1月後半から2月後半にかけての直近1カ月間での日経平均株価は2,000円近く上昇し、遂にバブル崩壊後30年ぶりとなる大台の3万円を回復した。主力企業の10-12月期決算で、想定以上の力強い業績回復が確認できたことを背景に、1月は動きが小休止していた海外投資家が再び日本株を大きく買い越してきたことが主因だ。
もともと、各国の大規模な財政金融政策に支えられてきた相場ではあったが、今年に入ってからは、米国で誕生したバイデン新政権による1.9兆ドルという更なる大規模な追加経済対策が3月半ばには成立との期待感が高まった。加えて、国内外で新型コロナウイルスの新規感染者数が減少し始め、世界的に第3波に収束の兆しが見え始めたこと、そして、遅れていた日本国内でもワクチン接種が始まったことなど好材料が相次いだ。「財政金融政策の下支え」、「ワクチン接種のペース加速」、こうした良好なマクロ環境のもと、10-12月期決算で主力企業の「力強い業績改善」というファンダメンタルズも確認されたことが、上述の海外投資家を大きく動かした詳細な背景だ。
2月の第1週および第2週の投資主体別売買動向によれば、海外投資家は現物・先物合算で約1兆2,000億円、日本株を買い越してきており、うち現物株だけで7,000億円の買い越しをみせてきた。こうした海外勢による大量買い越しを受けて、日経平均株価は1月29日の安値27,629.80円から2月16日の高値30,714.52円まで2,000円超もの上昇をわずか2週間で実現した。
むろん、警戒材料がないわけではない。足元の想定以上の業績回復や景気回復期待の高まりを受けてインフレリスクが警戒される形で、米長期金利(10年物国債)が1年ぶりにコロナショック前の高水準まで上昇してくるなど、これまでの株高の主因であった超低金利構造が変化しつつある。加えて、急ピッチでの上昇に伴う高値警戒感も相まって、日経平均株価は2月24日には終値で3万円を割り込むなどの場面も見られている。長期金利の高止まりを嫌気して、これまで指数の押し上げ役だったハイテク株やグロース(成長)株にも軟調なものが目立ってきている。大台達成感もあるだけに、目先は金利動向を睨みながら短期的な反動安には警戒したい。特に、米国の追加経済対策への期待感がこれまでの相場の押し上げ役として強かっただけに、3月半ばに実際に成立となった場合には、一時的には出尽くし感が先行する可能性もあり、留意したい。
ただ、実際に政策が実行され、個人の懐が潤うことを考慮すれば、中長期的には更なる株高の素地が整うともいえよう。また、警戒されている米長期金利についても、2月23日および24日に上院と下院にてそれぞれ半期に一度の議会証言を行ったパウエル(FRB)議長は、「足元の物価上昇は一時的なもの」であり、「現状の雇用などは目標からは程遠く金融緩和は今後も継続する」ことを再強調している。そのため、長期金利の上昇にも一旦は落ち着きが見られることが予想される。
また、長期金利が上昇してきているとはいえ、歴史的にみればまだまだ低水準であることや、期待インフレ率を差し引いた実質金利ベースではまだマイナスであり、相対的な株式の魅力が高いことを考えれば、大きく狼狽えるには早いだろう。これまでの株高の背景にある「大規模な財政金融政策」、「ワクチン普及」、「業績改善」、これらの大きな構図が大きく変わったわけでもない。急ピッチで上昇してきた日経平均株価は短期的には調整を挟もうが、主力企業の来期見通しが発表される5月以降には再度高値を更新する動きが期待できるとみている。
図1 日経平均チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
日経平均は2月15日、およそ30年6カ月ぶりに3万円の大台を回復すると、翌16日の取引時間中には30,714.52円まで上昇する場面があった。1月末にかけて米国のゲームストップ株などを巡る投機過熱問題、それに中国人民銀行(中央銀行)の金融引き締め観測が浮上し、2営業日で1,000円近い下落を強いられる場面もあったが、その後の上昇ピッチは急だった。これらの問題に伴う金融市場の混乱が比較的早期に収束したうえ、世界的な新型コロナウイルスワクチンの普及や米追加経済対策の成立への期待が一段と高まったことが背景にある。
また、1月下旬から2月半ばまで順次発表された企業の2020年10-12月期決算も株価上昇に寄与したと考えられる。日本経済新聞社の集計によれば、上場企業(新興、親子上場の子会社など除く)の10-12月期純利益合計は前年同期比で40%増え、9四半期ぶりに増益に転じたという。2021年3月期業績予想の上方修正も相次いだが、日本を代表する企業であるトヨタ自動車<7203>はやはり圧巻だった。従来の通期営業利益予想は1兆3000億円だったが、市場予想コンセンサスを大幅に上回る2兆円(前期比16.6%増)に上方修正した。
日本経済新聞社が発表している日経平均の株価収益率(PER)から逆算される予想1株当たり利益(EPS)は、1月下旬に1,100円前後だったのが足元1,300円を超えてきた。10-12月期の決算発表を通過し、業績上方修正に伴って200円あまり増額されたことになる。これにより株価純資産倍率(PBR)は1.2倍台から1.3倍台に上昇し、日経平均の3万円台乗せにつながった。
EPSの増額に伴ってPERは22倍台まで低下してきた。PBRも2018年初めにかけて1.3倍台後半まで上昇する場面があったため、これらの指標で見ると現在の日経平均の水準は全く裏付けがない「バブル状態」とは言えないだろう(もっとも、正当化できないことはないという意味で、下値不安がないということではない)。
ただ、日経平均は2月16日高値をピークに上値が重くなり、24日には前日比500円近い大幅安となった。金融市場では、米国の1.9兆ドル規模の追加経済対策は過大であり、インフレを招くとの声が出てきた。24日の東京株式市場で逆行高を演じたのが市況関連株や不動産株、これらに加えファーストリテイリング<9983>だったというのが興味深い。市場参加者は「景気浮揚」でなく、大方の世帯に恩恵の乏しい「悪いインフレ」を想定し始めたように思われる。新興テック企業の株価急落も、長期金利の上昇によるものというよりテック株人気を支えた個人マネーの退潮を表しているという方が腑に落ちる。
決算発表を終えて指標改善も目先一服してしまい、今後の株価動向は慎重に見極める必要がありそうだ。
日本:緊急事態宣言の期間延長で1-3月期はマイナス成長に
- 経済見通し
内閣府が2月15日発表した昨年10-12月期実質国内総生産(GDP)速報値は、前期比+3.0%、年率換算では+12.7%となった。この結果、2020年通年の経済成長率は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などで前年比-4.8%と、2009年以来のマイナス成長を記録した。感染症拡大が経済に与える影響は2021年以降も続いている。
日本政府は新型コロナウイルス感染症の全国的で急速な感染拡大を防止するため、2021年1月7日に緊急事態措置を実施すべき区域として埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県を指定し、その後、愛知、京都、大阪、福岡などが追加された。2月2日には、緊急事態措置を実施すべき期間を3月7日まで延長することが発表されている。
緊急事態措置の期間延長による直接・間接的な経済損失額については、昨年緊急事態宣言が発令されていた期間を含む4−6月期GDP成長率(前期比-8.3%、年率換算-29.2%)ほどではないものの、市場関係者の試算によると個人消費支出の減少は5〜6兆円規模になると想定されており、その結果1−3月期のGDP成長率は前期比マイナスとなる見込み。失業者の増加や企業破綻が増えることから、消費者信頼感は悪化し、それによって個人消費はさらに抑制されるとの声も聞かれている。
- 金利見通し
日本銀行は金融緩和の点検を行い、3月開催の金融政策決定会合でその結果を公表する。
金融緩和の点検について市場関係者の間からは、「新型コロナウイルスの感染流行が続いている現状や日経平均が30年半ぶりに3万円の大台に到達したことを踏まえて、日銀が2%物価目標の経済的な合理性などについて再検討しても不思議ではない」との声が聞かれている。
現行の金融緩和策がただちに縮小されることはないとしても、市場関係者は10年国債利回りの変動幅拡大やETFの買入れのさらなる柔軟化などの変更を想定している。 - 10年債利回りの想定レンジ:0.05%−0.15%
アメリカ:4-6月期に経済再加速の可能性
- 経済見通し
報道によると、米下院予算委員会は2月19日、バイデン大統領が提示している1兆9,000億ドル規模の追加経済対策法案を取りまとめた。2月26日頃までに法案は本会議に送付され、民主党は月内の下院通過を目指しており、3月中に法案成立の可能性がある。
新たな法案には、国民への現金給付、失業保険上乗せ、州・地方政府向け支援、2025年までに連邦最低賃金を現行の時給7.25ドルから15ドルに引き上げる案が含まれている。昨年10-12月期の米経済成長率は7-9月期を大幅に下回ったものの、前期比年率+4.0%(速報値)と、プラス成長を維持している。1-3月期は成長鈍化の可能性があるものの、追加経済対策法案の成立によって、国内の新型コロナワクチン接種はさらに拡大する見込みであり、それによって4-6月期の経済成長率は再加速する可能性が高いと予想される。 - 金利見通し
米連邦準備制度理事会(FRB)は1月26−27日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利と量的緩和策の現状維持を全会一致で決定した。米FRBは、新型コロナウイルス感染拡大による景気後退から米国経済が完全に回復するまで、景気支援策(金融緩和策)を継続するとみられている。ただし、FRB関係者の多くは、長期金利の上昇を懸念していないことから、長期金利の上昇を抑えるための追加措置が導入される可能性は大幅に低下したと思われる。米国経済は今年1-3月期に多少減速するものの、ワクチン接種のぺースが加速した場合、4-6月期における景気回復の可能性は高まると予想されており、長期金利は1%を上回る状態が続くと予想される。
- 10年債利回りの想定レンジ:1.10%−1.40%
- ドル・円想定レンジ:104.00円−107.00円
図2 米ドル/円チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
提供:フィスコ社