先週は企業景況感の大幅な悪化を受けて急落となりましたが、週の後半には利下げ期待が台頭したことで反発に転じました。今週は7月末以来となる、米中通商協議の再開が最大の材料となりそうです。
前回の決算発表が8月までに終わった銘柄で、過去4週のEPSの修正率が大きい銘柄に着目して、シーゲイト テクノロジー(STX)、KLA(KLAC)、メドトロニック(MDT)、CME グループ A(CME)、ユナイテッド テクノロジーズ(UTX)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
情報技術 | 1.1% | -0.9% | 0.8% |
ヘルスケア | 0.9% | -1.0% | -3.8% |
生活必需品 | 0.6% | 0.2% | 3.2% |
不動産 | 0.4% | -0.7% | 4.6% |
公益事業 | 0.2% | 3.8% | 6.9% |
通信サービス | 0.2% | -1.7% | -1.0% |
一般消費財・サービス | -0.2% | -2.9% | -2.9% |
S&P500 | -0.3% | -0.9% | -1.3% |
金融 | -2.2% | 0.4% | -2.6% |
資本財・サービス | -2.4% | -1.5% | -2.2% |
素材 | -2.5% | -1.2% | -4.4% |
エネルギー | -3.8% | -2.2% | -9.2% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
エヌビディア | 5.9% |
チャーター・コミュニケーションズ | 5.3% |
フィリップ・モリス・インターナショナル | 4.2% |
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J) | 3.9% |
アルトリア・グループ | 3.8% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
コノコフィリップス | -7.6% |
シュルンベルジェ | -7.1% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | -6.7% |
サイモン・プロパティー・グループ | -6.3% |
3M | -5.3% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイトの表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
ISM製造業景気指数が47.8と2ヵ月連続で50を下回ったことをきっかけに景気への懸念が高まり、10/1(火)、10/2(水)は大幅な下落となりました。さらに、ISM非製造業景気指数も予想以上の低下となりましたが、これが利下げ期待を高め、また、株価下落で割安感が出てきたこともあり、10/3(木)は反発に転じました。
10/4(金)の雇用統計は、「FRBに月内の利下げを思いとどまらせるほど力強い内容ではなく、労働情勢や個人消費を巡る懸念をあおるほど弱い内容でもなかった」ことから、上昇が続きました。S&P500指数は週間で0.3%の下落でした。
業種指数騰落率では、企業景況感の悪化を受けて10年国債利回りは1.5%台まで低下したことを背景に、配当利回りが高い業種やディフェンシブ業種が優位となり、景気感応度が高い「素材」「資本財・サービス」「金融」などの下落が大きくなっています。「情報技術」の上昇は、業界の改善が期待される半導体・同製造装置が牽引したほか、新型iPhoneの販売好調が伝えられたアップルの上昇が効いています。
経済指標では、9月のISM製造業景気指数は47.8と市場予想の50.1を大幅に下回り、貿易摩擦による製造業の不振が確認されました。ISM非製造業も52.6へ前月の56.4から大幅に低下、製造業の不振が非製造業にも波及しているとの懸念が強まりました。
9月雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比13.6万人増で、市場予想の同14.5万人増を下回ったものの、過去2ヵ月分が4.5万人の上方修正となりました。失業率は3.5%へ0.2%ポイント低下、1969年12月以来の水準でした。
今週の米国株式市場
今週は7月末以来となる、米中通商協議の再開が最大の材料となりそうです。そのほかでは、トランプ米大統領の弾劾調査、FRB議長講演(10/8(火))、FOMC議事要旨(10/10(木)日本時間早朝)なども注目されます。
米中通商協議では、閣僚級交渉が10/10(木)、10/11(金)にワシントンで開かれます。農産品など中国の輸入拡大策のほか、知的財産権や産業補助金など中国の構造問題について話し合われる見通しです。
包括的な合意は難しいと見られていますが、これ以上景況を悪化させない方向での動きには期待できるのではないでしょうか。次官級の交渉が10/7(月)から行われる見通しで、閣僚級の交渉前にも市場を動かす情報が出てくる可能性があります。
トランプ米大統領の弾劾調査は、同大統領がウクライナ政府にバイデン前副大統領の調査を働きかけたとされる問題で、10/6(日)の報道で新たに米情報機関の関係者が内部告発のため監察官に接触したことが明らかになっています。まだ事態は進展中で注意が必要でしょう。
テクニカル面では、決算発表が本格化する直前の時期(ブラックアウト期間)で企業の自社株買いが減少するタイミングにあたります。米中通商協議が決裂するなど悪材料が出て株価が下落する場合に、自社株買いが入りにくい点は注意が必要でしょう。
経済指標では、10/10(木)に米国の9月消費者物価指数(コア指数は前月と変わらずの前年比2.4%増の予想)、10/11(金)に10月ミシガン大学消費者マインド(92.0へ前月の93.2から悪化の予想)などの発表が予定されています。
企業決算では、デルタ航空が来週から本格化する7-9月期決算発表の皮切りとなります。7-9月期のS&P500指数採用企業のEPSは前年同期比4.1%減(FactSet集計、10/4(金)時点)の予想です。4-6月期実績の前年同期比0.4%減から若干の悪化が見込まれています。
今週の5銘柄
先週の本レポートでは、米10年国債利回りが反発に転じるか、それに伴って「グロース/ディフェンシブからバリュー」という物色のトレンドが確認されるか、重要な見極めの週としました。
しかし、企業景況感が悪化したことで、長期金利は1.5%台まで低下、グロース/ディフェンシブが優位でした。ただ、半導体が買われているように、これまで避けられていた銘柄を買う動きも継続している気配があり、物色のトレンドははっきりしないと言えそうです。
そこで今回はこれまでと趣向を変えて、「前回の決算発表が8月までに終わった銘柄で、過去4週のEPSの修正率が大きい」銘柄をご紹介いたします。このような条件を設定したのは、前回の決算発表を受けてEPSの修正が終わった後に業界や当該企業に好材料が出てEPSが修正されている銘柄をピックアップするためです。
決算発表後は市場の注目が高いため、EPSの修正は株価に織り込まれやすいと考えられますが、その後の好材料には株価が反応しきっていない可能性があると考えられます。
(1)直近の四半期決算発表が19年8月までに終わっている銘柄、(2)過去4週のEPS修正率が0.5%以上、過去3ヵ月のEPS修正率がプラス、(3)過去4週の目標株価修正がプラス、(4)当社取扱のS&P500指数採用企業で時価総額が100億ドル以上、の条件で抽出したのが、図表4の銘柄です。
ここから、シーゲイト テクノロジー(STX)、KLA(KLAC)、メドトロニック(MDT)、CME グループ A(CME)、ユナイテッド テクノロジーズ(UTX)を選んでご紹介いたします。
図表3 企業景況感の悪化が続く
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 過去4週の予想EPS修正率が高い銘柄群
コード | 銘柄名 | 株価 (10/3) (ドル) |
予想 PER (倍) |
EPS 修正率 4週間 (%) |
目標株価 修正率 4週間 (%) |
目標株価 (10/3) (ドル) |
STX | シーゲイト・テクノロジー | 53.09 | 11.0 | 8.5 | 5.3 | 49.8 |
KLAC | KLA | 156.96 | 16.4 | 1.5 | 8.5 | 159.7 |
MDT | メドトロニック | 106.93 | 19.2 | 1.0 | 0.5 | 116.4 |
CME | CMEグループ | 209.43 | 31.0 | 1.0 | 1.3 | 207.5 |
FISV | ファイサーブ | 103.05 | 26.7 | 1.0 | 1.2 | 114.1 |
ALL | オールステート | 105.65 | 10.9 | 0.7 | 0.2 | 112.2 |
UTX | ユナイテッド・テクノロジーズ | 131.21 | 16.3 | 0.6 | 1.9 | 156.4 |
ICE | インターコンチネンタル・エクスチェンジ | 91.35 | 24.1 | 0.6 | 1.2 | 97.6 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイトの表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (10/4) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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シーゲイト テクノロジー(STX) | 53.68ドル | 11.2 | 【クラウド向けなどで業界環境が改善しつつある】 ・電子データストレージ製品の世界大手で、売上の9割以上をHDD(ハードディスクドライブ)が占めます。HDDの用途は、データセンターなどエンタープライズ向けが41%、端末向けが59%を占めます(19年4-6月期)。同社HDDの出荷量(記憶容量で計測したもの)は18年7-9月期にピークをつけて、18年10-12月期、19年1-3月期と低下しましたが、19年4-6月期は回復となっています。 ・8/2(金)発表の4-6月期決算では、7-9月期の調整後EPSのガイダンスが0.90ドル±5%と市場予想の1.11ドルを下回ったものの、経営陣は「グローバルの業界環境は改善が始まっており、特にクラウドと超大手顧客にその傾向が見られる」とポジティブなトレンドを提示しました。EPSの上方修正は、9/19(木)に開催したアナリスト・デーの前日に7-9月期の予想EPSを0.99ドル±5%に修正したことが効いていると見られます。 | ||
KLA(KLAC) | 161.11ドル | 16.8 | 【顧客による半導体の微細化から恩恵】 ・半導体製造装置の世界的大手で、18年売上の世界ランキングは5位に位置します。ウエハ検査装置、薄膜測定、重ね合わせ測定装置とソフトウェアを組み合わせた歩留まり管理に強みをもちます。19年7月にKLAテンコールから社名変更しています。 ・7-9月期はメモリーメーカーを中心に全般的な需要は弱いと見られるものの、ファウンドリーのTSMCやロジック半導体分野の大手顧客が7ナノメートル、5ナノメートル技術への移行を進めている恩恵を受けて4-6月期比で売上は増加する見通しです。中期的には、5G、IoT、自動運転車などの新技術に半導体が欠かせないため、半導体業界の地位は拡大が見込まれ、同産業に幅広い顧客をもつ半導体製造装置企業の業績は拡大基調が期待されます。 | ||
メドトロニック(MDT) | 108.56ドル | 19.5 | 【21年4月期に投入予定の手術支援ロボットに期待】 ・医療機器メーカーの大手です。主に心疾患、糖尿病、脊椎疾患分野の各種医療機器や手術支援システムを展開します。電池式体外型心臓ペースメーカーで先駆し、ペースメーカーでは世界首位です。 ・ここ数年同社の業績は伸び悩んできましたが、来年度に投入を予定する手術支援ロボットが売上を押し上げ、また、豊富なキャッシュフローはM&Aや自社株買いに投入されると見られ、業績の伸び率の回復が期待されています。手術支援ロボットでは、インチュイティブ・サージカルのダ・ヴィンチがほぼ独占していますが、利用コストと技術的ハードルを下げることで、いままで浸透していなかった市場に広がると見込まれています。 | ||
CME グループ A(CME) | 216.02ドル | 29.5 | 【種々の不透明感からリスク管理の必要性が高まっている】 ・世界最大級の商品・金融先物取引所の持ち株会社です。CME(金融・商品先物)、CBOT(商品先物)、NYSEX(商品先物)、COMEX(商品先物)の各取引所を保有。18年には債券仲介や為替電子取引の英NEXグループを買収しています。 ・4-6月期業績は、買収効果もあって売上が前年同期比20%増、調整後純利益は同7%増と堅調でした。貿易摩擦への懸念、地政学的リスクの増大、FRBの政策に対する不透明感などから顧客のリスク管理の必要性が高まり、同社の事業環境にはフォローとなっています。同社取引所での1日当たり取引高は同14%増え、特に海外での取引が同24%増と牽引、期末の未決済建玉数は過去最高の1億5,300万に達しています。 | ||
ユナイテッド テクノロジーズ(UTX) | 133.21ドル | 15.2 | 【レイセオンとの経営統合を控える】 ・19年6月にレイセオンとの経営統合を発表しています。エレベーターのオーチス事業、空調機器のキャリア事業を分離した後、2020年上期に実行される見通しです。新会社「レイセオン・テクノロジーズ」は年間売上が740億ドルの巨大航空宇宙・防衛企業となる見通しで、ボーイングやエアバスといった顧客からのコスト削減要求に耐える力が強まると見られています。尚、レイセオンは、トマホーク、パトリオットを開発したミサイルの世界トップメーカーです。 ・4-6月期の決算は、買収したロックウェルコリンズの貢献もあって、売上が前年同期比18%増、調整後EPSが同12%増と好調でした。通期のEPSガイダンスを7.80〜8.00ドルから7.90〜8.05ドルへ引き上げましたが、その後も市場のEPS上方修正が続いています。事業のスピンオフによる影響は不透明となっていますが、事業分野の集中を進めることで中長期に注目できるでしょう。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。シーゲイトテクノロジーとKLAは20年6月期、メドトロニックは20年4月期、その他は19年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
7(月) | ・米月次財政収支(9月、12日までに発表) | |
8(火) | ・米消費者信用残高(8月) ・日本貿易収支(8月) ・パウエルFRB議長講演(デンバー) ・NFIB中小企業楽観指数(9月) ・米生産者物価指数(9月) |
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9(水) | ・日本工作機械受注(9月) ・中国資金調達総額(9月、15日までに発表) ・米求人労働異動調査(8月) |
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10(木) | ・FOMC議事要旨(9月17日、18日開催分) ・日本機械受注(8月) ・米中通商協議(ワシントン、11日まで) ・米消費者物価指数(9月) |
デルタ航空 |
11(金) | ・米輸入物価指数(9月) ・ミシガン大学消費者マインド(10月、速報値) |
ファスナル |
14(月) | ・日本の祝日(体育の日) ・中国貿易統計(9月) ・ユーロ圏鉱工業生産(8月) |
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15(火) | ・日本鉱工業生産(8月、確報値) ・中国生産者・消費者物価指数(9月) ・ドイツZEW調査(10月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(10月) |
ジョンソン&ジョンソン、ウェルズファーゴ、シティグループ JPモルガンチェース、ゴールドマンサックス、ブラックロック ユナイテッドヘルスグループ |
16(水) | ・EU27ヵ国新車登録台数(9月) ・ユーロ圏消費者物価指数(9月) ・米小売売上高(9月) ・NAHB住宅市場指数(10月) |
バンクオブアメリカ、モルガンスタンレー(E) |
17(木) | ・米地区連銀経済報告(ベージュ・ブック) ・米住宅着工・建設許可件数(9月) ・フィラデルフィア連銀景気指数(10月) ・米鉱工業生産(9月) |
ネットフリックス、IBM、フィリップモリスインターナショナル ユニオンパシフィック、ハネウェルインターナショナル CSX、ユナイテッドレンタルズ |
18(金) | ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(9月) ・中国調査失業率(9月) ・中国実質GDP(7-9月期) ・中国不動産投資(9月) |
コカコーラ、インチュイティブサージカル アメリカンエキスプレス、シュルンベルジェ |
注:日付は日本時間によります。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成