足元の日経平均は1月17日に年初来高値(ザラ場)24115.95円をつけた後、高値圏でのもみ合いとなっている。年末年始の海外市場では、米軍がイランのソレイマニ司令官を空爆で殺害したことが明らかとなり、中東情勢の緊迫化への懸念から米国株をはじめとした海外株に対して売りが優勢になった。
この流れを受けて大発会6日の日経平均は、昨年末比451.76円安の23204.86円(2年連続の大発会安)の始まりとなった。その後、トランプ米大統領が会見でイランとの更なる対立激化を望まない意向を示唆したことで、イラン情勢に対する過度な緊張感の緩和を受け、為替相場も1ドル=109円台を回復。これらを好感して日経平均も1月半ばにかけて戻り基調入りした。
引き続き市場では米中貿易摩擦が和らぐとの期待感は高まるなか、台湾積体電路製造(TSMC)の業績・設備投資見通し発表なども相まって、東京市場ではハイテク株を中心に幅広く買いが入った。これに伴い、日経平均は17日にザラ場ベースでの年初来高値をつけた。中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎感染拡大への懸念から上値では売りが出ているものの、節目の24000円レベルを意識した水準での値動きは継続している。
一方の米国株式市場では、NYダウやナスダック、S&P500といった主要3指数が揃って過去最高値圏での推移となっている。また、半導体需要の底入れ期待を背景に高値更新を続ける半導体SOX指数の動向も注目を集めている。前述の通り、年始にみられた中東情勢の緊迫化への懸念や今週話題となった中国発の新型ウィルス感染者が米国でも発見されたことなどが株価の重しとなる場面が散見されているものの、上昇トレンド自体は継続している。
15日に実施された米中貿易交渉での第1段階目の合意署名では、中国が今後2年で2000億ドル相当のモノ及びサービスを米国から購入する代わりに、米国は1200億ドル相当の中国製品の輸入関税を半減させ、その他の輸入品については関税導入を遅らせることなどが合意文書に盛り込まれた。中国政府による産業補助金の見直しなどが議題になる「第2段階」の合意に向けた交渉は長期化が見込まれているが、現状は今後の両国の通商協議における楽観的な見方が市場では優勢となっている状況である。
個別では、19年末に世界最大のEV市場である中国において主力小型車「モデル3」の生産が始まり、成長が軌道に乗るとの期待の高まる電気自動車(EV)メーカーのテスラが過去最高値更新を見せている。一方、航空機のボーイング(BA)は、737MAX機の運航再開について当局からの承認が早くても6-7月頃になるとの見通しを示しており、航空各社への補償額増加による財務懸念が優勢になっている。
1月半ばまでに2019年9-11月期決算発表が終わり、1月20日週からは10-12月期決算発表が徐々に始まる。小売・サービスセクターの9-11月期決算は消費増税前の駆け込みとその反動に振らされたほか、大型台風や冷え込みの遅れといった天候要因の影響を強く受ける格好となった。
小売大手では、セブン&アイ・ホールディングス<3382>が主力のコンビニエンスストア事業が底堅く推移。ただ、総合スーパー(GMS)などは不振が続き、依然として構造改革の推進が課題として残る。イオン<8267>は23年ぶりとなる社長交代を発表し、吉田昭夫次期社長のもとデジタル化対応などの成長戦略が加速するか注目される。ローソン<2651>は子会社の寄与が業績を押し上げたが、コンビニ事業の伸びは鈍く、株価反応も限定的なものにとどまっている。
外食は軽減税率の適用がなく、「中食」との競合などから苦戦するケースが見られた。前四半期までの好調から株価が大きく上昇していた吉野家ホールディングス<9861>は、収益鈍化から決算発表直後に大きく売られ、人気外食株の過熱感も浮き彫りとなった。こうしたなかでクリエイト・レストランツ・ホールディングス<3387>などは期待をつなぐ好決算だった。
家電・家具などは増税前の駆け込みで当四半期の決算は良好だったが、その反動が長引くことへの懸念もある。天候要因などから苦戦が鮮明となったのはアパレルで、日経平均への影響が大きいファーストリテイリング<9983>は韓国・香港の落ち込みも響き、第1四半期段階で通期予想の下方修正を行った。
これから発表が本格化する主要企業の10-12月期決算を占う上で注目された安川電機<6506>の9-11月期決算だが、受注底打ちなどのプラス面が見られ、米中貿易摩擦の緩和による今後の回復期待も加わって、発表直後の株価は好反応を示した。しかし、全体としては業績の減速感が依然として強く、買いは長く続かなかった。
なお、これら決算を通過した現在の日経平均の予想1株当たり利益(EPS)は1600円台半ばと、12月からほぼ横ばい。株価収益率(PER)も14倍台前半から半ばでの推移が続いており、日経平均は24000円近辺での高値もち合いが続いている。
米中通商協議 第1段階の合意の確実な履行が優先事項に
米中両国は1月15日、通商協議を巡る第1段階の合意に署名した。一部関税措置を取り下げるほか、中国は米国からモノとサービスの輸入を拡大する。今回の合意では、中国は2年間で新たに2000億ドル相当の米国の農産品、モノ、サービスを輸入すると確約している。一部報道によると2017年の1860億ドルの輸入額が基準となったようだ。米ホワイトハウスが公表した文書によると、中国側は540億ドルのエネルギー、780億ドルの工業製品、320億ドルの農産品、380億ドルのサービスの追加輸入をコミットしている。
報道によると、今回の合意事項の実施方法を巡る米中間の意見対立は、二国間協議を通じて解決することになるようだ。事務レベルの協議から始めて、トップレベルまで段階的に行う。協議を通じて解決されない場合は、関税導入を含めた制裁のプロセスに入る。米国政府関係者によると、両国の紛争解決プロセスについて、約90日を要するとし、双方が報復措置に動くことを回避するための措置となるようだ。
なお、報道によると、中国の通商交渉チームのメンバーである国家発展改革委員会(発改委)の副主任は、「米国との貿易交渉の第2段階の協議日程は決まっていない」と語った。第1段階の合意の履行が当面の焦点であり、第2段階の通商協議の準備はその履行状況次第になると指摘している。
政策金利は長期間据え置きか、通商問題などを巡る米中関係の不確実性残る
次回の予想:2020年1月29日発表 政策金利(FFレートの誘導目標水準)は1.50%−1.75%に据え置かれる見込み
12月11日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明では、「現行の金融政策の運営姿勢が、委員会の対称的な目標である2%に近いインフレ率を支えるために適切である」との判断が示された。市場関係者の間では「米中通商協議における第1段階の合意は米中両国にとって好ましい進展だが、米国のインフレや雇用情勢に大きな影響を与えるものではない」との見方が多い。現行の政策金利は第1段階の合意後も適切であり、通商問題などを巡る米中関係の不確実性が除去されたわけではなく、世界経済の減速傾向は特に変わらないと予想されていることから、1月28−29日に開かれる次回FOMC会合を含めて、米国の金融政策は長期間変更なしの状態が続く見込み。
提供:フィスコ社