足元の日経平均は2月3日に22775.92円までの調整を見せたが、現状は節目の23000円台を回復して底堅い値動きとなっている。1月27日以降の下落局面では、中国武漢で発生した新型コロナウイルスの感染拡大が悪材料視された。世界各国で中国への渡航禁止勧告が発令されるなかで、中国政府も団体旅行の中止命令を出したことが伝わり、同国景気の一段の悪化が嫌気された。
また、米国が中国全土への渡航中止・退避を勧告したこともあり、世界経済への悪影響に対する懸念も強まる形となった。ただその後は、中国人民銀行(中央銀行)による景気刺激策としての資金供給の方針が明らかになったほか、米国の堅調な景気指標も確認され、景気鈍化懸念がいったん和らいだ。本格化する国内10-12月期決算では、減益決算・見通し下方修正が目立ったが、市場では概ね想定線との見方から日経平均を押し下げる要因には至らなかった。個別では、ソフトバンクG<9984>の10-12月期業績が、ファンド事業の損益悪化で市場予想を下振れたものの、株価の下落反応は限定的であった。
直近でも、傘下のスプリントとTモバイルUSの合併計画を米連邦地裁が容認したと伝わったことで財務体質の改善が期待されているほか、子会社ソフトバンク<9434>の株式(一部)を担保に5000億円の調達発表が好感されているようだ。現状は、米国株式市場で主要株価指数が揃って過去最高値更新トレンドを継続しているものの、引き続き新型ウイルスの感染拡大による企業業績への影響を見極めたいとする向きが根強い東京市場では、日経平均は24000円レベルの上値抵抗が意識されている。
図1 直近1年の日経平均チャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
図2 直近1年のNYダウチャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
日本銀行:次回会合で資金供給策など追加措置が講じられる可能性
中国湖北省武漢市で昨年12月頃に発生したとみられる新型コロナウイルスの感染(新型肺炎)が中国全域に拡大しているうえ、日本を含めた中国以外のアジア・欧米諸国でもウイルス感染者が日々増加しており、2020年における企業設備投資や外需については楽観的な見通しを持てない状況となりつつある。中国政府は2月18日、中国本土での新型肺炎の死者は累計1,868人、感染者は累計で7万2,436人になったと発表した。湖北省以外では、感染者数の伸びは鈍化しているものの、日本など世界各国で感染者・死亡者はさらに増加することが避けられない状況となっている。
中国におけるウイルス感染の拡大は同国内における需要創出を抑制し、その結果、日本からの中国向け輸出は減少する可能性が高いと予想される。2019年1月−2019年12月(令和元年)の日本の貿易総額(速報値)によると、中国向け輸出は14兆6823億円(前年比−7.6%)となっていたが、2020年における中国向け輸出は2019年の実績を下回ることは避けられないとみられる。ウイルス感染は他のアジア諸国にも広がっており、その影響も考慮する必要がある。
2月17日発表の2019年10-12月期国内総生産(GDP)一次速報値は、前期比年率−6.3%と市場予想(同比−3.8%程度)を大幅に下回った。日本銀行が1月22日に公表した「経済・物価情勢の展望」で示された2020年度の実質国内総生産(GDP)の中央値は+0.9%で2019年度の+0.8%を上回っているが、中国などのアジア地域向け輸出の減少や、日本国内における個人消費や企業設備投資の落ち込みによって、2020年度の実質GDP成長率は日銀予測を下回るケースもあり得る。
日本銀行の黒田総裁は、「新型肺炎の影響が日本経済に大きく波及すれば金融政策を考えなければいけない」と指摘し、「景気や物価動向に影響が出てくる恐れが高まれば躊躇なく追加的な措置を考える」と表明した。次回3月18−19日開催の金融政策決定会合で現行の緩和策とは異なる資金供給策など追加措置が講じられる可能性がある。
米中通商協議 第1段階の合意の確実な履行が優先事項に
2月11、12日に米両院で開かれたパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言では、一定期間ないし一定の経済状況が実現するまで金利据え置きを約束するフォワードガイダンスと、危機時に活用した大規模資産購入の再開について言及した。新型コロナウイルスについては、「新型肺炎の影響を綿密に監視する」、「新型肺炎が中国に混乱をもたらし、世界経済に波及する可能性がある」との見解を表明している。パウエルFRB議長が「見通し修正なければ、政策は適切である可能性が強い」と述べており、政策金利(FFレートの誘導目標水準)は次回3月17−18日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)の会合で1.50%−1.75%に据え置かれる可能性が高いとみられている。
しかしながら、中国におけるウイルス感染拡大によって、米中通商協議のさらなる進展は期待できないこと、欧州経済はさえない状態が続いていることから、世界経済の不確実性は高まっており、4月以降に金利引き下げが決定されるケースも想定される。
2020年3月期第3四半期決算を振り返る
上場企業の2019年4-12月期決算発表が一巡した。一部メディアの集計によれば、上場企業(新興市場、親子上場の子会社などを除く)の4-12月期純利益は前年同期比で12%減った。米中貿易摩擦や消費増税の影響で、製造業だけでなく非製造業もそろっての減益となった。製造業の純利益が前年同期比24%減であった一方、非製造業は同4%減と6%増であった4-9月期から減益に転じた。20年3月期予想では、製造業が前期比24%減、非製造業も同0.6%減と通期ベースでも揃っての減益見通しとなっている。業種別では市場低迷が続いた自動車・部品と、その余波を受けた電気機器や鉄鋼、機械、そのほか、石油、非鉄金属、造船など景気敏感セクターの減益が目立つ格好となった。消費増税の影響が出た小売りも4-12月期は7%近い減益だった。
今回の決算発表を受けてのポイントは、19年10-12月期をボトムとした企業業績の回復局面入りという昨年末からのメインシナリオに影が差し始めたことだろう。19年4-9月期決算の発表が始まった昨年10月頃からは、7-9月期を最悪期とした企業業績の底入れ期待から、業績の下方修正が相次ぎながらも、悪材料出尽くしと見なされ、株高となる企業が多かった。相場全体としても、次世代通信規格「5G」の商用化などを背景に、半導体関連を中心とした本格的な株高が始まっていた。
しかし、蓋を開けみれば、今回の決算発表では、発表された業績修正のうち6割以上が下方修正だった。こうした背景にあるのは、年初から始まった中国発の新型コロナウイルス拡大に伴う世界的な景気後退入りに対する警戒感に依るところが大きいだろう。新型コロナウイルスによる肺炎患者数については、中国現地においてその増加ペースに徐々に鈍化の兆しが見え始めているものの、世界的には日に日に新規観測数が増大しており、日本国内でも、まだ完全には収束の兆しが見えていない。
足元では、中国でのサプライチェーンの混乱が続き、企業が調達先の変更や代替生産を検討する動きも出てきている。中国の現地企業の状況については、操業を再開したところもあるようだが、まだ一部操業にとどまる事業所が多いという。こうした中、訪日外国人の減少などにより、今後は製造業だけでなく、レジャーや観光といったインバウンド関連の業種も含めて全体的に見通しが厳しくなっていくことが懸念される。
さらに、これに追い打ちをかけるかのように、17日に発表された日本の実質GDP速報値は年率換算で前期比6.3%減と市場予想の同3.9%を大きく下回る結果となり、当日の日経平均は一時300円を超す大幅な下落を見せた。このような中、市場でも、「業績の底入れが10-12月期から1-3月期にずれ込むことが考えられる」といった声が一部で聞かれている。
ただ、一方で、中国をはじめ世界各国による金融緩和政策の継続や財政出動など、景気下支え政策に期待する向きも多く、世界的には意外にも株価は底堅さを保っている。相対的に戻りの鈍い日経平均も23000円台半ばを挟んだ水準での動きを継続しており、大幅な調整局面入りとはなっていない。過去の経験則でも、2003年に今回と同じく中国発で大問題となったSARS(重症急性呼吸器症候群)の際には、感染者数の拡大ペースに鈍化の兆しが見られはじめた流行発生時期から数ヵ月ほどのタイミングで株価はボトムを打ち反転局面入りした。
上場企業の決算内容を受けての今後の投資スタンス
つまり、確かにこの先の不透明感は残るが、一方で過度に悲観的になる必要もなく、想定される悪影響としても、企業業績の底打ち・回復局面入りのタイミングが少々後ズレする程度ではないかということだ。
こうした企業特有の要因ではなく、マクロ経済動向に関する全体要因で連れ安している銘柄が多い市況時こそ、本当の意味で投資チャンスの時であるとも考えられる。とりわけ、このような局面においては、直近の業績動向に裏打ちされた強靭なファンダメンタルズをもつ銘柄がより一層強さを発揮すると予想される。具体的には、通期ベースと四半期ベースで揃って直近2、3期において増収増益を確保しており、かつ、そのモメンタム(伸び率)に陰りが見えないものが良いだろう。
また、5GやAI(人工知能)、IoTといった趨勢的なトレンドから今後本格的な需要増大が改めて見込まれる半導体関連セクターの有望性についても、今回の新型コロナウイルスの一件で完全に瓦解するというのは考えすぎともいえよう。こうした新型コロナウイルスの問題が表面化する前に有望視されたセクターや個別銘柄については、従来と変わらず強気スタンスで臨み、関連のニュースフローで下落した際には、押し目買いの好機と捉えていきたいところだ。
提供:フィスコ社