6月に入り日経平均は波乱含みの展開になっています。テクニカル的にみると「弱気転換」した訳でないことが救いですが、重要日程目白押しでもあり、先行き予断は許されません。
しかし、株式市場は今後の市場の株価「上昇エンジン」を見落としているかもしれません。消費増税延期が当面の景気・企業業績を下支え、デフレ回避に寄与する可能性を評価していないように思われます。今後、こうした評価が増えてくれば、本格的な株価上昇につながる可能性もありそうです。
「弱気転換」を免れた日経平均 |
日経平均株価は4月末終値16,666円05銭から、5月末は17,234円98銭と3.4%上昇しました。堅調な米国経済指標や円安・ドル高、原油高傾向の継続等が追い風になりました。厳しい企業業績の織り込みも進み、日経平均の予想EPS(一株利益)が底入れしたこともプラス材料になりました。しかし、6月は一転波乱のスタートとなりました。日経平均株価は6/1(水)に前日比279円安、6/2(木)に同393円安と続落、6/6(月)も一時319円安するなど不安定な動きが目立っています。
月が替わり、第2項でもご説明するように6月は重要日程が目白押しで「激動」となる可能性もあるため、利益確定売りが先行した可能性がありそうです。6/1(水)に安倍首相が消費増税の延期(2017/4から2019/10)を決定しましたが、投資家心理が不安定な中で将来の財政再建に対する不透明感がむしろ指摘されるなど、好感されなかったことも響いていると考えられます。6/3(金)に発表された米雇用統計(5月)では、非農業部門雇用者数の伸びが前月比3.8万人にとどまり、外為市場で円高・ドル安が進んだことから6/6(月)の東京市場には強い逆風となりました。
ただ、米雇用統計が非常に弱かったにもかかわらず、6/6(月)の日経平均株価は下げ渋り、6/7(火)は95円高になるなど、株式市場の反応は落ち着いているように見受けられます。市場は米国の政策金利引き上げが、世界的なリスクマネーの縮小につながることを警戒してきましたので、政策金利の引き上げが先送りされる可能性が強まったことを好感していると考えられます。
図1は日経平均株価の過去3ヵ月の推移(日足)を一目均衡表にしたものです。6月に入り下落に転じましたが、クモの下限を下値支持線にしながら、そこを割り込まず「弱気転換」を免れています。今後はどうなるでしょうか。
図1:日経平均株価(日足)・一目均衡表
- ※当社チャートツールもとにSBI証券が作成。データは2016/6/7現在。
当面のタイムスケジュール〜「激動も想定される6月」は「日銀会合」等に注目 |
前回(5/31掲載)の「225の『ココがPOINT!』」では「株式市場にとって6月は激動の1ヵ月になりそう」と申し上げました。確かに6/3(金)発表の米雇用統計(5月)などは、雇用者数の伸びが目を疑うような弱さで、市場に大きな波乱をもたらしても不思議ではない数字でした。幸い、その後の市場は比較的落ち着いた反応を示していましたが、今後も重要日程は続く予定になっていますので、予断は禁物だと考えられます。
当面の6月第2週(6/6〜6/10)の重要日程としては6/10(金)のメジャーSQがあげられます。SQにかけては、裁定買いポジションの解消等で波乱になることも多いこと、先物市場関係者にとっては中心限月交代で身動きがとりにくいこと等を背景に、市場参加者が減りやすくなります。東証一部の売買代金が2兆円台を割り込むことも珍しくなくなっているので、さらなる市場ボリュームの減少が懸念されます。ただ、「裁定買い残」も低水準で、その分だけ波乱の可能性も低減されていると考えられます。
なお米雇用統計の結果を受け、FOMC(結果発表は米国時間6/15)および日銀金融政策決定会合(同日本時間6/16)が改めて注目されることになります。雇用統計後のイエレン議長の発言などを聞いても、今回の6月のFOMCで利上げが実施される可能性はゼロに近いと考えられますので、そのため、FOMCの「結果」に対する注目度は低下しましたが、FRBの考え方等については引き続き注視する必要がありそうです。また、日銀金融政策決定会合については、伊勢志摩サミットが終わり、消費増税先送りも決定され、追加緩和への期待が高まりつつあるように思われます。ただ、6/23(木)の英国民投票で「万が一」の「英国のEU離脱」を警戒すると、追加緩和は難しいかもしれません。
表1:当面の重要なタイムスケジュール/日銀金融政策決定会合など重要日程は多い
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
6/8(水) |
日本 |
1〜3月GDP改定値 |
速報値は前期比年率1.7%成長。事前予想は1.9% |
日本 |
4月の国際収支 |
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日本 |
5月景気ウォッチャー調査 |
事前予想では先行指数が45.9 |
|
中国 |
5月貿易収支 |
事前予想では輸出が前年比-4.0%、輸入が-6.7%の予想 |
|
6/9(木) |
日本 |
4月機械受注 |
3月は前月比5.5%増 |
日本 |
5月都心オフィス空室率 |
1月4.01%、2月4.04%、3月4.34%、4月4.23%と推移 |
|
中国 |
5月消費者物価 |
事前予想では、前年比2.2%上昇の見込み |
|
中国 |
中国、台湾、香港市場が休場 |
端午節(〜10日) |
|
6/10(金) |
日本 |
メジャーSQ |
3月SQ値は16,586円95銭 |
米国 |
6月ミシガン大学消費者信頼感指数 |
||
6/12(日) |
中国 |
5月鉱工業生産 |
事前予想では前年比6.0%増 |
中国 |
5月小売売上高 |
事前予想では同10.1%増 |
|
中国 |
5月都市部固定資産投資 |
事前予想では同10.4%増 |
|
6/13(月) |
米国 |
アップル世界開発者会議 |
|
6/14(火) |
米国 |
5月小売売上高 |
事前予想では前月比0.4%増 |
米国 |
ゲーム見本市(E3)(〜6/16) |
バーチャルリアリティなどが注目材料に? |
|
6/15(水) |
米国 |
FOMC結果発表 |
雇用統計(5月)悪化の影響で利上げの可能性がほぼゼロに。 |
米国 |
6月NY連銀製造業景気指数 |
||
米国 |
5月鉱工業生産 |
||
6/16(木) |
日本 |
日銀金融政策決定会合結果発表 |
追加緩和への「期待」が高まる可能性も |
米国 |
フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 |
||
米国 |
5月消費者物価指数 |
||
米国 |
6月NAHB住宅市場指数 |
||
6/17(金) |
米国 |
5月住宅着工数 |
|
6/22(水) |
日本 |
参議院選挙公示(予定) |
改選議席数は121(うち自民党50) |
6/23(木) |
英国 |
EU(欧州連合)離脱を問う国民投票 |
|
7/1(金) |
日本 |
日銀短観 |
3月調査で大企業・製造業の現況は+6、先行きは-3% |
7/10(日) |
日本 |
参議院選挙投開票 |
- ※各種報道等をもとにSBI証券が作成。データは2016/6/7現在。
【ココがPOINT!】「消費増税延期」で景気・企業業績を下支え |
6/1(水)に安倍首相が消費税引き上げ延期を決定しました。従来は2017/4から引き上げ(8%→10%)の予定でしたが、引き上げ開始が2019/10に先送りされることになりました。
消費税を引き上げると景気は「腰折れ」となってしまうのか、または大丈夫なのか、引き上げないと税収は一層苦しくなるのか、または大丈夫なのか等、意見はまさに「百家争鳴」状態になっています。ここでは、そのどちらかを「味方」する訳ではありません。恐らく、正解は遠い将来にしかわからないと思います。
ただここで重要なのは、どうも税収の回復のためには、名目GDPの成長が必要そうだということです。図2にもあるように、平成バブルが頂点を迎え、消費税が最初に導入された1989年までは順調にGDPが拡大し、予算の上での税収も増加傾向でした。
こうした中、消費税率を3→5%と引き上げた1997年頃から名目GDPは縮小し、税収も急減しています。2009年を底に税収は回復傾向ですが、名目GDPも回復傾向です。仮に2014/4の消費税引き上げが「成功」とするならば、それは名目GDPが拡大過程であったことが大きな支援材料といえそうです。
消費税引き上げにはタイミングが重要であり、一歩間違えると税収増加につながらないリスクもあるといえそうです。今回、消費増税が延期されたことで、3月決算でいえば、2017/3期(今期)、2018/3期(来期)、2019/3期(再来期)まで、その影響から回避することが可能になります。仮に2017/3期は円高で厳しい企業業績を覚悟するにせよ、2018/3期、2019/3期と改善が期待できることになります。しかし、仮に消費税引き上げが決まっていたならば、2018/3期も減益の可能性が大きかったといえます。
上場企業の業績(経常利益ベース)は、2016/3期の微減益の後、2017/3期に微増益(円高進展の場合、減益も)、2018/3期に減益というのがメインシナリオになっていた可能性があります。この場合、企業が設備投資を積極化し、賃金も増やすことを考えるとは考えにくくなります。デフレの悪循環が「復活」してしまうリスクはゼロではなかったと考えられます。消費増税の延期は景気・企業業績を助け、名目GDP(実質成長+インフレ率)の拡大・維持に寄与する可能性が大きいと考えられます。そして、名目GDP(実質成長+インフレ率)の拡大・維持自体が税収の維持にもつながると考えられます。
株式市場が、消費増税延期により当面の企業業績が下支えられ、デフレ回避にも寄与すると考えるようになれば、株価は徐々にそれを評価して上昇してくることも想定されます。今回の安倍首相の決定は、株式市場にあまり織り込まれていない可能性もありますが、今後は織り込まれてくる可能性もあるでしょう。
図2:名目GDP(兆円)と税収の推移
- ※Bloomberg、IMFデータをもとにSBI証券が作成。GDPは暦年、税収(一般会計予算)は年度ですので、正確には若干のズレが生じていますのでご注意ください。
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