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非鉄金属価格高騰〜期間構造の変化に注目
2024/4/24
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
2024年第2四半期に入ってから非鉄金属価格が急上昇した。非鉄金属価格は非鉄金属の最大消費国であり、かつ、最大生産国でもある中国の経済活動に大きな影響を受けるが、今回の上昇は複数の要因が重なったものだ。
まず、商品価格動向を占う上では需要動向が重要になるが、中国の景気先行き見通しはそれほど明るいものではないとみられていたものの、3月末に発表された中国製造業PMIが昨年9月振り50の閾値を予想に反して上回ったため、市場の想定よりも景気が回復しているのでは、との観測が強まった。中国の景況感改善は非鉄金属需要の増加観測を強めることになる。現在、中国の財政的な景気刺激策実施余地が限定されるため、中国の景気回復は欧米の景気回復を待つ必要があると多くの市場参加者が考えていたため、サプライズとなった。そしてその直後、4月1日に発表された米ISM製造業指数がやはり閾値の50を上回ったことは、中国からの輸出需要の回復期待も高めることになり、更に価格を押し上げることになった。米国経済の回復は非鉄金属需要というよりは、原油を含むエネルギー需要の増加観測を強めるため、原油価格も4月に入ってから上昇を始め、OPECプラスの減産遵守や中東情勢不安の高まりが更に価格を押し上げた。
原油価格の上昇は広く商品価格に影響を及ぼす期待インフレ率の上昇に繋がるため、このこともファイナンシャルな面で非鉄金属価格の上昇要因となった。これらの相場に対する強気材料が重なる中で、価格上昇をけん引したのは投機筋であると考えられる。投機筋は3月初旬まで総じて非鉄金属市場ではネット売り越しの状態だった。グラフはLME非鉄金属6種の投機筋のネット買越しポジションを、トン建てに換算したものである。取扱数量の多いアルミ、銅のポジションの影響を受けやすいのだが、見ての通り3月以降の買い戻しで価格が上昇していることが分る。これに加えて4月12日に米英がロシア産のアルミ、銅、ニッケルの取引を禁止する制裁を発動させたため、価格上昇は顕著な上昇になった。
出所:LME
しかし、非鉄金属の需給状況を見ると、さほどタイトとは言い難い。上海在庫はほとんどの金属が大幅に積み上がっており、足下の需給バランスの指標の1つである期間構造も期近の価格が期先の価格よりも安いがコンタンゴの状態になっている(グラフはLME銅)。このことは、現物の需給が足下の価格上昇よりもタイトではないことを示唆しており、投機的な買いが価格を押し上げていると考えられる。そのため、米統計の改善を受けた米金融緩和期待が後退する中、投機の買い戻し一巡後は下落することになろう。
しかし、この期間構造も期先にかけてはバックワーデーション(期近の価格が期先よりも高い状態)となっている。今後、景気にかかわらず脱炭素の動きが続くと予想される中、米中景気回復が偽りでなく需要が増加した場合、現在生産者が進めている生産調整の進捗と相まって需給がタイト化、全ゾーンバックワーデーションの状態になる可能性もある。また、今回のロシア産金属への制裁が米英のみならず、EUや親米国の中で広がった場合、想定外に大幅な上昇となるリスクも排除できない。非鉄金属の期間構造の変化は十分ウォッチする必要があろう。
出所:LME
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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