先週はパウエルFRB議長の議会証言を好感して上昇する場面がありましたが、ウクライナ侵攻の長期化、ドロ沼化の可能性が高まって相場の重石となりました。今週の株価材料として、引き続きロシアのウクライナ侵攻、原油価格の動向、インフレ指標、などが注目されます。
今回はウクライナでの戦闘が継続する中で物色されやすいと考えられるコモディティ関連と防衛関連から、コノコフィリップス(COP)、アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM)、モザイク(MOS)、ロッキード マーチン(LMT)、ゼネラル ダイナミックス(GD)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 9.3% | 7.0% | 32.1% |
公益事業 | 4.8% | 3.2% | 2.9% |
不動産 | 1.7% | -0.2% | -5.2% |
資本財・サービス | 1.2% | 0.0% | -4.4% |
ヘルスケア | 1.2% | 0.3% | -0.1% |
生活必需品 | -0.1% | -0.3% | 4.2% |
S&P500 | -1.3% | -3.5% | -7.6% |
素材 | -1.6% | 0.2% | -5.3% |
一般消費財・サービス | -2.6% | -7.1% | -17.1% |
コミュニケーションサービス | -2.7% | -4.9% | -14.7% |
情報技術 | -3.0% | -5.6% | -13.3% |
金融 | -4.9% | -7.6% | -5.2% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
シェブロン | 13.0% |
ターゲット | 12.5% |
ロッキード・マーチン | 11.9% |
キンダー・モルガン | 10.4% |
コノコフィリップス | 9.9% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ブッキング・ホールディングス | -13.0% |
キャピタル・ワン・ファイナンシャル | -12.7% |
アメリカン・エキスプレス | -10.7% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | -10.6% |
マスターカード | -10.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
2/28(月)はロシア銀行の「SWIFT」排除など強力なロシア制裁が、米銀など一部米国企業にも跳ね返りがあると懸念されて下落、3/1(火)はロシアのウクライナ攻撃が激化してリスクオフが強まり、株式は大幅安、原油価格は大幅続伸、安全資産として債券が買われました。
3/2(水)は、ウクライナ情勢が膠着の一方、パウエルFRB議長の議会証言で、3月に0.25%の利上げが示唆されました。FRBの金融政策に対する不透明感がかなり解消されて株式は上昇しました。
3/3(木)はウクライナ危機の長期化が意識され、反落しました。ロシア・ウクライナ間の2回目の停戦協議に大きな進展はありませんでした。3/4(金)の雇用統計は市場予想を上回り好調となりましたが、引き続きウクライナ情勢が重石となりました。
S&P500指数は週間で1.3%、NYダウは1.3%、ナスダック指数は2.7%の下落でした。
業種指数では、原油価格の上昇が恩恵となる「エネルギー」、配当利回りが高い「公益事業」の上昇が大きくなっています。個別銘柄では、原油価格上昇を受けてシェブロン(CVX)の上昇が大きくなりました。同じく総合エネルギーのエクソン モービル(XOM)が、ロシア制裁として「サハリン1」からの撤退を表明してダメージが想定されるため、シェブロンに対する物色が強まったとみられます。
ターゲット(TGT)は、決算発表で11-1月期実績、2023年1月期のガイダンスとも市場予想を上回って好感されました。11-1月期の既存店売上は来店客数が回復して前年同期比8.9%増となりました。2023年1月期は売上が前年比1〜5%増、調整後EPSは同7〜9%増を見込みます。
経済指標では、2月雇用統計の非農業部門雇用者数が前月比67.8万人増と、市場予想の同40万人増を上回って雇用市場の堅調が確認されました。2月平均時給は前年比5.1%増と1月の同5.5%増から低下して、ここ数ヵ月でインフレの沈静を示唆する初めての指標となりました。2月のISM製造業景気指数は前月の57.6から58.6に改善の一方、ISM非製造業景気指数は前月の59.9から56.5へ悪化しました。オミクロン株拡大の影響が残ったとみられます。
今週の米国株式市場
ロシアのウクライナ侵攻、原油価格の動向、インフレ指標、などが注目されます。米国株式市場は、先々週にはS&P500指数の予想PERが18倍を割り込んだところで強力な押し目買いが入ることが確認されました。しかし、その後のウクライナ情勢の変化を受けて、影響が長引く可能性が出ており、当面は上値の重い展開となりそうです。
ロシアによるウクライナ侵攻は局地的な軍事紛争に終始するだろうと考えられてましたが、ウクライナの想定外の頑張りによって世界的な関心事となり、対ロシア制裁がエスカレートして相場の重石になっています。
プーチン大統領側からみると、首都キエフを強引に陥落させることはできるでしょうが、世界各国からの制裁が非常に厳しくなるリスクを考えると、簡単には踏み切れないでしょう。かといって国内政治を考えれば、今回のウクライナ侵攻で得るものなく引くことはできません。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、停戦の条件としてロシア軍の即時撤退とウクライナ東部地域とクリミア半島の返還をあげ、強硬な姿勢を貫いています。今後の交渉での譲歩分を考えてのこととみられますが、2回目の停戦協議でも両国の隔たりが大きいとされ、着地点が見えなくなっています。
着地点が形成される可能性として、(1)両国の痛み分けで停戦に合意、(2)キエフ陥落でウクライナが降伏、(3)プーチン大統領の退陣で収拾、などが考えられますが、どう転ぶか予想が難しくなっています。
原油価格は大幅に上昇しています。欧米のエネルギー大手がロシア事業からの撤退を決めたことが大きな理由と考えられます。ロシア側からすると欧米大手による探鉱・生産技術と販路を失うことになり、ロシアのエネルギー供給に中長期的な打撃となる可能性があります。この点については、3/3(木)付のフラッシュレポート「原油価格大幅上昇の理由!流れはゼレンスキー大統領が変えた!!」をご参照ください。
さらに、3/6(日)にはブリンケン米国務長官が米国と欧州同盟国がロシアからの石油輸入禁止を検討していると明らかにしたことから、WTI先物価格の夜間電子取引は125ドル前後で推移しています(日本時間3/7(月)午前10時)。インフレ上昇への寄与が懸念されて、米国の株式指数先物の夜間取引は1%を超える下落となっています。
米国の消費者物価上昇率は2月も拡大が予想されています。前年の上昇率が高まった4月までは拡大が続く可能性が高くなっています。直近急騰した原油価格も先行きに不透明感を加えて、引き続き警戒が続きそうです。
一方、物価上昇は金利上昇圧力を強めるために市場が注目していますが、ウクライナ侵攻の長期化は景気を冷やす可能性も出てきていることから、市場の反応は複雑化しやすいでしょう。
経済指標では、3/7(月)に中国の2月貿易統計? (輸出は前年比14.0%増の予想 、前月は同60.6%増、輸入は前年比17.0%増の予想 、前月は22.2%増)、3/9(水)に中国の2月生産者物価(前年比8.6%増の予想、前月は同9.1%増)、同消費者物価(前年比0.9%増の予想、前月は同0.9%増)、
3/10(木)に米国の2月消費者物価指数(前年比7.9%増の予想、前月は7.5%増、前月比0.8%増の予想)、3/11(金)に米国の3月ミシガン大学消費者マインド(前月の62.8から61.0に悪化の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、クラウドストライクホールディングス、マルケタ、リビアンオートモーティブ、オラクル(E)、アルタビューティなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
ロシアのウクライナ侵攻が長期化、ドロ沼化する可能性が出てきて、着地点が見えにくくなっており、当面は相場の不透明要因として残りそうです。
そこで今回は、紛争が継続する中で物色されやすいと考えられる、コモディティ関連と防衛関連の代表的銘柄をご紹介いたします。
コモディティ関連では、ウクライナ侵攻に伴う経済制裁を受けて、ロシアが世界輸出の11.4%を占める原油、同じく17.6%を占める小麦などの価格上昇が著しくなっており、関連銘柄への恩恵が期待されています。
防衛関連では、ウクライナ侵攻を契機にドイツがGDPの2%以上を防衛費に割き(2021年の実績は1.53%)、1,000億ユーロを防衛装備に支出する方針を発表、他のNATO加盟国も同様に防衛費を引き上げると想定されることから、米国の防衛産業にも恩恵が期待されています。
資源関連では、原油価格上昇の恩恵を受けるエネルギー企業から、コノコフィリップス(COP)、アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM)、モザイク(MOS)、ロッキード マーチン(LMT)、ゼネラル ダイナミックス(GD)を選んでご紹介いたします。
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (3/4) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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コノコフィリップス(COP) | 100.27ドル | 11.3 | 【原油生産に特化するエネルギー大手】 ・原油・天然ガスの探査・開発・?産を?う川上部門に特化しているため、原油価格上昇の恩恵は総合エネルギーよりも大きくなる傾向があります。2021年初にシェールオイル大手のコンチョリソーシズを買収したほか、2021年末にもロイヤルダッチシェルからも権益を取得、パーミアン盆地(シェールオイルの生産地)の生産比率が40%近くに上昇しています。 ・10-12月期の調整後純利益は30.1億ドルと、前年同期の2.0億ドルの赤字、7-9月期の23.7億ドルからも大きく改善しています。原油資産取得の効果で、2022年の生産量は前年比18%増を見込みます。同年の株主還元額を前年の70億ドルから80億ドルに増やす計画です。 | ||
アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM) | 82.80ドル | 16.0 | 【世界2位の穀物メジャー】 ・カーギルに次ぐ世界2位の穀物メジャーで、油糧種子、とうもろこし、マイロ、オーツ麦、大麦 、ピーナッツ、小麦などの加工処理や、食料および飼料を最終用途とする作物の加工も手掛けます。また、バイオ燃料のエタノールの取扱いも行っています。ロシアは小麦で17.6%、大麦で12.1%の輸出シェアを占めています。 ・10-12月期の業績は、売上が前年同期比28%増、EPSが同13%増と好調でした。油脂種子部門は前年同期の水準が高かったために小幅に減益となりましたが、カーボハイドレートソリューションズ部門、ニュートリション部門は経済回復の恩恵を受けて大幅な増益でした。業績好調を受けて四半期配当を8%増やす意向です。 | ||
モザイク(MOS) | 59.83ドル | 6.6 | 【リン酸肥料の世界最大手】 ・米国最大の肥料メーカー。リン酸塩と炭酸カルシウムに特化して、採掘から製品生産までを手掛けます。ウクライナ侵攻に伴うベラルーシへの経済制裁により、リン酸肥料の世界最大手である同社が恩恵を受けると期待されています。ベラルーシのリン酸肥料は世界需要の17%を占め、2019年に28億ドルを輸出しています(同国輸出品の第2位)。 ・業績は好調です。農産物価格が上昇基調にあり、肥料価格も大きく上昇していることから、2021年12月期の売上は前年比42%増、EPSは同2.4倍に拡大しています。2022年についても、農産物価格の上昇基調が維持されると見込まれており、肥料に対する需要は堅調が予想されています。業績改善を受けて、フリーキャッシュフローの75%を配当または自社株買いで還元する計画です。 | ||
ロッキード マーチン(LMT) | 458.15ドル | 17.1 | 【米国最大の軍用機メーカー】 ・軍事用航空機・宇宙関連機器の大手メーカーです。2021年の売上構成比は、航空機部門(F-35、F-16などの戦闘機)が40%、ロータリー・ミッションシステム部門(ヘリコプターなど)が25%、宇宙システム部門が18%、ミサイル・火器制御部門が17%です。米国政府を中心に約30ヵ国と取引があり、海外売上は27.5%を占めます(2021年)。 ・軍需関連の売上が世界最大であり、また、同売上構成比も89%に達することから、米国および世界の軍事費が増加する場合にその恩恵を受ける確度が高く、代表的な軍需銘柄です。2021年12月期の業績は、F-35戦闘機や軍用ヘリコプターの需要増で売上・営業利益とも前年比3%増と堅調です。2022年12月期の業績ガイダンスは、売上が約660億ドル(前年比2%減)、調整後EPSが26.7ドル(前年比10%増)です。 | ||
ゼネラル ダイナミックス(GD) | 245.29ドル | 20.3 | 【国防大手、ビジネスジェットも】 ・潜水艦、戦車のほか、ビジネスジェットも手掛けます。2021年12月期の売上構成比は、テクノロジー(ITシステムなど)が32%、マリンシステム(原子力潜水艦など)が27%、コンバットシステム(戦車など)が19%、エアロスペース(ビジネスジェットのガルフストリーム)が18%を占めます。 ・2021年12月期業績は、売上が前年比1%増、EPSが同5%増と堅調です。同期の受注・売上比率は、防衛関連が1.0、ビジネスジェットは1.6とパンデミックの影響を受けて好調です。2022年12月期は売上が392〜394.5億ドル(前年比1.8〜2.5%増)、EPSは12.00〜12.15ドル(前年比3.9〜5.2%増)のガイダンスです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
7(月) | ・中国貿易統計(2月) | |
8(火) | ・OECD経済見通し ・ユーロ圏実質GDP(10-12月期、確報値) ・米3年債入札 |
・アップル新製品発表イベント(低価格機種「iPhone SE」など) |
9(水) | ・日本実質GDP(10-12月期、確報値) ・中国生産者物価・消費者物価指数(2月) ・中国資金調達総額(2月、15日までに発表) ・日本工作機械受注(2月、速報値) ・米10年債入札 |
クラウドストライクホールディングス、マルケタ |
10(木) | ・ECB主要政策金利 ・米求人労働異動調査(1月) ・米消費者物価指数(2月) ・米新規失業保険申請件数(3月5日に終わる週) ・米家計純資産変化(10-12月期) ・米30年債入札 |
リビアンオートモーティブ、オラクル、アルタビューティ |
11(金) | ・米ミシガン大学消費者マインド(3月) | |
14(月) | ・ユーロ圏鉱工業生産(1月) | |
15(火) | ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(2月) ・ドイツZEW景気指数(3月) ・米生産者物価指数(2月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(3月) |
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16(水) | ・米小売売上高(2月) ・米輸入物価指数(2月) ・米NAHB住宅市場指数(3月) ・FOMC政策金利 |
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17(木) | ・日本機械受注(2月) ・EU27ヵ国新車登録台数(2月) ・米住宅着工・建設許可件数(2月) ・新規失業保険申請件数(3月12日に終わる週) ・米鉱工業生産(2月) |
アクセンチュア、フェデックス |
18(金) | ・米中古住宅販売件数(2月) ・日銀金融政策 |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成