今後自動車産業は新興国が牽引
多くの投資関係者の年初における今年の株式市場に対する予想は新興国に対して先進国優位の展開であった。しかし、それに反して年初からインドネシアやインドといった新興国株式の上昇率が高くなっている。これが売り方の単なる買戻しか、新興国株式反転の端緒なのかまだ確証は持てないが、少なくとも新興国への中長期的な期待を多くの投資家が持っていることの証左とは言えよう。自動車産業もその例外ではない。
図1:各国主要インデックスの年初来騰落率(円ベース)
- (出所)bloombergよりSBI証券作成。
- (注)2014年3月末基準。日本は日経平均、米国はNYダウ、ドイツはDAX指数、中国は上海総合指数、ロシアはRTS指数、ブラジルはボベスパ指数、インドはSENSEX指数、インドネシアはジャカルタ総合指数、トルコはイスタンブール100指数、南アフリカはFTSE/JSE アフリカ 全株指数。
図2は世界の自動車販売台数の過去の推移と今後の予想を示している。世界全体に占める新興国の割合は2000年には約24%であったが、足元では約55%と過半を既に占め、2024年には65%にまで拡大する予想となっており、新興国が今後の市場の成長を牽引することは明白だ。つまり自動車各社にとっていかにして新興国市場を取り込んでいけるかが重要な戦略のひとつとなる。
図2:世界新車販売台数推移と予想
(出所)FOURIN世界自動車統計年刊2013
このような状況を勘案しどのような投資先が有望だろうか。本レポートでは(1)成長を牽引する中国、インド、インドネシアで高い市場シェアを誇るフォルクスワーゲン(以下、VW)、上海汽車集団、マルチ・スズキ、タタ・モーターズ、アストラ・インターナショナルといった外国株式と(2)今後モータリゼーションが加速すると期待できる中国、インド、インドネシア、フィリピンといった国の株式に投資をするファンドに注目する。以下、詳しく見ていきたい。
注目の関連ファンド
中国 | インド | インドネシア | フィリピン | |
世界の自動車市場を牽引するチャインドネシア |
どの国が成長を牽引するのか国別に予想をみると中国、インド、インドネシアの成長が大きい。2012年に約4,500万台であった新興国の自動車販売台数は2024年には約8,100万台に拡大する予想となっているが、増加分の73%は中国、インド、インドネシア3ヶ国の増加によるものとなっている。増加台数で表すと3ヶ国の合計で2,600万台にも上り、その規模は2012年の米国、日本、ドイツの自動車販売台数の合計を上回る。
図3:国別新興国の自動車販売台数予想
(出所)FOURIN世界自動車統計年刊2013
中国、インド、インドネシアの3ヶ国で今後約10年間において日米独3ヶ国を上回る規模の需要を新たに創出するというから世界の自動車市場全体へのインパクトも大きい。そのため、当然ではあるが中国、インド、インドネシア3ヶ国において既に高いシェアを獲得している企業は投資対象として将来有望と言えよう。
図4は各国の2012年における販売台数シェアをまとめたグラフである。中国ではVWが高いシェアを獲得しており、次いで中国の上海汽車集団がそれを追う。インドでは小型低価格車が人気となっており、軽自動車主体のマルチ・スズキや20万円の自動車を販売したと話題になったタタ・モーターズのシェアが高い。インドネシアではトヨタ自動車とダイハツを合計したトヨタグループで過半のシェアを獲得するなど、日本メーカーの地盤の強さがうかがえる。
図4:各国の自動車市場における市場シェア(2012年)
(出所)FOURIN世界自動車統計年刊2013
世界最大市場の中国で高シェアを獲得しているVWや上海汽車集団は取り分け有望と考えられるが当社ではこれらの銘柄を現状取り扱っておらず残念ながら当社から直接投資することはできない。一方、インドでシェア2位のタタ・モーターズにはNY証券取引所に上場するADRを通じて投資可能である。なお、首位のマルチ・スズキも日本のスズキが50%超出資する子会社でありスズキに投資をすることで間接的に投資できる。もちろん、トヨタやダイハツといったインドネシアで高シェアを獲得する日本企業には投資可能だが、インドネシア証券取引所に上場するアストラ・インターナショナルに投資した方が、より直接的にインドネシアでのモータリゼーションの恩恵に与ることができると考える。アストラ・インターナショナルは、インドネシア有数のコングロマリット企業で、トヨタやダイハツなどと独占販売契約を結んでいる。
インドのムンバイに本社を置く自動車会社。インド国内では商用車のシェアは首位、乗用車分野への進出は後発ながらインド国内第2位(1位はマルチ・スズキ)のシェアがある。2009年、日本円で約20万円という超低価格で 発売した『ナノ』が注目を集めた。また、2008年に買収したイギリスの高級車ブランドのジャガー・ランドローバー(ジャガーとランドローバー)を傘下に擁しており、業績を牽引する。
業績推移
- (出所)bloombergよりSBI証券作成。
- (注)PBR、PERは11/03期、12/03期、13/03期については各期末の株価、14/03E、15/03Eについては4月1日終値をそれぞれ用いて算出。
株価推移
インドネシア有数のコングロマリット企業。自動車産業を中心に、金融サービス、重機、アグリビジネス、情報技術(IT)、インフラ整備という6つの中核事業を有する。自動車産業ではトヨタ自動車 、プジョー、ダイハツ工業、BMW、いすゞ自動車、日産ディーゼルと独占販売契約を結んでいる。ダイハツ、いすゞの国内における自動車生産事業も行なっているほか、インドネシア国内販売台数が最大のオートバイメーカー、ホンダとオートバイの独占販売、生産契約を結んでいる。
業績推移
- (出所)bloombergよりSBI証券作成。
- (注)PBR、PERは11/12期、12/12期、13/12期については各期末の株価、14/12E、15/12Eについては4月1日終値をそれぞれ用いて算出。
株価推移
チャインドネシアに続く今後モータリゼーションが加速する国に注目 |
直接外国株式に投資をするのはハードルが高いが新興国の自動車市場の成長の恩恵には与りたいという投資家にはファンドに投資するという方法もある。新興国自動車関連ファンドといったファンドがあればわかりやすいのだが残念ながら現状国内籍の公募投信では存在しない。そのため代替手法として自動車産業が今後大きく拡大できる国の消費関連の株式に投資をするファンドに投資する方法が挙げられる。自動車市場が拡大するということはそれだけ内需が拡大しているということであり、間接的ではあるが恩恵に与れそうだ。
その際には世界の自動車市場全体に与える影響という点では中国、インド、インドネシアの3ヶ国が新興国の中でも突出しているものの、その他の新興国の自動車販売台数も2012年から2024年の間に47%拡大する点も見逃せない。
一人当たりGDPが3,000ドルを超えてくるとモータリゼーションが加速し自動車の普及率が高まると言われている。図5は自動車の普及率と一人当たりGDPをプロットしたグラフだが、確かに強い相関が見て取れる。この傾向に着目して一人当たりGDPが3,000ドルを基準に自動車産業が正に離陸期にある国の株式に投資をするという投資法は有望そうだ。
図5:自動車普及率と一人当たりGDP
(出所)FOURIN世界自動車統計年刊2013、IMF World Economic Outlook October 2013
図6は主要新興国の一人当たりGDPと人口をまとめたグラフである。このグラフから先ほどの中国、インド、インドネシアに加えて一人当たりGDPが3,000ドル近辺にまで達し豊富な人口を擁しているフィリピンも有望な市場と考えた。なお、ブラジル、ロシア、トルコなども一人当たりGDP、人口の両観点から有望な市場ではあるが、既にある程度自動車が普及しているそれらの国よりも、まだ普及率が5%にも満たないフィリピンの方が、成長という観点では潜在力が大きいといえる。
図6:各国の一人当たりGDPと人口
(出所)IMF World Economic Outlook October 2013、World Population Prospects: The 2012 Revision
中国、インドといった日本にも多くのファンドが存在する国のファンドの場合、消費関連の株式に特化して運用するファンドが存在する。一方、インドネシア、フィリピンといった国でも消費関連の株式に特化して運用するファンドは存在しないが、これらの国の株式に特化して運用するファンドならある。
また、新興国の旺盛な消費が成長の牽引役となっているブランド株に投資する戦略も間接的に新興国の成長を享受するための方法としては注目できる(詳しくは、世界中から愛されるプレミアム・ブランドは、なぜ投資価値も高いのか?! 参照)。
図7:注目ファンドとパフォーマンス(2014年2月末基準)
投資対象 |
ファンド名 |
トータルリターン(年率) |
レーティング |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
1年 |
3年 |
5年 |
10年 |
|||
先進国株式 |
31.47% |
20.64% |
30.49% |
- |
☆☆☆☆ |
|
インド株式 |
-1.57% |
7.44% |
17.33% |
- |
☆☆☆☆☆ |
|
フィリピン株式 |
-2.75% |
28.21% |
- |
- |
☆☆☆☆ |
|
インドネシア株式 |
-10.73% |
7.09% |
- |
- |
☆☆ |
|
中国株式 |
37.89% |
- |
- |
- |
- |
HFT(超高速売買)の隆盛などもあり、「今日何が上昇するのか」ということに注目する短期志向の投資家が増えてきている。そのため、昨今は市場に歪みが生じやすくなってきているように感じる。短期的に正しいことが中長期的には間違っているということはしばしば起きる。短期的には変動率が高い相場展開が予想される一方で中長期的には有望な投資先という点で新興国投資は正にその典型例と言える。
投資格言に「人の行く裏道に道あり花の山」とあるように株式投資はひねくれ者程上手くいく側面がある。多くの人が短期的な相場の先行きに目が行っている今こそ逆に中長期的な視点で臨むことが将来の収益につながる投資行動とは言えないだろうか。
- ※上記実績は過去のものであり、将来の運用成果等を保証するものではありません。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。