今年4月から印象的な上昇となったユーロ・ドル相場ですが、ここ2ヵ月余りは反落となっています。ただ、反落の主因と考えられる米税制改革の金融市場での織り込みはかなり進んだとみられ、ユーロ・ドルは再び上昇トレンドに回帰する可能性が高そうです。ユーロ圏の資産に注目できるでしょう。
図表1:欧州株式に投資するETF(上場投資信託)
取引 | チャート | コード | 銘柄 |
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EWG | iシェアーズ MSCI ドイツ ETF | ||
IEV | iシェアーズ ヨーロッパ ETF | ||
VGK | バンガード FTSE ヨーロッパETF |
※当社WEBサイトとをもとにSBI証券が作成
今年のユーロ・ドル相場は、4月の1.06ドル/ユーロ辺りから8月の1.20ドル/ユーロ超えまで、印象的な上昇相場となりました。9月上旬をピークにここ2ヵ月余りは反落となっていますが、再び買いのチャンスを迎えているのではないでしょうか。
ユーロサイドでは、9月上旬以降以下の材料が出ました。ユーロ圏の景気回復を背景に、早くから市場ではECBが量的緩和に踏み出すのではとの期待が高まっていたため、これらはマイルドながらユーロの弱気材料になったとみられます。
〇9/7(木)のECBドラギ総裁会見:インフレを中期的に支えるために、非常に大規模な金融緩和が依然として必要だ。量的緩和縮小の検討は10月に行う。
〇9/24(日)のドイツ連邦議会選挙:メルケル首相が4選を決めるも極右政党「ドイツのための選択肢」の得票率が13%に達する玉虫色の結果となった。
〇10/26(木)のECBドラギ総裁会見:債券買い入れの規模を、現在の月額600億ユーロから18年1月から9月まで、300億ユーロに引き下げる。プログラムの期限については、延長の可能性も含め柔軟に対応する。
一方、ドルサイドでは、8月末辺りから税制改革実現への期待が高まり、米10年国債利回りは2.1%割れの水準から10月下旬に一時2.4%超えまで上昇しました。米独10年国債利回り格差の拡大に貢献して、ユーロ・ドル反落の主な要因になったと考えられます(図表2)。
ただ、下院共和党の「税制改革法案」が10/26(木)に発表され、今週から議会での審議が始まっていますので、金融市場での織り込みはかなり進んだと考えられます。また、議会審議の中で紆余曲折も予想され、ユーロ安、ドル高の材料は一旦出尽くしたと言えるのではないでしょうか。
ドルサイドの材料として、12/13(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)で政策金利の引き上げが予想されますが、市場の利上げ確率は既に90%以上となっているため、追加的にドル高、ユーロ安に作用する力は限定的でしょう。
このため、ユーロ・ドル相場は、中長期のトレンドと考えられるユーロ高、ドル安に回帰する可能性が高いのではないでしょうか。
ユーロが上昇に転じるとして、今後の上値はどの程度が期待できるでしょうか?長期のチャートで検討してみましょう。
図表3は過去5年の週足チャートで、8月初めに200週移動平均線を力強く突破した後、9月上旬をピークに反落して再び同移動平均線をやや割り込んでいます。これを大きく下回ることなく下値固めができれば、反発が期待できそうです。
為替の「ファンダメンタルズ」とも言える購買力平価では、ユーロはまだ割安な位置にあると言え、来年にかけて中期的には1.25ドル/ユーロ辺りが妥当値として意識されると見込まれます。上昇が続けばオーバーシュートするのが相場の常ですので、1.30ドル/ユーロの可能性も十分ありそうです。
ユーロ圏のファンダメンタルズの一例として、鉱工業生産指数の前年比をあげると、昨年央辺りを境に増勢が強まっていることが確認できるでしょう(図表4)。
ユーロ・円については、日本銀行の金融緩和姿勢が継続する見通しであることから、ユーロ・ドル以上にユーロの上昇が大きくなると期待できるでしょう。
ユーロの上昇を取るにはいろいろな方法がありますが、その一つとして欧州株式に投資するETFを図表1にご紹介しています。ユーロが急激に上昇すると株式はこれを嫌気して一時的に下げることが多いものの、景気回復が背景となっている場合には、戻っていくことが期待されます。
図表1の筆頭「iシェアーズ MSCI ドイツ ETF」はドイツにのみ投資します。一方、「iシェアーズ ヨーロッパ ETF」と「バンガード FTSE ヨーロッパETF」はユーロ圏と英国の両方の株式に投資します。Brexitによる英国企業への悪影響が気になる方は、これを避けたほうがよいでしょう。
尚、通貨ユーロが中期的に上昇トレンドにあると考える背景については、4/12掲載の特集レポート「フランス大統領選挙接近で高まる欧州資産への注目」、6/30掲載の今週の注目ETF「ドラギ発言を受けてユーロが急上昇!!上値のメドは?」もご参照ください。
図表2:米国の税制改革案への期待で反落したユーロ・ドル相場
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:ユーロの対ドルレート、中期的には1.30も!?
注:購買力平価は国際通貨研究所の17年7月データによる計算です。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表4:ユーロ圏の鉱工業生産は増勢が強まる
注:ユーロ圏の鉱工業生産(労働日数調整後)の前年比伸び率です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成