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2021-12-08 03:46:16

過去最高を記録した金ETFに何が起きているのか?

提供元:森田アソシエイツ

ワールド ゴールド カウンシルによると、金ETF(金の裏付けがあるもの)が保有する金の世界合計が、2019年9月末に、2012年末のピークを超え、過去最高を記録した(下記グラフ参照)。2012年当時の金価格が、現在より約20%高い1オンスあたり1,700ドル強である事を考えると、今回の記録更新は投資家の金に対する期待の高さを示すだけでなく、金ETF市場参加者が構造的に変化していることをも示唆している。

2012年当時のピーク残高を支えたのは、2008年秋のリーマンショック以降、極めて不安定な世界経済・金融環境から金市場に流入した逃避資金であった。当時の金ETF保有者の約半分は、金を長期保有の対象としてではなく、セーフハーバー(安全な逃避港)として利用した投資家であると推測される。当然のことながら、金融市場が落ち着き、世界経済が好転する兆しを見せると、こうした逃避資金は再び他の資産に向い、2013年春から2015年までの金ETFからの大幅な資金流失をもたらした。

逃避資金がほぼ退出した2016年以降は、マクロ政治・経済環境の不確実性の上昇を背景に、金ETFは再び増加傾向をたどり、ついに2019年9月に過去のピーク残高を超えた。特に貢献したのは、これまで、配当や金利を生まない金に対して消極的であった機関投資家である。2016年初頭に日銀が導入したマイナス金利政策をきっかけに、世界はかつてない低金利環境に突入し、金の相対的な投資優位性(特に債券に対して)が上昇したこと、また、金の中長期パフォーマンス(投資トータルリターン)が悪くないこともよく知られるようになったことを受け、機関投資家は金を投資対象として積極的に検討するようになったのである。過去20年のドルベース累積リターンでみた場合、金は新興国株式を除いて、ほぼすべての主要投資資産よりもパフォーマンスがよい。

ここ数年の金ETF市場のもう一つの特徴は、(過去と異なり)金価格の動向に関わらず、残高が堅実に積み上がったことである。これは、金ETF市場に逃避資金や短期の収益機会を狙う投資家が減少し、不確実性が高まる投資環境において金が果たせる役割(主にリスクヘッジ)を評価する長期投資家が増加している事を示唆している。こうした長期投資家は、不確実性が構造的に低下し、リスクヘッジの必要性が減少しない限り、市場から退出することはないため、金ETF市場の確実な規模拡大と安定性の向上に寄与したのである。

金ETFの地域別保有も構造的に変化している。2012年当時、米国上場のETFが全体の3分の2を占めていたが、現在は米国が約50%、英国の欧州連合離脱問題やEU全体の安定性に対する懸念を抱えている当事者地域である欧州が約45%という構成になっている。米国と欧州の金ETF投資家の動きが必ずしも連動しないため、地理的分散の拡大は金ETF市場にさらなる安定性をもたらす結果となった。

もちろん、金ETFに対する投資家の信任は、堅調な金需要なくして語れない。2018年通年の金の総需要は、2017年に比べ5%増の約4,400トン、リーマンショック前の3,000トン強レベルから大きく底上げされている。2019年上半期についても、対前年同期比で8%増と、順調に伸びている。特に中央銀行セクターからの需要は旺盛で、2018年はニクソンショック以降の最高、2019年は過去最高の上半期となる金購入を計上した。

金ETF市場における量と質の改善および好調な金需要は、金価格の堅調な形成を今後も支えていく要因となろう。

金ETF残高と金価格の推移

左軸:金ETF残高/トン

Date as of 30 September,2019
出所:Bloomberg,Company Filings,ICE Benchmark Administration,World Gold Council

森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)
ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。
2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。

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