務局長(金商)第44号
加入協会 日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会、一般社団法人 日本STO協会、日本商品先物取引協会

ユーザーネーム
パスワード

セキュリティキーボード

ログインにお困りの方

資産運用フェス2025

よくあるお問合せ
・口座開設の流れ
・NISA関連のお問合せ
・パスワード関連のお問合せ

HYPER SBI 2 ダウンロード

金・銀・プラチナの投資情報

SBI証券はお客様の声を大切にしています

  • 資産運用フェス2025