先日、ある雑誌の企画で株式アナリストの座談会がありました。そこで、今年後半の東京市場の投資テーマを全アナリストに聞いたところ、「マイナンバー」「インバウンド」の2つの投資テーマに注目する方が、圧倒的でした。前回(8/7)の「マイナンバー」に続いて、今回は、『インバウンド需要の現状と今後の見通し』について簡単に解説し、ここから狙ってみたいインバウンド関連銘柄を徹底紹介!?福の神注目の5銘柄、裏読み5銘柄をご紹介いたします。
2015/07/31に観光庁が、「訪日外国人消費動向調査(平成27年4〜6月期)」を発表しています。まずは、この調査結果から、インバウンド需要の現状を簡単に説明しましょう。
平成27年4〜6月期の訪日外国人1人当たりの旅行支出は、177,428円、前年同期(143,903円)に比べて23.3%増加しています。その主な理由は、他の国籍・地域と比べて1人当たり旅行支出の高い中国からの訪日外客数が大幅に増加(前年同期比137.1%増)していることです。また、中国人の1人当たり旅行支出も前年同期比34.7%増と大幅に増加しています。
図1:訪日外国人1人当たり旅行支出
- ※出典:国土交通省観光庁 観光統計(2015/7/31)
また、平成27年4〜6月期の訪日外国人全体の旅行消費額は8,887億円で、前年同期(4,870億円)に比べ、85.2%増加しています。訪日外客数は501万人であり、前年同期(338万人)に比べ48.0%増加しています。
政府は2020年までに、年間の訪日外客数2,000万人を目標として掲げていますが、4〜6月期のペースが年間で続けば、すぐにも達成可能な状態となっています。
昨年度も、訪日外客数の伸びによって、旅行消費額=インバウンド需要が大きく伸びるとして、株式市場ではインバウンド関連銘柄が堅調でした。
今年度は、訪日外客数の伸びも衰えていませんが、1人当たり支出金額の多い中国人の増加により、旅行消費額=インバウンド需要が倍増に迫る勢いで伸びています。
図2:旅行消費額と訪日外客数の推移
- ※出典:国土交通省観光庁 観光統計(2015/7/31)
現在のインバウンド需要の大きな伸びは、いわゆる「中国人の爆買い」のお陰と言えるでしょう。
しかし、最近になって「中国人の爆買い」が止まる原因となりそうな要素が2つあります。1つ目は中国株式の暴落。2つ目は、中国人民元の切り下げです。
中国株式の暴落については、 図3 上海総合指数 日足チャート(6ヵ月)から、わかるように、2015/6/12の高値5,178.19から、2015/8/26の安値2,850.71まで約45.0%下落しました。しかし、図4の上海総合指数 日足チャート(1年)でわかるよう2014/10/27安値2,279.84から、直近2015/9/21終値3,156.53まで138.4%と大幅な上昇となっています。
図3:上海総合指数 日足チャート(6ヵ月)
図4:上海総合指数 日足チャート(1年)
中国人民元の切り下げについては、 図5 人民元/円 日足チャート(6カ月)から、わかるように、2015/6/5高値の20.2840から、2015/8/24安値18.1801まで約10.4%下落しています。しかし、図6の人民元/円 日足チャート(年)でわかるように、2014/10/5の安値17.1669から、直近の2015/9/21の終値18.91997まで10.2%の上昇となっています。
図5:人民元/円 日足チャート(6ヵ月)
図6:人民元/円 日足チャート(1年)
このように、短期間では大きく下落したように感じられますが1年間のスパンで考えると、中国株も為替も、現時点で上昇していることになります。
また、単に為替安や株高によって、訪日中国人が増加したのではなく、日本の高い観光魅力が要因として考えられます。中国人の出国者数は、ほぼ1人当たりGDPの伸びに沿って成長していますが、日本への入国者数増加の背景として、他国と比べて日本の旅行先としての魅力が高いことと、短期的には若干人民元安・円高ですが、中期的には人民元高・円安となっていたからだと思われます。
日本政府観光局が発表したデータによると、15年1〜8月の訪日外国人数の累計は、前年同期比49.1%増で1,287万5,400人に達しています。8月のみの訪日外国人数は、前年同月比で約64%増の181万7,100人。中国からの訪日客は前年比で約2.3倍となる59万1,500人でした。8月には、中国株安・中国人民元の切り下げが起こり、中国からの訪日客の減少が懸念されましたが、大きな影響はなかったようです。
このことから、今後極端に人民元安・円高水準とならない限り、「中国人の爆買い」は止まらないと考えられそうです。
「中国人の爆買い」にけん引され、訪日外国人全体の旅行消費額=インバウンド需要は堅調な伸びが続きそうです。
- ※チャートは、すべて当社WEBサイトからSBI証券が作成
昨年から、既にインバウンド需要は急増しており、株式市場でも、インバウンド関連銘柄が人気となっています。今回は、2つの代表的な銘柄、免税品販売のラオックスと、高級炊飯ジャーが人気の象印マホービンをご紹介しましょう。
秋葉原の老舗の家電量販店であったラオックス(8202)は、家電不況による業績不振から、中国同業の蘇寧電器傘下になっています。中国で家電量販店を展開するとともに、国内では家電販売から撤退し、中国人観光客への免税品販売が主力となっています。第三者割当・公募増資で約292億円を調達し、免税品販売の国内出店を強化し、日本製アパレルブランドを立ち上げるなど訪日外国人向けの商品力も強化しています。図7のラオックス 日足チャート(2年)でわかるように2014/5/19の安値42円から、2015/7/20の高値564円まで約13.4倍となっています。
象印マホービン(7965)は、調理用家電・リビング用品の大手メーカーです。炊飯ジャー、ステンレスマグがアジアで順調に販売を伸ばし、国内でも高級炊飯ジャーを中国人が爆買いしたことなどから、業績は好調なようです。株式市場では人気薄で万年割安株でしたが、インバウンド関連として人気化しました。図8の象印マホービン 日足チャート(2年)でわかるように、2014/3/17の安値318円から2015/06/22の高値2,080円まで約6.5倍となっています。
図7:ラオックス 日足チャート(2年)
図8:象印マホービン 日足チャート(2年)
- ※チャートは、すべて当社WEBサイトからSBI証券が作成
前回に引き続き今回も、ここから狙ってみたいインバウンド関連銘柄を徹底紹介!?福の神注目の5銘柄、裏読み5銘柄をご紹介いたします。
福の神注目の5銘柄
中国人の爆買いが多い商品に医薬品・化粧品などがあります。これらの免税品の販売に強みを持つのが、ドラッグストア首位のマツモトキヨシホールディングス(3088)です。銀座・新宿・六本木・渋谷・浅草など訪日外国人が多く立ち寄るターミナル駅に大型店舗を持ち、訪日観光客需要を満喫しています。
多くなってきたのは、東京・大阪・京都など以外に札幌などの地方都市を訪れるリピーター客で、それにより空運で国際線首位、国内線2位の日本航空(9201)も注目できそうです。予想配当利回りも約2.4%と高く、50%割引の株主割引券も魅力です。訪日外国人旅行者が宿泊するホテル関連では、今後3年間で計23棟のホテル開業予定と大攻勢を仕掛ける共立メンテナンス(9616)が面白そうです。2015/3期で外国人持株比率17.9%と高く、インバウンド需要を取り込むホテル関連銘柄として、外国人投資家の評価が高い銘柄です。
百貨店業界では、関西に地盤を持つエイチ・ツー・オーリテイリング(8242)に要注目です。主力の阪神・梅田店が工事中で売り場減となっていますが、もうひとつの主力である阪急・梅田店がインバウンド需要を取り込み絶好調です。
最後に、ホテル・リゾートに強い電鉄株として、近鉄グループホールディングス(9041)も要注目です。傘下の都ホテルズ&リゾーツの外国人宿泊者数は、2012年度31万人→2013年度52万人→2014年度77万人と急増しています。
裏読み5銘柄
注目銘柄で日本航空を注目したように、日本国内を飛行機で動く訪日外国人旅行者が増加しています。各言語に対応した格安航空券のネット販売を行っているアドベンチャー(6030)が面白そうです。地方にも足を伸ばす傾向にある台湾、韓国、香港からの観光客が多く利用しているようです。また、東京は世界一ミシュランの三ツ星レストランが多い都市です。高級フレンチやイタリアンのひらまつ(2764)も訪日外国人の人気が高いようです。箱根・熱海・伊勢志摩で高級レストランが併設されたホテルを開業予定です。また、高級ホテルや料亭・レストランに、からすみ、キャビア、フォアグラなどの業務用高級食材を販売するジーエフシー(7559)も隠れたインバウンド関連銘柄です。実績PBRが0.55倍と低く、9月権利確定での100株保有で2,000円相当の自社取扱商品が株主優待で貰えるのも魅力です。
高級ブランド品や時計・カメラなどの高額商品も訪日外国人旅行者向けに売れています。多くの旅行者は百貨店や銀座の路面店などで買いますが、割安に買える中古を好む旅行者も多いようです。ブランド品の買い取り・販売がメインビジネスのコメ兵(2780)では、銀座店などで売上の約2割を訪日外国人旅行者が占めています。
先日、2022年冬季五輪の開催地が中国・北京に決定しましたが、1972年の札幌オリンピックを契機に、日本でスキーなどのウィンタースポーツが大衆に普及したように、中国でもスキーなどがメジャーなスポーツになりそうです。冬季五輪では、北京に隣接する河北省張家口市でスキー競技などを行う計画ですが、雪不足が指摘されるうえ、中国には良質な雪質のスキー場が少ないようです。そこで、中国人スキーヤーが日本のスキー場に大挙して押しかける可能性が高く、日本のスキー場関連銘柄には強い追い風となりそうです。日本のスキー関連銘柄で注目されるのが、日本スキー場開発(6040)です。
表1:福の神注目の5銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 9/21 終値 |
予想 PER |
実績 PBR |
実績 ROE |
時価総額 (百万円) |
業種 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3088 | マツモトキヨシホールディングス | 5,090 | 16.4 | 1.7 | 7.5 | 278,097 | ドラッグストア | ||
9201 | 日本航空 | 4,285 | 10.0 | 2.0 | 20.3 | 1,554,186 | 航空運送サービス | ||
9616 | 共立メンテナンス | 7,290 | 31.2 | 2.7 | 10.8 | 140,514 | 寮 | ||
8242 | エイチ・ツー・オー リテイリング | 2,201 | 20.4 | 1.1 | 5.4 | 275,568 | 百貨店 | ||
9041 | 近鉄グループホールディングス | 434 | 33.9 | 2.5 | 9.3 | 827,473 | 鉄道 |
表2:裏読み5銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 9/21 終値 |
予想 PER |
実績 PBR |
実績 ROE |
時価総額 (百万円) |
業種 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
6030 | アドベンチャー | 7,010 | 78.2 | 15.2 | 21.1 | 15,648 | 旅行代理店 | ||
2764 | ひらまつ | 629 | 15.3 | 4.2 | 32.2 | 30,572 | レストラン | ||
7559 | ジーエフシー | 1,329 | 16.0 | 0.5 | 2.9 | 7,667 | 食品卸 | ||
2780 | コメ兵 | 2,820 | 14.8 | 1.8 | 12.8 | 31,744 | 中古品小売り | ||
6040 | 日本スキー場開発 | 4,540 | 25.2 | 3.9 | 19.5 | 18,160 | 娯楽施設 |
- ※選定基準:インバウンド需要が生じると思われる企業の中から、ROE15%以上の高成長企業、またはPER40倍以下など極端に割高水準でない銘柄を選定
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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