当レポートは、一般投資家の皆さんにも、アナリストの分析手法の基本知識や考え方、さらにはノウハウを身につけていただく一助になればとの思いで執筆しています。毎回一つのテーマに関して、分析手法やその裏側に隠れている大事な意味などについて解説していきたいと思います。タイミング良く当社の国内株の「銘柄スクリーニング(銘柄条件検索)」機能が大幅にリニューアルされ、バージョンアップしました。このスクリーニング機能を使って、実際にテーマにちなんだ銘柄のスクリーニングも併せて行ってみたいと思います。
第13回のテーマは、「ROEを再考する」です。サブタイトルにも採用しましたが、皆さまは世界的なブランドを有し、優良企業ともいえる、マクドナルド(MCD)、スターバックス(SBUX)、フィリップモリス(PM)、ボーイング(BA)などが、実はいずれも債務超過会社であるということをご存じでしょうか?しかも債務超過の金額は、直近の決算期(2019年12月期)で、フィリップモリスが95億ドル、マクドナルドが82億ドルなどかなりの巨額に達します。
これらの会社の共通点はいずれも株主にやさしい会社で、借金をしてまでも、高額配当や巨額の自社株買いなどの株主優遇策を実行しています。日本の上場制度や商習慣を適用すれば、これらの企業は上場廃止はもちろん、倒産リスクの大きい企業とみなされてしまうのですが、米国ではキャッシュフローが黒字で安定していれば、総じて経営不安に陥ることはありません。これら企業のROE(自己資本利益率)は、分母の自己資本がマイナスなので、実質的に無限大となります。
そこで今回のテーマは「ROEを再考する」としました。実はROEに関しては、昨年の12月12日付けの当欄で第4回目のテーマとして取り上げています。その時は基本的に高ROEな会社を抽出し、ご紹介したのですが、その時同時に、「企業のROEは重要な経営指標だが、その中身をよく吟味しなければならない」との旨の注釈を付けました。
ROEの基本的な考え方は、前回のレポートを参照していただくとして、今回は世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で、一部では企業業績がピンチを迎えつつあるなか、ROEだけではなく、より安全性を加えた銘柄群を抽出してみることにしました。皆さまの投資のご参考になれば幸いです。
ROE(Return on Equity)は、自己資本利益率のことです。ROEは自己資本に対してどれだけの利益を生み出したかを表します。資本の効率を表す指標であり、株式投資において最も重要な指標といって差し支えないと思います。また、企業規模の大小を超えて横並びで企業を評価するのに便利な指標でもあります。
計算式は単純で ROE=当期純利益÷自己資本 です。
ROEの平均値ですが、業種や企業規模によって違いが生じますが、東証1部の加重平均は8.2%、日経平均採用銘柄は8.7%になっています。企業経営者やアナリストの判断基準は、ROEが10%を上回っていれば合格ライン、15%以上なら優秀、安定して20%以上なら超優良、と目安に考えている人が多いのではないでしょうか。
ROEの計算式は、下記のように変形することができます。
ROE= 売上高純利益率(純利益/売上高)×総資産回転率(売上高/総資産)×財務レバレッジ(総資産/自己資本)
= ROA×財務レバレッジ
この式からわかるように、ROEを上げるためには、(a) 売上高純利益率を上昇させる、(b)総資産回転率を上げる(売上高を上げる)、(c) 財務レバレッジを上げる(借金を増やす)、の3つの方法があります。このうち(a)と(b)に関しては、いかに高いマージンで多くのものを売るかという、企業経営の根幹のポイントです。しかし(c)に関しては、企業の財務戦略が大きく関わってくるポイントです。
つまり、利益の絶対額を増やさなくとも、負債を増やすことによって経営の規模を拡大したり、あるいは自社株買いやEPSを上回るような増配を行うことによって自己資本を減らすなどの財務テクニックによってもROEは改善できるわけです。しかし、そうした方法が企業の財務の健全性を損なうことは言うまでもありません。したがって企業のROEを吟味する場合には、その中身をよく吟味しなければならないことになります。現在の米国では株高を優先させるあまり、負債を増やし(借金をして)自己資本を減らす方法として、過度な自社株買いを行う会社が散見されますが、この場合、ROEは高まりますが財務の健全性が損なわれることになりますので、注意が必要です。
マクドナルド、スターバックス、フィリップモリス、ボーイングなどが、債務超過にもかかわらず、倒産せず存続し、なおかつ株式市場でも高い評価を得られているのは、これらの企業が高い市場シェアを背景に安定したキャッシュフローを稼ぐ力があるためです。また、未曽有の低金利状態を背景に企業のこうした動きを加速させているとも見ることができます。
逆にいえば、このような財務戦略は、金利の上昇、金融市場の混乱で資金調達ができなくなる、今回の新型コロナショックのように想定外の不況で業績が悪化しキャッシュフローが悪化する、などの局面に変化した場合は、リスクが高まることになります。「企業のROEは重要な経営指標だが、その中身をよく吟味しなければならない。」という注釈は、まさにここがポイントです。
前述の観点から、今回は高ROEであるのみならず、財務内容やキャッシュフローにも注意を払った銘柄をピックアップしてみます。WEBサイトでログイン後、「銘柄スクリーニング」機能を使用して、下記の条件を設定してみました。
(1)東証1部上場企業
(2)ROEが20%以上
(3)自己資本比率35%以上
(4)PCFR(株価キャッシュフロー倍率)が10倍以下
(5)経常利益変化率が10%以上(前期実績とその2年度前の比較)
その結果表1の銘柄群が抽出されました。掲載順はコード番号順です。
これらの企業は、ROEの観点のみならず、財務内容が良好で、キャッシュフローに対する株価評価も相対的に割安と評価され、利益成長もまずまずと考えられる優良企業群といえるのではないでしょうか。
高ROEかつ好財務内容、キャッシュフローで見て割安な企業はこちら!!
取引 | チャート | ポートフォリオ | コード | 銘柄名 | 株価(円) 5月13日 |
ROE (%) |
自己資本 比率(%) |
PCFR (倍) |
1808 | 1808 | 1808 | 1808 | 長谷工コーポレーション | 1,194 | 26.4 | 47.5 | 3.8 |
1871 | 1871 | 1871 | 1871 | ピーエス三菱 | 542 | 24.8 | 39.3 | 3.0 |
2154 | 2154 | 2154 | 2154 | ビーネックスグループ | 775 | 25.5 | 49.5 | 6.9 |
2157 | 2157 | 2157 | 2157 | コシダカホールディングス | 492 | 21.7 | 44.1 | 3.8 |
3169 | 3169 | 3169 | 3169 | ミサワ | 533 | 34.6 | 38.7 | 5.7 |
3666 | 3666 | 3666 | 3666 | テクノスジャパン | 510 | 33.1 | 72.2 | 7.0 |
4318 | 4318 | 4318 | 4318 | クイック | 1,122 | 25.7 | 66.4 | 10.0 |
4828 | 4828 | 4828 | 4828 | ビジネスエンジニアリング | 2,583 | 21.7 | 54.0 | 9.5 |
5302 | 5302 | 5302 | 5302 | 日本カーボン | 3,250 | 23.8 | 57.9 | 3.2 |
6047 | 6047 | 6047 | 6047 | Gunosy | 915 | 20.6 | 77.7 | 9.9 |
6083 | 6083 | 6083 | 6083 | ERI HLDG | 667 | 21.8 | 36.7 | 7.1 |
7030 | 7030 | 7030 | 7030 | スプリックス | 908 | 25.1 | 70.4 | 8.4 |
9828 | 9828 | 9828 | 9828 | 元気寿司 | 2,429 | 24.6 | 39.0 | 5.8 |
- ※当社WEBサイトの「スクリーニング(銘柄条件検索)」等よりSBI証券が作成。
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