日経平均株価の5月末終値は20,601円19銭となり、前月末比7.4%下落しました。米中通商交渉は合意に向かうのではなく、暗礁に乗り上げる形になってしまいました。さらに、米トランプ大統領は、不法移民をめぐる対策が不十分であるとして、メキシコからの輸入品すべてに5%の関税を賦課するとの方針を発表しました。米中通商協議に関心が集中していた市場にとり、メキシコへの課税は意外感が強く、発表後は波乱が加速する展開になりました。6月相場も冴えないスタートとなっています。
株式市場は今後、どう推移するのでしょうか。「225の『ココがPOINT!』」では、日経平均株価の当面の下値メドを探るとともに、6月相場の展望を考えてみたいと思います。
日経平均株価の5月末終値は20,601円19銭となり、前月末比1,657円54銭(7.4%)の下落になりました。4月は4週連続高となりましたが、5月は4週連続安と対照的な1ヵ月になりました。すなわち、週足ベースでは5月第1週(5/7〜5/10)に913円81銭(4.1%)下落、同第2週(5/13〜5/17)に94円83銭(0.4%)下落、第3週(5/20〜5/24)に132円87銭(0.6%)下落、第4週(5/27〜5/31)に516円03銭(2.4%)下落となりました。
米トランプ大統領は5/5(日)に、中国からの輸入品2,000億ドルについて関税を10%から25%に引き上げる方針であること、現在非関税の残りの同国からの輸入品3,250億ドルについても関税賦課を検討していること等を明らかにしました。5/15(水)には、米商務省が同国企業に中国通信機器大手ファーウェイへの禁輸政策を発表しました。米中通商交渉は合意に向かうのではなく、暗礁に乗り上げる形になってしまいました。
そして、米トランプ大統領は現地時間5/30(木)、不法移民をめぐる対策が不十分であるとして、メキシコからの輸入品すべてに5%の関税を賦課(6/10〜)するとの方針を発表しました。米中通商協議に関心が集中していた市場にとり、メキシコへの課税は意外感が強く、発表後は波乱が加速する展開になりました。
ご参考までに、5/27(月)〜6/4(火)の日経平均株価の日次の動きは以下のようになっています。
- 5/27(月)65円36銭高・・・NY株高(5/24)を織り込みました。NY休場や日米首脳会談を控え、売買代金は低水準でした。
- 5/28(火)77円56銭高・・・日米首脳会談の無事通過やアジア株高が追い風でしたが、様子見が続きました。
- 5/29(水)256円77銭安・・・米トランプ大統領が「中国と合意の準備はできていない」と発言。人民日報がレアアース禁輸報道。
- 5/30(木)60円84銭安・・・米国株安を嫌気しました。ディフェンシブ銘柄にも売りが拡がりました。
- 5/31(金)341円34銭安・・・米国時間5/30(木)に米トランプ大統領がメキシコからの輸入品に関税を賦課と発表しました。
- 6/3(月)190円31銭安・・・NYダウ(5/31)が341ドル下げ、外為市場でドル・円相場が1ドル108円台まで円高が進みました。
- 6/4(火)2円34銭安・・・セントルイス連銀総裁が利下げの可能性を示唆する発言を行い、円高が加速しました。
なお、冒頭にご紹介した通り、5月の日経平均株価は月間で7.4%下落しましたが、その他のおもな指標の5月の月間の動きは以下のようになっています。市場では、リスク回避姿勢が一気に進み、株や商品が売られ、円や金が買われる展開になりました。
- 米国株(NYダウ)・・・6.7%下落(S&P500は6.6%下落)
- 上海総合指数・・・・5.8%下落
- ドイツDAX指数・・・・5.0%下落
- 米10年国債利回り・・・・4月末2.5%から5月末は2.129%に低下
- ドル・円相場・・・・ドルは対円で2.8%下落
- ユーロ・円相場・・・ユーロは対円で3.2%下落
- 原油(NY)・・・・16.3%下落
- 銅(ロンドン)・・・9.1%下落
- CRB商品指数・・・・4.8%下落
- 金(NY)・・・2.0%上昇
図1 年初来高値から約2千円下げた日経平均株価
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/6/4取引時間中
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/6/3現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/6/4取引時間中
米国でもっとも市場の注目度が高い経済指標と言えるのが雇用統計です。6/7(金)に5月分の数字が発表されます。毎月12日を含む週の雇用情勢を調べ、その3週間後の金曜日に発表されます。通常は毎月の第1金曜日に発表されることが多いですが、第2金曜日になることもあります。
5月の雇用統計については、非農業部門雇用者数が前月比18.3万人増(4月は26.3万人増)、失業率が3.6%(4月も同数)、平均時給が前年同月比3.2%増(4月も同数)になるというのが市場コンセンサス(6/3現在)です。一般的には、非農業部門雇用者数が市場コンセンサスと比較して多いのか少ないのかが注目点となりますが、最近は平均時給の動向も市場を動かすケースが増えているようです。平均時給が予想を上回ると、賃金インフレが進むリスクが膨らんでいると理解され、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げや、それを背景とするドル高につながると考えられるためです。
週次で発表される新規失業保険申請件数をみる限り、堅調な雇用情勢に大きな変化はないと見受けられます。5/24(金)に終った週の同申請件数は21.7万人(4週移動)で、4/26(金)に終った週の同21.3万人と大差はありません。ただ、2018年以降、失業保険申請件数は減少しにくくなっているように見受けられます。
トランプ大統領による関税で中国やメキシコに揺さぶりをかける政策が、企業の設備投資や雇用に悪影響を与えるケースも出てくると思われます。5月の雇用統計については波乱が少ないとみるのが一般的のように思われますが、何ヵ月後かの雇用統計で波乱が起こる可能性はゼロではないと思われます。
表1 今後約2週間の重要スケジュール
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
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6/4(火) |
中国 |
天安門事件から30年 |
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- |
ラマダン明け |
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6/5(水) |
米国 |
5月ADP雇用統計 |
雇用者増加数の市場コンセンサスは19.8万人 |
米国 |
ISM非製造業景況指数 |
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米国 |
ベージュブック |
米金融政策の判断材料 |
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6/6(木) |
欧州 |
ECB(欧州中銀)定例理事会 |
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6/7(金) |
日本 |
4月家計調査 |
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米国 |
5月雇用統計 |
非農業部門雇用者数の市場コンセンサスは18.3万人増 |
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- |
中華圏(中国、台湾、香港)が休場 |
端午節 |
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6/8(土) |
- |
G20財務大臣・中銀総裁会議(福岡) |
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6/10(月) |
日本 |
1〜3月GDP改定値 |
速報値(前期比・年率)は+2.1% |
日本 |
5月景気ウォッチャー調査 |
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中国 |
5月貿易収支 |
輸出の市場コンセンサス(前年同月比)は4.9%減 |
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6/11(火) |
日本 |
5月工作機械受注 |
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米国 |
5月生産者物価指数 |
コア指数の市場コンセンサス(前年同月比)は+2.3% |
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米国 |
E3 2019 |
ゲーム業界最大のイベント(ロサンゼルスにて) |
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6/12(水) |
日本 |
4月機械受注 |
民間設備投資の先行指標 |
中国 |
5月消費者物価指数 |
市場コンセンサス(前年同月比)は+2.6% |
|
中国 |
5月生産者物価指数 |
市場コンセンサス(前年同月比)は+0.6% |
|
米国 |
ベージュブック |
米金融政策の判断材料 |
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6/13(木) |
日本 |
5月都心オフィス空室率 |
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米国 |
☆決算発表 |
ブロードコム |
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6/14(金) |
日本 |
メジャーSQ算出日 |
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中国 |
5月都市部固定資産投資 |
市場コンセンサス(前年同月比)は6.2%増 |
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中国 |
5月鉱工業生産 |
市場コンセンサス(前年同月比)は5.4%増 |
|
中国 |
5月小売売上高 |
市場コンセンサス(前年同月比)は8.2%増 |
|
米国 |
5月小売売上高 |
市場コンセンサス(前月比)は0.6%増 |
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米国 |
5月鉱工業生産 |
市場コンセンサス(前月比)は0.2%増 |
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米国 |
6月ミシガン大学消費者信頼感指数 |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | |
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日銀金融政策決定会合 | 6/20(木)、7/30(火)、9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 6/19(水)、7/31(水)、9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 6/6(木)、7/25(木)、9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
東京株式市場は波乱の中、5月末を迎えましたが、6月も冴えないスタートとなっています。今後も日経平均株価の波乱が続いた場合、当面の下値メドとしては、どの辺の水準を想定しておけば妥当でしょうか。以下、候補となる株価水準をご紹介しておきます。
- (1)20,307円・・・年初来高値から2,000円下落した水準
- (2)20,086円・・・12月安値から4月高値までの上昇に対する3分の2押し
- (3)20,076円・・・年初来高値から10%下落した水準
- (4)20,000円・・・心理的節目
- (5)19,816円・・・日経平均株価のBPS(一株純資産)水準。ここを割るといわゆる「解散価値」割れ
- (6)19,787円・・・25日移動平均線(6/3現在21,392円)マイナスかい離7.5%の水準
- (7)19,561円・・・年初来安値水準
- (8)19,422円・・・6/3(月)現在の予想EPS(19,422円15銭)に対し予想PER11倍を乗じた水準
- (9)18,948円・・・12/26(水)に付けた安値
なお、6/3(月)現在、日経平均株価のRSIは30.5%、騰落レシオ(25日)は73.2%まで低下しています。すでにほぼ割安圏に到達していますので、一度はいつ反発しても不思議ではないと考えられます。特に、日経平均株価が「解散価値」割れとなる(5)の水準(ただし、日経平均株価のBPS水準は常に変化しています)は重要な押し目買いタイミングになると考えられます。
ただ、反発後のリバウンドも長続きしない可能性は大きく、6月相場は波乱含みとなりそうです。米国と中国、メキシコとの関税問題がくすぶり続けている上、内外で景気の悪化が次第に鮮明化してくると考えられるためです。6/28(金)・6/29(土)に大阪で開催が予定されているG20の場で、米中首脳会談が実施される可能性が指摘されており、その辺が転機になる可能性が大きいとみられます。
図4:日経平均株価と25日移動平均・同かい離率
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/6/4取引時間中