史上最速で1億人のユーザー数を獲得したとされる生成AIの「ChatGPT」が注目を集めています。「ChatGPT」はインターネット検索において画期的なイノベーションになる可能性が高く、マイクロソフト(MSFT)とGoogleを傘下に持つアルファベットA(GOOGL)の「AI対決」の的にもなっています。今後、生成AIはインターネット検索に限らず、いろいろな分野で実用化が加速されるとの期待も高まっています。今回は、「ChatGPT」をめぐる動きと関連銘柄をご紹介したいと思います。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(2/14) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
マイクロソフト(MSFT) | 272.17米ドル | 315.95米ドル | 213.43米ドル |
エヌビディア(NVDA) | 229.71米ドル | 289.46米ドル | 108.13米ドル |
アドビ(ADBE) | 377.90米ドル | 482.53米ドル | 274.73米ドル |
グローバルX AI&ビッグデータETF(AIQ) | 23.69米ドル | 28.35米ドル | 18.01米ドル |
アルファベット A(GOOGL) | 94.68米ドル | 143.79米ドル | 83.34米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ChatGPTが注目を集め始めたのは、昨年末に遡ります。マイクロソフト(MSFT)が出資している米新興企業のOpenAIが開発したChatGPTは、昨年11月末に一般ユーザーに公開されました。当時、公開されてからわずか1週間弱でユーザー数が100万人に達し、話題を呼びました。UBSの調査によると、ChatGPTの月間アクティブユーザー数は2023年1月に1億人を超えたと推定され、ChatGPTは史上最速で1億人を突破した消費者向けアプリケーションとなりました。
今年1/23に、マイクロソフトはChatGPTを開発した米新興企業のOpenAIに今後数年で、数十億ドルの追加投資を発表しました。実際の投資額は最大で100億ドルに上るとの観測も出ており、ChatGPTに対する注目度はさらに高まりました。
そもそもChatGPTとは何か、Q&A方式で確認してみたいと思います。
図表2 「ChatGPT」に関するQ&A
Q | A |
---|---|
ChatGPTは? | 米新興企業のOpenAIが開発した人工知能(AI)を用いたチャットボット(自動応答システム)で、ジェネレーティブ(生成)AIの代表例である。 なお、GPTは「Generative Pre-trained Transformer」の略で、ディープ・ラーニングを使用して人間のようなテキストを生成する大規模な自然言語テクノロジーである(ガートナーより)。 |
ChatGPTを開発したOpenAIは? | プログラマーで起業家のサム・アルトマン氏やテスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOらが2015年に共同で設立した会社(当時は非営利の研究開発組織)。ChatGPTや画像生成AIのDall-Eを開発。なお、マスク氏は2018年に手を引き、現在は経済的な利害関係はない(Bloombergより)。 その後、OpenAIは2019年に営利目的の事業体となり、マイクロソフト(MSFT)が10億ドルを出資した。マイクロソフトは2021年にも出資し、2023年1月には追加投資を発表した。 |
ChatGPTのユーザー数は? | 2022年11月末に公開された際、わずか1週間弱でユーザー数が100万人に達した。UBSの調査によると、2023年1月には月間アクティブユーザー数が1億人に達したと推定される。 |
ChatGPTの特徴は? | ChatGPTは生成AIとして、質問に対して人間が書いたような高精度の文章で回答してくれる。チャット機能だけでなく、質問(要望)に応じてエッセイや論文のドラフト、企画書などを書くこともできる。経営学修士課程(MBA)の試験でChatGPTを用いた実験では、ChatGPTが合格点を取ったとの研究結果も出ている。 |
※Bloombergおよび各種資料をもとによりSBI証券が作成
【マイクロソフトとアルファベット】
ChatGPT関連銘柄として、「大本命」を挙げるのならマイクロソフト(MSFT)となるでしょう。図表2でみたように、ChatGPTはマイクロソフトのOpenAIへの継続的な投資の成果と言えます。ChatGPTの開発もマイクロソフトの資金だけでなく、マイクロソフトのクラウド基盤なくしてはできなかったため、OpenAIにとってマイクロソフトは重要なパートナー企業です。
そして1/23、両社はパートナーシップの拡大を発表しました。マイクロソフトは今後数年間で、OpenAIに数十億ドルを追加投資するとともに、OpenAIのモデルを自社製品に展開すると表明しました。その後2/7に、マイクロソフトはChatGPT技術を搭載した検索エンジンの「Bing」やブラウザーの「Edge」の新バージョンを発表しました。
新しいBingは質問に対して、ウェブのページを要約し人間が書いたような文章で回答してくれると同時に、参照先も提示してくれるため、そのリンク先を確認することができます。「検索」と「ブラウジング」(インターネット等を閲覧すること)、「チャット」を一つにまとめたことで、より優れた検索や回答を得られることが期待されます。
マイクロソフトが検索エンジンの「Bing」にChatGPT技術を搭載したのは、明らかに世界検索エンジン最大手であるGoogleへの挑戦を意味します。2/7というタイミングも、Googleがマイクロソフトに対抗してChatGPTに類似した「Bard」を発表した翌日に当たります(図表3)。そしてその翌日の2/8に、GoogleはさっそくBardの機能を示すデモンストレーションを実施しました。しかし、その回答例に誤りがあったことが発覚しました。それを受け、Googleの親会社であるアルファベットA(GOOGL)の株価は2/8に急落しました。
図表3 「ChatGPT」をめぐる主な動き、およびマイクロソフト(MSFT)とアルファベットA(GOOGL)の株価推移
※Bloombergおよび各種資料をもとによりSBI証券が作成
市場が警戒しているのは、ChatGPT技術が搭載されたマイクロソフトの新しいBingが、インターネット検索においてGoogleからシェアを奪うことです。Googleの市場シェアが9割以上と高いことからすると、新しいBingがGoogleからシェアを奪うにしても時間がかかるかもしれません。しかしながら、ChatGPTの成功やその人気ぶりからすると、生成AIで先行しているマイクロソフトに対してGoogleが「モタモタ」すると、Googleよりも新しいBingを使う人が次第に増えていく可能性は十分あると考えられます。遅れを挽回できるかどうか、Googleの今後の戦略や動向が注目されます。
【その他の企業】
ChatGPTが人気を博し、マイクロソフトがOpenAIに対して大規模な追加投資を発表してから、株式市場ではChatGPTや生成AIが大ブームとなっています。BloombergはChatGPTが公開されてから、企業の決算発表会ではChatGPTに関する言及が増えていると指摘しています。
そこで、Bloombergの機能を用いて、2022年10月以降から足元の2/14までに、決算発表会や証券会社主催のカンファレンスで、ChatGPT(類似した文言も含む)に関する言及が多かった企業のリスト(※)を抽出してみました。
図表4 決算発表会からみるChatGPTに関連する企業(注)
銘柄名 | 合計言及数 | 企業概要 |
---|---|---|
マイクロソフト(MSFT) | 20 | ソフトウエア会社 |
エヌビディア(NVDA) | 16 | グラフィックスプロセッサーと関連ソフトウエアの設計・開発・販売会社 |
ぺリオン ネットワーク(PERI) | 11 | デジタルメディア企業 |
シャッターストック(SSTK) | 6 | デジタル画像会社 |
DHI グループ(DHX) | 5 | 情報技術サービス会社 |
アルテリックス A(AYX) | 5 | ソフトウエアの設計・開発会社 |
IBM(IBM) | 4 | コンピューター・ソリューションを提供 |
モトローラ ソリューションズ(MSI) | 3 | 総合電子通信機器メーカー |
注:合計言及数の順位で上位20社のうち、米国企業でかつ「買い」の投資判断を付与しているアナリストの数が3人を超える企業のリストです。
※BloombergデータをもとによりSBI証券が作成
図表4を確認してみると、当然ながらマイクロソフトが1位でした。次いで、半導体大手のエヌビディア(NVDA)が2位となりました。ChatGPTなど生成AIが必要とするグラフィック半導体市場で、エヌビディアが支配的な立場にある点からすると、想定内と言えるかもしれません。多くの証券会社は、ChatGPTの活用やマイクロソフトのOpenAIへの大規模な追加投資による恩恵が最も期待できる銘柄にエヌビディアを挙げています。
一方、アルファベットがリストに入っていないのは、若干腑に落ちないかもしれません。そこで、検索ワードを「ChatGPT」ではなく、「生成AI」に変えてみました。その結果、アルファベットは上位5位に入りました(図表5)。
図表5 決算発表会からみる「生成AI」に関連する企業(注)
銘柄名 | 合計言及数 | 企業概要 |
---|---|---|
シャッターストック(SSTK) | 26 | デジタル画像会社 |
エヌビディア(NVDA) | 19 | グラフィックスプロセッサーと関連ソフトウエアの設計・開発・販売会社 |
アドビ(ADBE) | 10 | ソフトウエア会社 |
アルファベット (GOOGL) | 8 | 持株会社(Googleの親会社) |
メタ・プラットフォームズ (META) | 5 | ソーシャルテクノロジー会社 |
注:合計言及数の順位で上位5社の企業リストです。
※BloombergデータをもとによりSBI証券が作成
図表4と図表5を確認してみると、それ自身がChatGPTや生成AI技術に取り組んでいる企業(たとえばマイクロソフトやアルファベット)のほかに、それらの企業に対して何らかのインフラを供給している企業(たとえばエヌビディアやIBM)、あるいはその技術を搭載した製品やサービスを提供している企業(たとえばシャッターストックやアドビ)も含まれています。
今後、ChatGPTや生成AI技術を搭載した製品やサービスを提供する企業が増えていけば、ChatGPTは単なる「にわかブーム」に終わらず、またインターネット検索に限らずあらゆる産業に大きな影響を及ぼす可能性があります。IT調査に強みを持つ米ガートナーは、「現在注目を集める「ChatGPT」は、コンテンツやデータをAI自身が創出する「ジェネレーティブ(生成)AI」のほんの始まりにすぎない」との見方を示しています。
他方、過去の「ブロックチェーン」や「メタバース」のように短期的にもてはやされた後、下火になった投資テーマがあったことも事実です。ChatGPTがにわかブームで終わることに警戒は必要かもしれません。一方、今回のChatGPTの場合は、人々の身近な生活にかかわる分野での「ヒット製品」であることは大きな意味を持つと思います。また、ChatGPTの成功により、生成AIの可能性が一段と認識され、それに関する投資や応用は拡大すると予想されます。したがって、生成AIは短期ではなく、中長期的に注目していくのに値する投資テーマと言えそうです。
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