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“貿易摩擦問題は米中冷戦の本質にあらず”
2019/3/19
提供:フィリップ証券株式会社
リサーチ部:笹木 和弘、増渕 透吾
3/8発表の米雇用統計以降の経済指標は、1月小売売上高、2月CPI・PPI、1月耐久財受注等で「インフレなき成長」を示す指標が相次ぎ、半導体市況の底入れ観測や長期金利低下による実質金利低下が「適温相場」化をもたらしている。その一方で、3/14にはトランプ大統領と習国家主席が今月会談しないニュースが相場の重荷となり、3/15は中国劉鶴副首相が米高官と電話会談を行い、「実質的な進展があった」と報じられてNYダウが一段高するなど、米中協議で一喜一憂する展開が続いている。株式相場は、米中冷戦で合意し易そうな貿易摩擦問題に敢えて焦点を当て、合意が困難な安全保障や人権問題などからは目を背ける「美点凝視」相場化しているように思える。投資家も株式市場のトランプ政権に対する「忖度」が続く可能性を念頭に置きつつ、過度に悲観にも楽観にも走らず、忖度に付き合う大人の対応が求められているのだろうか。
進展に向かって協議している経済問題とは対照的に、米国議会では、昨年3/16の「台湾旅行法」に続き、12/20には「チベット旅行法」が成立した。台湾旅行法は、米国が1979年の米台断交後に米台高官の相互訪問を制限してきたことを改め、閣僚をはじめすべての地位の米政府当局者が台湾に渡航でき、台湾側の同等の役職の者と会談することや、台湾高官が米国に入国し、国防総省や国務省を含む当局者と会談することを認めるなど、実質的な国交回復である。チベット旅行法も、中国政府が米国人の役人や記者などのチベットへの立入りを規制した場合、中国政府役人の訪米を拒否するという内容であり、米議会が中国政府による人権弾圧に明確に反対する姿勢を示したものである。
両法律により、中国は「1つの中国」原則を崩され、更にはチベット問題にまで内政干渉されており、米中関係は既に深刻な亀裂が生じている。これこそが「米中冷戦」の現状と言うべきだろう。深刻な事態に陥っても経済面でお互いの政府同士で協議が継続的に行われ、決定的な戦争関係にならない今の国際政治は、以前の東西冷戦時代と比べて人類が進歩している証しなのだろうか?
ストラテジーの観点からは、米中冷戦においても解決が比較的容易に見える貿易摩擦問題などの「正」の部分と、スパイウエア問題や安全保障・人権問題といった解決が困難な「負」の部分の相克に留意したい。「負」の部分の中期的なリスクの存在を意識しつつ、短期的には、「正」の部分において前向きな解決策がもたらされることへの「期待」が高まることが相場上昇に直結しやすい現状を踏まえ、足元のチャンスを着実に拾っていくことが得策と言えるだろう。(笹木)
3/19号ではアップル(AAPL) 、アドビ(ADBE) 、ブロードコム(AVGO) 、ラムリサーチ(LRCX) 、MongoDB(MDB) 、アルタ・ビューティ(ULTA) を取り上げた。
S&P500業種別およびNYダウ構成銘柄の騰落率(3/15現在)
3月19日(火) フェデックス 3月20日(水) マイクロン・テクノロジー 、ゼネラル・ミルズ3月21日(木) ダーデン・レストランツ、シンタス、コナグラ・ブランズ、ナイキ 3月22日(金) ティファニー
3月19日(火) 3月20日(水) FOMC声明発表・パウエルFRB議長記者会見・経済予測公表 20日までに英政府の離脱案採決を目指す タイ中銀、ブラジル中銀、政策金利発表 3月21日(木) EU首脳会議(22日まで) ECB経済報告、ユーロ圏 消費者信頼感指数(3月、速報値) フィリピン中銀、インドネシア中銀、政策金利発表 景気先行指標総合指数 (2月) フィラデルフィア連銀製造業景況指数(3月) 新規失業保険申請件数(16日終了週) 3月22日(金) ロシア中銀、政策金利発表 ユーロ圏 製造業PMI、サービス業PMI (3月、速報値) 卸売在庫 (1月) 中古住宅販売件数(2月) 財政収支(2月) 3月24日(日)
1974年にコンピューターの製造で創業。現在はiPhone、iPod、iPad、PCのMacなどを主力製品として世界に展開している。また、ソフトウェアの開発や周辺機器の製造・販売も行う。 1/29発表の2019/9期1Q(10-12月)は、売上高が前年同期比4.5%減の843.10億USD、純利益は同0.5%減の199.65億USD。プロダクツ収入は同7.2%減の734.35億USD、サービス収入は同19.1%増の108.75億USD。iPhoneからの収入は同15%減、iPhone以外からの収入は同19%増だった。 2019/9期2Q(1-3月)会社計画は、売上高が550億-590億USD、売上総利益率が37-38%、営業費用が850億-860億USD、その他収益が3億USD。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、3/11に同社株に対して「強気になる10の理由」があると指摘。見直し買いの契機となっている。3/25にビデオ・ニュースの新サービス発表予定。サービス収入へのシフトに拍車がかかるかどうか要注目。(笹木)
1982年に設立したソフトウェア会社。同社が開発した文書規格「PDF」は国際標準。Creative Cloud、Marketing Cloud、Document Cloudの3つのクラウドから定期課金のサービスを提供する。 3/14発表の2019/11期1Q(2018/12-2019/2)は、売上高が前年同期比25.1%増の26.00億USD、純利益が同15.0%増の6.74億USD。調整後EPSは1.71USDと市場予想の1.61USDを上回った。Adobe StockやAcrobat などが牽引し、幅広い地域・製品カテゴリーでサブスクライバーが伸びた。 2019/11期2Q(3-5月)会社計画は、売上高が27.00億USD、調整後EPSが1.77USD。調整後EPS見通しは市場予想の1.88USDを下回り、3/15に株価は前日比4.0%下落。通期会社計画は、売上高が111.50億USD、調整後EPSが7.80USD。調整後EPS見通しは市場予想の7.75USDを上回った。同社は昨年、マルケトとマジェントを買収。合併効果による年後半からの利益率向上に期待。(増渕)
1961年設立のブロードコムを2016年にアバゴ・テクノロジーが買収し社名はブロードコムに変更。CMOSおよびアナログIII-Vベースの製品を中心に幅広い半導体デバイスを設計・開発・販売する。 3/14発表の2019/10期1Q(2018/11-2019/1)は、売上高が前年同期比8.7%増の57.89億USD、純利益が同92.4%減の4.71億USD。前年同期の税制改革に伴う一時利益が剥落したほか、事業再編費用や減損損失の計上等が響いた。調整後EPSは5.55USDと市場予想の5.23USDを上回った。 通期会社計画は、売上高が245億USD(前期実績:208.48億USD)、営業利益率が17.6%、調整後営業利益率が51%、設備投資が5.50億USD。調整後営業利益率では、買収関連の無形資産の償却費用52.10億USDなどが除かれている。売上高の見通しは市場予想の243.03億USDを上回った。同社は、今四半期が半導体需要の底だとする他の半導体メーカーと同様の見解を示した。(増渕)
1980年設立の半導体製造装置メーカー。デポジション、エッチ、フォトレジスト除去(ストリップ)、ウエハー洗浄(クリーン)向けに製品を提供する。半導体エッチング装置分野では世界シェアNO.1。 1/23発表2019/6期2Q(10-12月)は、売上高が前年同期比2.3%減の25.22億USD、純利益が5.68億USDと前年同期の▲995万USDから黒字転換。前年同期の税制改革に伴う一時費用の反動が出た。粗利益率は同130bp低下し45.4%。調整後EPSは3.87USDと市場予想の3.66USDを上回った。 2019/6期3Q(1-3月)会社計画は、売上高が22.5-25.5億USD、粗利益率が42.6-44.6%、営業利益率が22.6-24.6%、EPSが3.01-3.41USD。デジタイムズは3/13、NAND型フラッシュメモリーの価格下落が落ち着きそうだと報道した。1-3月期にはサムスン電子による積極的な値下げ戦略を受け業界全体で在庫調整が行われていたが、3月下旬から4月上旬の間に一巡すると指摘した。(増渕)
2007年設立。汎用目的のデータベース・プラットフォームの開発を行う。同社のクラウドサービスを通じて、企業はオープンソースのデータベース(DB)を迅速かつ低コストで導入・開発・運営できる。 3/13発表の2019/1期4Q(11-1月)は、売上高が前年同期比70.8%増の8,548万USD、営業利益が▲2,376万USDと前年同期▲2,091万USDから赤字増だが、調整後営業利益は▲970万USDで同▲1,450万USDから改善。MongoDB Atlasの売上高が前年同期比5倍増で構成比率32% へ急成長。 2020/1期1Q(2-4月)会社計画は、売上高が8,200万-8,400万USD、調整後営業利益が▲1,400万-▲1,300万USD。同社のオープンソースDBプラットフォームのクラウドは、”DBaaS(DB as a Service)”の旗手としてSaaS同様、サブスクリプション契約数が市場の注目を集めそう。通期市場予想は売上高が同38.8%増の3.71億USD、当期利益が前期▲9,900万USDに対して▲9,840万USD。(笹木)
1990年設立。米国最大の美容専門小売店。化粧品、香水、スキンケア・ヘアケア製品、サロンサービスなどを提供する。一流ブランドから新興ブランドまで幅広く扱う点に特徴。1,074店舗展開。 3/14発表の2019/1期4Q(2018/11-2019/1)は、売上高が前年同期比9.7%増の21.24億USD、純利益が同3.1%増の2.14億USD。EPSは3.31USDと市場予想の3.56USDを上回った。既存店売上高は同9.4%増。取引数が同7.1%、客単価が2.3%それぞれ寄与。eコマース売上高は同25.1%増。 通期会社計画は、80店舗の新規出店、20店舗の移転・改装、270店舗の修繕、売上高が前期比10%台前半の伸び、既存店売上高が同6-7%増、eコマース売上高が同20-30%増、EPSが12.65-12.85USD、設備投資が3.80-4.00億USD(前期実績:3.19億USD)。EPS見通しの中央値は市場予想の12.74USDを上回った。デジタル化投資によりオムニチャネルの相乗効果が加速しよう。(増渕)
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