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なぜ金がリスク・ヘッジ機能を提供できるのか?
提供元:森田アソシエイツ
金価格は年初来30%近く上昇し、7月末には過去最高値を更新した。これを牽引したのは、投資需要の急増である。代表的な投資商品である金ETFに1〜7月に流入した資金は過去最高の約900トン、金額ベースにして5兆円超に達した(図表1参照)。コロナウイルスによって、加速的に増幅したマクロ政治・経済環境の不確実性を受け、投資家が様々なリスクに対してヘッジ機能を持つ金に期待したことが主な理由である。
(図表1)過去最高を更新する金ETF残高
金は分散リスク、テールリスク、インフレリスク、信用リスク、流動性リスク、通貨リスクなど、主な投資リスクのすべてを同時に対応できる(図表2参照)。実物資産である金は信用リスクがなく、インフレにも強い。また、発行体のない通貨としての側面を持ち、ドルと逆相関の関係にある。さらに、金は他主要資産との相関が低く、値動きも異なるため、ポートフォリオに加えると、平時においては投資分散効果、非常時においてはテールリスク低減効果が得られる。では、投資家がもっとも関心を寄せるこの二つのリスクに金はなぜヘッジ機能を提供できるのか?それを解く鍵は、金の需要構造にある。
(図表2) 様々な投資リスクに対応できる金
主要投資リスク | 金の特性 |
---|---|
分散リスク | 主要資産との相関が低い |
テールリスク | 非常時においても他資産との相関が低い |
信用リスク | 信用リスクのない資産 |
インフレリスク | インフレに強い実物資産 |
通貨リスク | 主要通貨(特に米ドル)と逆・無相関 |
流動性リスク | 非常時でも流動性が高い |
地上にある金は20万トン弱あり、その内訳を見ると、宝飾品、投資用途、中央銀行による保有、産業用がそれぞれ47%、22%、17%、14%を占めており、需要は分散されている(図表3参照)。最大の需要グループはインド、中国および中央銀行である。
(図表3)金の地上在庫の内訳 ? 分散された需要
インドでは、多くの人が信じるヒンズー教において、金は富と繁栄の象徴であり、婚礼、宗教行事、誕生日、収穫などの祝い事に欠かせない存在となっている。それゆえ、都市部から農村部に至るまで、年寄りから若年層に至るまで、多くのインド人が年間を通して金と密接に関わった生活を送っている。また、購入した宝飾品は、将来の非常時に対する備えとしての意味も強く持つため、相対的に質量が高い。
中国については、婚礼や誕生日などの祝い事に贈答用として親しい人に送ることが多く、インド同様、非常時に対応できる資産としての側面も注視されている。また、中国の一般的な家庭において、収入の一部を金の購入に充て、貯蓄として資産形成の一環とする伝統が現在でも残っている。さらに、過去において、流通した紙幣の価値が政権交代によって暴落した教訓が、記憶から消えていないことも注目すべき点である。
一方、中央銀行が金を保有する主な目的は外貨準備における通貨分散である。ここ10年ほどの主な購入国は、ロシア、中国、カザフスタン、インド、トルコなどである。ロシアについては、欧米からの経済制裁に対抗するために金の蓄積を大幅に増やした側面も無視できない。また、IMFからSDRの構成通貨として人民元が認められた中国は、国際通貨の仲間入りを目指す過程において、自国通貨の信用力を担保するものとして金の保有高を積極的に増やし、信頼が揺らぐ米ドルやユーロとの差別化を図った歴史がある。中国の高官は、今後、人民元の国際化を推進するにあたり、金に対する期待について様々な場で言及している。
以上のように、金需要家の多くは、必ずしも(特に短期)収益目的で金を保有しているわけではなく、おのおの異なる理由とタイミングで金を購入するため、金価格は株などの主要金融商品と異なる値動きを見せ、リスクヘッジ機能を提供できる。
森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)
ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。
2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。
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