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2023年の金市場を展望する
提供元:森田アソシエイツ
金価格は今年に入り、再び1オンスあたり1,900ドルを超え、急上昇している。米国のインフレがピークアウトすることを受け、FRBは利上げのペースを鈍化させる可能性があることに加え、米国・世界経済がリセッションに突入するリスクが高く、金融当局は年後半にはむしろ利下げに方向転換するのではとの見方が主な背景になっている。
現在、金市場には価格に影響を与えるプラス要因とマイナス要因が混在している。2022年を例に取ると、年初と年末の金価格はほぼ同レベルであったにも関わらず、期中の最高値と最低値の間には約400ドルもの差があり、乱高下した(図表1参照)。どの要因が顕著だったかによって、価格が大きく揺れ動いたためである。
2022年において、金価格の下方圧力要因となったのは、金利上昇とドル高であった。一方、価格を支えた要因として、地政学リスクの上昇、投資環境の不確実性の増幅、インフレの加速、および堅調な需要を理由に挙げることができる(図表2参照)。FRBは経済に負担をかけても、インフレを抑え込む姿勢を強く見せ、2022年に合計7回の利上げを実行した。配当や利息を産まない金は、金利上昇時に相対的な投資優位性が損なわれ、価格を圧迫する要因となる。FRBの積極的な金利政策は、他国との金利差をも拡大させ、ドル高をもたらした。
金はドルと逆相関の関係にあるため、ドル高は金にとってマイナス要因である。一方、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したため、地政学リスクが上昇し、パンデミックの影響も加わり、各国で株価が大幅に下落し、投資環境の不確実性が一気に増幅した。さらに、インフレの加速も重なり、セーフヘブンや資産保全を求めて投資家の金に対する関心がかつてないほど高まった。最大の需要分野である宝飾品がパンデミック前レベルへ回復したことや中央銀行が過去最高を更新する購入を行ったことも、金市場への安心感を高めた(図表3参照)。2022年第1四半期は、こうしたプラス要因の相乗効果により、金価格は大きく上昇したが、その後はマイナス要因である金利上昇やドル高が勢いを増し、相場は下落に転じた。2022年は、期中のボラティリティ(変動性)が高かったにも関わらず、年単位で見た価格変化率は+0.4%と低く、プラス要因とマイナス要因が均衡していたと総括できる。
では、2023年はどうか?米国のインフレ上昇率は昨年後半から低下する兆しを見せ、ピークアウトするとの見方が強い。そのため、FRBはインフレ対策としての利上げ政策をしばらく継続するものの、そのペースはやがて鈍化すると予想されている。また、米国に限らず、世界ベースで景気が後退するリスクは高く、年後半には金融当局が経済を下支えするため、利下げに方向転換する可能性もある。したがって、これまで金価格を圧迫してきた金利環境は、2023年に改善に向かうと思われる。これに伴い、米国と他国の金利差も縮小し、2022年に見られるような構造的なドル高も修正される見通しである。一方、昨年において金価格を支えたプラス要因は根本的に変わっておらず、
長引くウクライナ戦争や頻発する北朝鮮のミサイル発射問題などで、地政学リスクはむしろ高くなっている。投資環境の不確実性も、景気後退が確実視されるなか、低下は望みにくい。インフレはピークアウトする見込みも、高いレベルでしばらく推移するものと予測されており、投資家の資産保全に対する意識は引き続き強いと思われる。また、パンデミックや地政学リスクを経験して、金の保有意義を再認識した消費者や中央銀行の購入意欲は高く、ロックダウンなどの制限条件がなければ、需要が加速的に高まる環境が整っている。
以上のように、金価格に影響を与えるプラス要因は継続して存在する一方、マイナス要因が後退するため、2023年の金市場はダウンサイド・リスクよりもアップサイド・ポテンシャルが高く、かつ、変動性が(2022年に比べ)相対的に低い相場展開になりそうだ。
森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)
ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。
2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。
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