先週は新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」に対する懸念が相場を支配、さらにFRBがテーパリング期間の縮小に傾いていることも下げに寄与したとみられます。今週はオミクロン株の脅威に関する評価、11月の消費者物価指数、「民主主義サミット」開催による米中関係の行方、などが注目されます。
今回はジム・クレーマーがテクノロジー株の押し目買い候補としてあげた7銘柄から、ユナイテッド レンタルズ(URI)、マーチン マリエッタ マテリアルズ(MLM)、セメックス ADR(CX)、ニューコア(NUE)、チューター ペリーニ(TPC)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
公益事業 | 1.0% | -0.2% | -3.1% |
不動産 | 0.1% | -0.9% | -1.9% |
情報技術 | -0.4% | -1.2% | 3.6% |
生活必需品 | -0.5% | -1.9% | -1.3% |
エネルギー | -0.8% | -6.0% | 14.1% |
資本財・サービス | -1.0% | -4.1% | -2.2% |
ヘルスケア | -1.1% | -2.0% | -4.7% |
S&P500 | -1.2% | -3.4% | 0.1% |
素材 | -1.4% | -3.2% | -0.1% |
金融 | -2.0% | -5.1% | 0.0% |
一般消費財・サービス | -2.4% | -5.4% | 7.4% |
コミュニケーションサービス | -2.8% | -7.3% | -9.8% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
アボットラボラトリーズ | 3.5% |
アップル | 3.2% |
シスコシステムズ | 2.9% |
テキサス・インスツルメンツ | 2.7% |
IBM | 2.6% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ネットフリックス | -9.5% |
セールスフォース・ドットコム | -9.1% |
メタ・プラットフォームズ | -7.9% |
ダウ | -7.9% |
バイオジェン | -7.8% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
11/29(月)は「オミクロン株」による相場の下げが過剰反応との見方が台頭して一旦は反発しました。しかし、11/30(火)にモデルナのCEOが「オミクロン株に対する既存ワクチンの効果は薄いだろう」とコメントしたことから反落、さらにパウエルFRB議長が12月のFOMCでテーパリング期間の短縮を検討する意向と発言して下げが拡大しました。
12/1(水)は反発して始まりましたが、米国内で初のオミクロン株感染者が発見されたとの報道で下げが拡大しました。株価が不振な銘柄の下げが特に大きく、損益通算のための「損だし」が活発だったとの見方もありました。12/2(木)は値ごろ感から押し目買いが活発化して上昇しました。
12/3(金)は市場予想を下回る非農業部門雇用者数にも関わらず、前日比上昇して始まりましたが、FRBによるテーパリングの加速を思いとどまらせるほどではないとの見方が広がって下げに転じました。
S&P500指数は週間で1.2%、NYダウは0.9%、ナスダック指数は2.6%の下落でした。
業種指数では、配当利回りが高い「公益事業」「不動産」がプラスを確保、「情報技術」はアップルの上昇に加え、世界半導体市場統計(WSTS)が楽観的な売上見通しを発表して半導体株が強かったことから値下がりが小さくなりました。一方、ネットフリックスやメタプラットフォームズの下落で「コミュニケーションサービス」が下落率トップでした。
個別銘柄では、売上の3割超を免疫検査・測定機器が占めるアボット ラボラトリーズ(ABT)がトップ、アップル(AAPL)は12/1(水)に「iPhone13」の需要減速をサプライヤーに伝えたとの報道を受けて下落しましたが、好調な年末商戦への期待は根強く週間では上昇となりました。下落率トップのネットフリックス(NFLX)は、ライバルの「ディズニー+」の新規加入者の鈍化を受けて夏以降に株価が大きく上昇していたことから利食いが嵩んでいるとみられます。セールスフォース ドットコム(CRM)は、11-1月期のEPSガイダンスを0.72〜0.73ドルとして、市場予想の0.82ドルを大きく下回ったことから売り込まれました。
経済指標では、11月雇用統計の非農業部門雇用者数が前月比21万人増と同55万人増の市場予想を大幅に下回り、ネガティブサプライズとなりました。ただ、ADP雇用統計、ISM製造業・非製造業景気指数の雇用指数、新規失業保険申請件数など周辺の雇用関係指標の動きからは乖離した数値で、「季節調整のゆがみ」が影響している可能性が指摘できます。
また、全米小売業協会の調査による感謝祭週末の買い物客の人出(オンラインを含む)は前年比3.5%減の179.8百万人と発表されました。セールが前倒しとなっていることが減少要因で、年末商戦全体が不振という評価ではないようです。人出の内訳は、実店舗が前年比14%増の104.9百万人の一方、オンラインは同12%減の127.8百万人とされました。
今週の米国株式市場
オミクロン株の脅威に関する評価、11月の消費者物価指数、「民主主義サミット」開催による米中関係の行方、などが注目されます。
オミクロン株については、感染拡大による経済への影響の評価が続きます。既存のワクチンがどれくらい有効なのかが焦点となります。先週までの情報では、モデルナのCEOは効果が低下すると見込んでいる一方、ファイザーの幹部は概ね有効性が維持されそうだとして、両社で異なっています。ただ、重症化を抑える効果は維持されると考えられています。今週から来週にかけて、データに基づいた判断が出てくる見込みです。また、新たなワクチンが必要となる場合、いつ頃供給できるのかも注目されます。
12/10(金)に米国の11月消費者物価指数が発表されます。市場予想は前月比0.7%増、前年比では前月の6.2%増から6.7%増に物価上昇率が高まると見込まれています。先週パウエルFRB議長が12月FOMCでテーパリング期間の縮小を検討する意向を発表していることもあり、金融引き締め時期の前倒しにつながるか注目されます。米10年国債利回りはオミクロン株の影響で下落していますが、政策金利に敏感に反応する米2年国債利回りは、11/30(火)の0.478%から12/3(金)の0.591%へ過去1ヵ月で0.113%の上昇となっています。
12月9日、10日と米国主催で「民主主義サミット」が開催されます。勢いを増す権威主義や独裁国家を前に、民主主義国家の結束を促すことが目的とされ、ロシア、中国などが反発の声をあげています。台湾が参加することで、中国を刺激する怖れがあり、注意が必要でしょう。
経済指標では、12/10(金)に米国の11月消費者物価指数(前月比0.7%増の予想)、12月ミシガン大学消費者マインド(前月の67.4から68.5に改善の予想)、の発表が予定されています。
企業イベントでは、オートゾーン、トールブラザーズ、ゲームストップ、コストコホールセール、ルルレモン、ブロードコムなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
去る11/15(月)に米国のインフラ投資法案、「インフラ投資・雇用法(The Infrastructure Investment and Jobs Act)」が成立していますので、関連の銘柄をご紹介いたします。
米国のインフラ投資については、2016年11月にトランプ氏が大統領選挙に勝利してから、市場で期待が高まっては実現しないということを繰り返してきました。5年越しで実現したため、利食いが先行することを懸念していました。しかし、オミクロン・ショックによる調整で、目先の売りたいと考えていた投資家は売った可能性が高く、今回取り上げることとしました。
同法の予算規模は1兆2,000億ドルとされますが、これは既にインフラ投資としてコミットされていたものを含む額で、新たに追加されたのは5,500億ドルになります。分野別の内訳は、図表3の通りです。インフラ投資と聞いて普通にイメージする土木関係の投資が大半を占めています。
土木分野に関連する銘柄として、ユナイテッド レンタルズ(URI)、マーチン マリエッタ マテリアルズ(MLM)、セメックス ADR(CX)、ニューコア(NUE)、チューター ペリーニ(TPC)をご紹介いたします。
なお、これら銘柄の最近のチャートを見ますと、10/28(木)から上昇しているものが多くなっています。これは民主党が気候変動・社会保障関連歳出法案の規模を3.5兆ドルから1.75兆ドルに縮小して、インフラ投資法案の成立を優先する姿勢を見せたことが要因です。米下院で可決されたのが11/5(金)の引け後で、株価は11/8(月)に高値を付けたものが多くなっています。
図表3 インフラ投資・雇用法で新たに追加された5,500億ドルの内訳
※各種報道をもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (12/3) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ユナイテッド レンタルズ(URI) | 332.83ドル | 13.0 | 【建機レンタルの最大手】 ・米国最大の建機レンタルの会社で、架空リフト、空気圧縮機、コンクリート機器、地ならし機、フォークリフト、発電機などを提供しています。米国49州に1,000以上の拠点を展開し、2020年の米国市場のシェアは13%で、2位のサンベルトの9%を大きく引き離して最大です。顧客別の売上は、非住宅建設(インフラ建設を含む)が49%、産業その他が46%、住宅建設が5%となっています。 ・米国売上が9割以上を占めるため、インフラ投資の拡大による恩恵が最も大きい企業の一つと考えられます。建機レンタルの市場は地場企業によって細分化された市場で、最大手である同社は規模や財務面の強さが優位に働くと期待されます。特にデジタルへの投資が重要な局面ではそうでしょう。7-9月期決算は、売上が前年同期比19%増、EPSが同16%増と堅調でした。 | ||
マーチン マリエッタ マテリアルズ(MLM) | 408.37ドル | 27.9 | 【建設骨材の大手】 ・米国南東部ノースカロライナ州に本社を置く、骨材(砂利、砕石)、セメント・コンクリートなど建設資材を供給する企業です。積極的な企業買収によりカバー地域を広げ、現在では南東部、南部、中西部を中心に30州およびカナダなどに事業展開します。 ・米国のインフラ投資・雇用法では、新たについた予算5,500億ドルのうち、2,840億ドルが運輸関連に振り向けられます。そのうち骨材が特に多く使用される連邦ハイウェイプログラムの年間予算は2026年まで60%近く増加すると見込まれ、同社はその恩恵を直接受けると期待されます。7-9月期の売上は前年同期比18%増と好調です。2022年12月期は売上が前年比20%増、純利益は同26%増が予想されています。 | ||
セメックス ADR(CX) | 6.03ドル | 100.5 | 【セメント・コンクリートで米国2位のグローバル企業】 ・セメント・コンクリート、骨材を中心に世界50ヵ国に展開するメキシコのグローバル企業です。セメント・コンクリートでは米国で欧州企業のラファージュホルシムに次ぐ2位、世界でも5位に位置します。2020年12月期の地域別売上は、米国が31%のほか、メキシコ22%、欧州中東アフリカアジア34%、中南米11%、その他2%となっています。米国のインフラ投資計画が実行される場合は、業績拡大をけん引すると期待されます。 ・7-9月期決算は、主力のセメントが価格・数量ともに伸びて売上は前年同期比8%増と堅調も、営業利益はエネルギーコストや物流コストの上昇により同1%減となりました。2021年12月期のEBITDAは前年比20〜22%増を見込んでいます。来年以降は米国のインフラ投資による恩恵が期待されます。また、欧州、南米、アジアなどで資産の売却を進めており、負債額の削減によって投資適格への格上げを目指しています。 | ||
ニューコア(NUE) | 110.50ドル | 6.6 | 【米国最大の鉄鋼メーカー】 ・米国最大の鉄鋼メーカーで、2020年の粗鋼生産量は世界15位です。小規模な電炉による効率生産が特徴で、鋼板、棒鋼から加工品までを製造・販売しています。インフラ投資に使用される鋼材との関連性が高い鉄鋼メーカーです。 ・7-9月期は製品の平均価格が前年同期比88%増となったことから、売上は同2.1倍、EPSは同11.6倍と好調で、売上高純利益率は22%まで改善しています。売上はパンデミックの反動だけでなく、2019年7-9月期に対しても89%増の水準です。会社は10-12月期について、顧客の需要は強く受注残も高水準であることから、7-9月期の利益を上回る可能性があり、2022年12月期も需要好調は続く見通しとコメントしています。 | ||
チューター ペリーニ(TPC) | 12.98ドル | 6.3 | 【鉄道建設の工事比率が高い】 ・建設中堅で、高速道路、橋梁、トンネル、公共事業、商業ビル、教育施設など幅広い工事の設計・施工・監理を請け負います。21年3月末の受注残81億ドルのうち、土木が59%、建設が20%、専門工事が21%を占め、土木の8割を占めて主力となっている公共交通機関向けが全体の48%を占めます。成立したインフラ投資法案では、鉄道に660億ドル、公共交通機関に390億ドルの予算が追加されており、恩恵を受ける可能性があります。 ・2021年に入って3四半期連続で前年同期比減収と業績は低調に推移しています。7-9月期も売上が前年同期比18%減、営業利益は同37%減でした。ただし、同期に21億ドルの受注を獲得して受注残は6月末の75億ドルから84億ドルに増加しており、業績底入れの期待があります。今後についても、JFK空港のプロジェクトワンなど複数の大型案件の入札結果を待っているところです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
6(月) | ||
7(火) | ・中国貿易統計(11月) ・ドイツZEW景気指数(12月) ・ユーロ圏実質GDP(7-9が月、確報値) ・米消費者信用残高(10月) |
オートゾーン、トールブラザーズ |
8(水) | ・日本実質GDP(7-9月期、確報値) ・米求人労働異動調査(10月) |
ゲームストップ |
9(木) | ・日本工作機械受注(11月) ・中国生産者・消費者物価指数(11月) ・中国資金調達総額(11月、15日までに発表) ・米主催の民主主義サミット(オンライン、10日まで) ・米新規失業保険申請件数(12月4日に終わる週) ・米家計純資産変化(9月末) |
コストコホールセール、ルルレモン、ブロードコム |
10(金) | ・米消費者物価指数(11月) ・米ミシガン大学消費者マインド(12月) |
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13(月) | ・日銀短観(大企業製造業DI、12月) | |
14(火) | ・ユーロ圏鉱工業生産(10月) ・NFIB中小企業楽観指数(11月) ・米生産者物価指数(11月) |
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15(水) | ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(11月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(12月) ・米小売売上高(11月) ・米輸入物価指数(11月) ・米NAHB住宅市場指数(11月) ・FOMC政策金利 |
レナー |
16(木) | ・ユーロ圏マークイット製造業PMI(12月) ・ECB主要政策金利 ・住宅着工・建設許可件数(11月) ・新規失業保険申請件数(12月11日に終わる週) ・米フィラデルフィア連銀景気指数(12月) ・米鉱工業生産(11月) |
アクセンチュア、アドビ、フェデックス |
17(金) | ・日銀政策金利 ・EU27ヵ国新車登録台数(11月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。 ※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成